第28話 妖怪からの依頼 その3
「ほ、本当だっただか……まだ信じられないベ……」
「で?私に何の用なの?」
いつきが探していた魔法少女だと分かって、たぬ吉はようやく彼の抱えている事情を話し始めた。
「話すと長いんじゃが……」
たぬ吉の話によると……
ある日夜に夢を見ていると突然その夢が悪夢に変わった。
次の日になると自分が夢を見ている間その体を誰かが乗っとり悪事を働いているらしい事を告げられる。
まさか2日続けて悪夢を見る事はあるまいと次の日も何も対策せずに寝ているとまさかの2日連続で悪夢を見る。
その次も暴れたらしいのに記憶が全然ない。
これはきっと夢のせいだと占いオババにどうしたら良いか話を聞きにいく。
オババは一言その呪いは魔法少女にしか解けないと告げる。
魔法少女の噂を頼りにこの街にやって来たものの、眠らないように徹夜していたのが仇になってつい寝てしまった。
気がついたらいつきに助けられていた。
――と、言う事らしい。
「そんな訳でオラは困っているんだべさ」
たぬ吉の話をウンウンとうなずいて聞いていたいつきは、話の途中でふと思いついた事を口に出した。
「ところでさ、たぬ吉って妖怪?それとも普通の狸?」
「なんで急にそんな話をするべさ?」
急に全然違う話を振られてたぬ吉はちょっと困ってしまった。そこでこの話をした理由をいつきは彼に説明する。
「いや、妖怪だったらさ、忍者に狙われるから注意して欲しいって思って」
「忍者!奴らに会ったのけ?」
「うん、ちょっと前に」
忍者と聞いてたぬ吉の顔は硬直する。この様子から見てやはり何か心当たりがありそうだった。そしてたぬ吉は言葉を続ける。
「オラも気をつけているんだべ。でもあいつら、依頼があって妖怪退治してるから、悪さとかしない限り結構大丈夫なんだべ」
「ああ、依頼のない妖怪は忍者の退治対象外なんだ。って、やっぱりたぬ吉って妖怪なんだね」
誘導尋問みたいな形になってしまったけれど、やはり化け狸のカテゴリは妖怪になるようだ。そして当然のように忍者の事は知っていた。この事からみて、妖怪の中じゃ忍者ってかなり名の知れた存在らしい。
ただ、片っ端から妖怪を退治しているのではなく、飽くまでも依頼があった時にその妖怪だけ選んで退治しているので、その対象にならない限りはそんなに危険な存在ではないとの事。
この話を聞いていつきは前に会った忍者の事を思い出して感心していた。
「その確認って必要なの?」
この一連のやり取りを聞いていたヴェルノは彼女にツッコミを入れる。
「いやまあ、ちょっと気になっただけ」
彼からのツッコミを受けていつきはその行為をただ自分の好奇心を満たす為にしたと白状した。この会話を聞いていたたぬ吉ははっと気付いて話を戻す。
「そうじゃ!話を戻すが、何とかお願いするだ!この呪いを……」
彼に真剣にお願いされたいつきは困ってしまった。いくら占い師に言われたからってこんな事自分の手に負えるかどうかも分からない。そこで彼女はヴェルノにお伺いを立ててみた。
「そんな事急に言われても……出来れば何とかしたいけど……べるの、これどうにか出来るの?」
「どうにか出来れば実行するつもり?リスクは結構大きいよ?」
ヴェルノから返って来た答えは、リスクはあるものの可能だと言う含みをもたせたものだった。この返事を聞いた彼女は思わず聞き返す。
「え?出来るの?」
「やっぱり何とか出来るだか!是非お願いするだ!このままじゃその内オラ間違いを犯してしまうだ!時間の問題なんだべ!」
たぬ吉はヴェルノの返事を聞いて、ただひたすらに2人にお願いしていた。土下座をして何度も頭を床に打ち付ける仕草に彼の必死さが伝わってくる。
やる気になっているいつきの顔を見たヴェルノは、彼女にこの方法のリスクを説明した。
「多分その呪いの正体は夢の中に入り込んだ悪魔だよ。追い出すには夢の中に入らないといけない……。夢の中の悪魔、夢魔は厄介な相手だぞ」
「もちろんべるのも協力してくれるんだよね?」
リスクの話をしたヴェルノに対していつきはニッコは笑うと彼に作戦の協力を求めて来る。
しかしヴェルノから返って来た答えは彼女の機嫌を損ねるのに十分なものだった。
「何でこんな見ず知らずの狸相手に……」
この彼の態度にカチーンと来たいつきは再度ヴェルノにお願いをする。今度は念入りにひどく感情を込めて。
「し・て・く・れ・る・ん・だ・よ・ね!」
この恐ろしいほどの彼女の迫力にヴェルノはビビった。後で何をされるか分からない恐怖すら覚えていた。なので彼も渋々彼女に協力する事になった。
「わ、分かったよ……でも今すぐは無理だね。夢魔が活動する夜中にならないと」
「昼寝じゃダメなの?」
そう、この会話はたぬ吉が目覚めた昼間に行われていた。寝ている間に悪夢を見ると言うたぬ吉の言葉から、寝ればいつでも良いと思っていたいつきはヴェルノから語られたその条件を聞いてちょっとがっかりしていた。
「ただ眠っていれば悪夢を見る訳じゃない。条件があるんだよ」
「へぇ~。じゃあ実行は夜になってからだね!」
作戦遂行は夜と言う事で、ここからは雑談タイムに。たぬ吉から妖怪の話を聞いたり、ヴェルノから魔界の事を聞いたりして色々と話をしている内に時間はあっと言う間に過ぎていく。話のネタがなくなったら、決戦は夜と言う事でいつきはベッドに寝っ転がって眠ってしまった。
彼女が昼寝から目覚めると辺りはすっかり暗くなっていた。ヴェルノから悪夢退治は実時間の数分程度で終わるはずと言う言葉を信じて、隣で寝ていた彼を強制的に起こしてすぐに夢魔退治の準備を始める。たぬ吉も流れで一緒に寝てしまっていたものの、今のところ暴れ始める気配はまだなかった。
「よし、行こう、悪夢退治!」
「後悔しても知らないからね!」
ヴェルノはそう言うといつきに魔法をかける。他人の夢の中に入る魔法だ。この魔法にかかったいつきはたぬ吉の頭の中にスルッと吸い込まれていった。
「うわぁ~!」
ぐるぐると螺旋のウォータースライダーを滑るように2人はたぬ吉の意識の中に潜り込んでいく。その不思議な感覚はちょっと癖になりそうな不思議な気持ちの良さだった。
「結構スリル満点だったね」
見事無事にたぬきちの夢の中に入り込んだいつきがヴェルノに感想を話していると、彼女達の前に先客が現れた。
「何だお前らは」
そう、それはたぬ吉の夢の中に潜んでいた夢魔だった。夢魔は全身トゲトゲの針ネズミのような姿をしていた。その体から突き出している針は触ったら痛そうな程に尖っていて、そして磨かれたように光っている。夢魔自身の大きさは大型犬くらいの大きさだ。いきなり本命の夢魔が目の前に現れていつきは驚いた。
この余りの急展開に彼女はとぼけたようにヴェルノに話しかける。
「いきなり出会っちゃった」
「ま、そう言う風に調整したからね。無駄な時間は過ごしたくないし」
ヴェルノによると最初から夢魔の前に自分達が現れるように夢に入る時に調整していたらしい。余分な手間が省けていつきは感心していた。
しかし夢魔退治と言っても具体的には一体どうすればいいんだろう?
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