第59話 プロのお仕事 その4

「そう言う大きなところは私のコネにはちょっと……普通の一般住宅の大工さんだよ」


 どうやら次のファルアの紹介したい人は大工さんらしい。自分の身の回りで大工さんの知り合いのいないマールは彼女がどこで大工さんと知り合ったのか、その繋がりが気になってそれを口にする。


「どこで知り合ったの?」


「実は、ご近所さんなんだ」


「ああ、そう言うアレね」


 確かに御近所さんなら知っていても不思議じゃないかも知れない。そう思ったマールはひとりうんうんとうなずいた。占いの館からその大工さんの仕事場まではちょっと距離があったけど、みんなで世間話をしていたらあっと言う間に現場に着いていた。


 そこでははちょうど新しい家を建てている最中だった。大工さんが一番大工らしく仕事をしている工程に立ち会う事が出来て4人はすっかり感動していた。

 家を建てている最中は危険なため周りに囲いが建てられていて、普通の人はそこから中には入れない。そこでその囲いの外で仕事の様子を眺めていると、4人に気付いた大工さんがマール達に声をかけて来た。


「お、来たね。そうかあ、君が社会見学のマールちゃんだね。話は聞いてるよ、仕事を見たいんだってね」


「よ、よろしくお願いします」


 どうやらここではファルアが事前に話を通していたらしく、今回の見学はスムーズに行われる。現場監督的な人が今やっている作業の説明をしてくれた。


「ほら、ああやって魔法で重い柱を動かして決まった位置に設置していくんだ」


 見ていると柱とか梁とか家を建てるのに必要な資材を魔法を使って慎重に正確に動かしている。魔法で物理的に物を動かすのを見て職人の匠の技をしっかりと4人は堪能した。特に普段家の建築の様子を見た事がないマールは初めてその様子を見た事で思いの外感動する。

 魔法技術に男女の差はなく、この現場では女性の姿も見受けられた。働く彼女達の姿は格好良く、こう言う仕事もありなのかもとマールは思った。


「家ってこうやって建てていくんですね」


「勉強になったかい?」


「はい、とても」


 安全に気を付けて作業をしているとは言え、いつ何が起こるか分からない現場でもあるので、ある程度見学した後、4人は大工さんにお礼を言ってこの建築現場を後にする。取り敢えず大通りに出た後、ファルアが次の場所へと歩き出した。


「じゃ、次に行こうか」


「今度はどんな知り合い?」


 マールが次に行く場所の質問をすると、ゆんも便乗して質問を口にする。


「今度もご近所さんかな」


「考えたら私達の知り合いで仕事をしているってご近所か血縁関係の知り合いくらいしかいないよね」


 この質問を聞いたマールはその質問について感じた事をつぶやいた。2人の意見を黙って聞いていたファルアはタイミングを見計らって返事を返す。


「そりゃそうだよ。で、今度は探索魔法の人」


「探索魔法?人を探すの?」


 探索魔法と言う聞きなれない言葉にマールは思わず聞き返した。するとファルアは得意げにその魔法についてのうんちくを語り始める。


「人も物も探すよ。なくしものを見つけるプロなんだな」


「ほおお、すごい」


「ただ、その人はひとりで仕事してるからいつも事務所にいるとは限らないんだけどね」


 このファルアの言葉にマールは驚きの色を隠せなかった。


「ひとりで仕事!そう言うのもあるんだ!」


「才能と行動力があればひとりでも仕事は出来るんだよ」


「私、そう言うのでもいいかも」


 普段からインドア派の彼女は団体行動があんまり得意ではない。だからこそひとりでも仕事が出来ると言う現実を知って胸を躍らせる。興奮している彼女を横目に見ながらファルアは現実の厳しさを伝えるのも忘れてはいなかった。


「でもひとりも大変みたいだよ、何せ全部やらないといけないからね。受付から営業から、勿論その仕事もだし、書類も作ってお金の管理もして……」


「うわあ……大変そう」


 ひとりで仕事をすると言う事は全てひとりでこなさなければいけない。自由であるが故に全ての作業をひとりでこなすと言うそのハードルは中々に高いように今のマールには聞こえていた。

 この探索魔法の仕事の人の事務所は少し郊外にあったのでまたしても20分位歩いたものの、4人が話しているとこれもあっと言う間だった。


「あ、ごめん、仕事に出てる」


「ちょっとファルア!ちゃんと事前にアポ取ってたの?」


 事務所まで来てドアを開けようとしたら鍵がかかっていたので、ファルアはこの事務所の主が仕事に出ている事を確信する。その状況に対してすぐにゆんが不機嫌になった。このクレームに対してファルアは事情を説明する。


「話はしたけど、仕事が入ったらそっちを優先するって言われてたんだよ」


「使えないなあ!」


 彼女の話を聞いてもすぐに納得出来ないゆんは更に不満を口にする。この事務所に来るまで長い距離を歩かされた事で気持ちの高ぶりもあるのだろう。

 それにしても、だからってここで一悶着あってはあまり気分の良いものではない。マールは何とか言い争いで済んでいる内にこの騒ぎを止めようと、2人の間に立って口を出した。


「ちょ、こんな所で喧嘩しないで!」


 それから2人はマールとなおのなだめすかし作戦で何とか殴り合いの喧嘩に発展する事なく事態は収集し、次の仕事見学の場へと向かう事となった。


「気を取り直して次に行こうか。私からの最後の紹介のこの仕事は、面白いよ」


「何々?もったいぶらないで教えてよ」


 ファルアの自ら面白いと口にしてハードルを上げていくスタイルに、マールの好奇心は高まっていく。期待のキラキラした瞳を受けて気分の良くなった彼女は、満を持してみんなにその仕事の名前を発表する。


「魔法芸術家だよ!」


「何それ!楽しそう!」


 魔法芸術家!その魅惑の言葉の響きにマールの好奇心の針は限界値を振り切った。ゆんもマールの言葉に便乗して騒ぎ始める。


「売れてる人なの?代表作は?」


 この2人の興奮した態度を目にしたファルアは、申し訳なさそうに事実を口にする。


「ごめん、実はそんなに売れてないんだ。でも作品は色々あるから見ていて楽しいと思う」


「それってさあ、あの赤い屋根の偏屈じいさんじゃないの?」


 彼女の返事にピンと来たゆんは、ファルアが紹介しようとしている魔法芸術家の正体を推測する。


「ゆんも知ってるの?」


「マールも知らない?小学生の頃にほら、学校に作品を見せに来てたじゃない」


「あ、覚えてる覚えてる。ファルア、あのおじいさんなの?」


 2人に魔法芸術家の正体を追求され、観念したファルアは諦めたように空を見上げるとぽつりと口を開いた。


「うーん、そっか、2人共覚えていたかあ」


「私達の家の近所で魔法芸術家って言ったらあのおじいさんしかいないもん」


 ファルアのつぶやきにゆんが当然と言わんばかりにツッコミを入れる。この言葉を受けて、マールはさりげなくファルアをフォローした。


「私はおじいさんに見覚えはあるけど、近所に住んでいるとかは知らなかったよ!」


「マール、ありがと。ほら、見えて来た、あそこだよ」

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