第57話 プロのお仕事 その2

「まぁね~」


 この質問にマールが苦笑いをしながら気楽に答えると、ファルアは更に深刻な顔になって質問を続ける。


「聞いたよ、謎の病気だって」


「ほっといたら死んでしまう病気って話だけど、よく無事だったね」


 ファルアの言葉の続いてゆんもまた似たような事を口走る。変な噂が広がっていると感じたマールは間違いを正そうとすぐにその言葉を否定した。


「ち、違うよ!何でそんな話に」


「え?違うの?」


 この言葉を聞いたファルアがきょとんとした顔になって聞き返す。それからすぐにその噂の理由を口にした。


「だって感染が危険だから私達を近付けずに特別医の先生を呼んだんでしょ……」


「特別医?なおちゃんの保護者の人に見てもらっただけだけど、え?」


 ファルアの言葉を聞いたマールは混乱する。この時まで彼女はなおの保護者の先生がそんな特別なお医者さんだと言う事を全然知らなかったんだ。

 全くピンと来ていないマールを見てファルアはその事実を指摘する。


「知らないの?その人がそうなんだよ」


「う、嘘お?」


 いきなりその事実を知らされてもすぐに納得出来る訳もなく……マールはファルアの言葉を信じられないでいた。この会話を隣でずっと聞いていたなおはここでようやく口を開く。


「本当です。あ、でもマールちゃんが重い病気って言うのは本当じゃないです」


「なおちゃん……」


 なお本人から保護者が特別医だと言う事を知らされて、マールもその事をやっと受け入れる。それから噂の原因を作ってしまったのが自分の行為だと自覚した彼女はすぐにマールに謝った。


「ごめんなさい、変な噂が広がってしまって」


「そこはいいよ、噂はすぐに消えるものだからさ。しかし知らなかったな、なおちゃんの保護者の人がそんなすごい人だったなんて」


「普段は忙しくてあまり会話も出来ないんですけど、昨日はたまたま時間が空いていて……。私が話をしたらすぐに興味を持ってくれたんです」


 なおはマールに昨日の経緯を詳しく説明する。こうして誤解も解けた所で改めてファルアはマールに質問した。


「で、本当の原因は何だったの?」


「そ、それは……」


 改めて質問された所で、この理由はちょっと答え辛いものがあった。ただ、ずっと話さないでいるのも余計怪しまれて別の噂を流されかねない。意を決したマールはみんなを集めて他の誰にも聞こえないくらいの小声で病気の理由をみんなにだけこっそり素直に話した。


 そうしてその独創的な理由を聞いたゆんが大袈裟に驚く。


「えー?力の使い道を決められないだけで?」


「ちょ、声が大きいよ!でもみんなすぐに決めるものなのかな?」


「まぁ、私はすぐに決めたけどね」


 すぐに決めた人に聞いてもその答えは参考にならない。そのゆんの答えにマールが困っているとファルアが彼女の知り合いの事例を話してくれた。


「そう言えば、私の親戚のお姉さんは仕事が決まってから決めていたよ」


「だよね、今決められていなくても別に遅いって訳でもないよね」


 その話を聞いたマールはホッと胸をなでおろす。力を継承してもその力をどう使うかに特別な条件は発生しない。それは継承した力と言うのは原則上、そう言う縛りのあるものではないからだ。

 ただし、どんなものにも例外はある。マールの場合はその例外に当たるのではないかとゆんは自説を展開する。


「マールは受け継いだ力が大きいからなぁ。それでそうなるんじゃないの?」


「じゃあさ、今の内に色んな魔法職業の人を訪ねて参考にしようよ。そうしたら決める時に悩まなくて済むかも」


 ゆんの話を聞いたファルアは便乗してマールにプロの人の仕事っぷりを見てみないかと提案する。確かに漠然としている状態より何か参考に出来るものがあった方がいざ力を何に使うか決める時に役に立つかも知れない。マールは魔法を仕事に活かす大人の人の姿を想像して口を開いた。


「プロの人達かぁ。やっぱすごいんだろうね」


「私の知り合いの何人かに話をしてみるよ」


「え?ファルアってそんな顔広いの?」


 いきなり話が具体的になってマールは目を丸くする。まだ13歳で大人の知り合いなんて普通はあんまりいないはず。マールに関して言えば興味すら抱いていない事もあって父親の仕事すらよく知らないのだ。ファルアが大人の知り合いがいると言っただけでマールは彼女を尊敬の眼差しで見てしまっていた。

 そこで対抗心を燃やさないゆんではなく、彼女もまたマールに声をかける。


「わ、私の方だって負けてないんだからね!」


「ゆんまで!別にそこで対抗意識とか燃やさなくていいから~」


 何だか話が大きくなりそうな気がしたマールはどうにかこの騒ぎを収めようと声を上げる。

 けれど、一度動き出した話は一言程度で止まる訳もなく、逆にマールは2人にたしなめられてしまう。


「黙って任しときなさい!」


「沢山のプロを紹介してあげるんだから!」


「は、はぁ~い……」


 結局2人に押し切られて、マールは次の休みの日に個人社会見学をする羽目となってしまった。ファルアもゆんもやる気満々でもう手がつけられそうになく、マールはもう2人に全てを任せてその流れに乗る事にする。その怒涛の会話の展開に一緒にいたなおも苦笑いをするばかりだった。


 放課後、家に帰ったマールはその時口に出来なかった言葉を無関係な僕に向かって吐き出した。


「何だかなぁ~」


「何落ち込んでるんだよ」


「だって話が訳分からない方向に転んで行っちゃったんだよー」


 自分でコントロール出来なかった話の結末に彼女はほとほと困っているみたいで、喋るだけ喋った後、僕に泣きついて来る。


「いいじゃん。2人の好意を受け取っておきなよ、折角なんだし」


「とんちゃんは他人事だから気楽でいいよね~」


 僕が突き放したように答えると、マールから憎まれ口が返って来た。僕は話を勧めてくれた2人の気持ちも分かるから、使い魔としての自分の気持ちを素直に口にする。


「将来の事、力の使い道、大事な事だよ。いつまでも子供じゃいられないんだ」


「それは分かってるけど……。無理やり決めさせられるみたいで嫌なんだよ~」


「2人はマールにプロの仕事を見学させてくれるだけだよ、考え過ぎ」


 僕が必死に説得していると自分の意見が受け入れられなかったのが不服なのか、彼女は不機嫌になってそれから一切口を聞いてくれなかった。


「もういいよ。寝る!」


「しょうがないなぁ……」



 次の休日、マール達は予め決めていた待ち合わせの公園に集まっていた。そこにはマールにファルアにゆん、それと何故かなおも来ていた。この4人の中で一番最後に到着したのは勿論マールで、彼女の姿を目にしたファルアは早速軽口を叩く。


「ふふ、逃げずに来たわね」


「え、逃げても良かったんだ」


「冗談!帰らないで!」


 そんなお約束のようなやり取りをしているとそこに本来は呼んでいないはずのなおを見つけ、マールは目を丸くする。


「なおちゃんも来たんだ。無理して付き合わなくていいよ」


「いえ、私も興味あったんです。私、魔法についてあんまり知らないから」


「そっか、じゃあ一緒に行こう」

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