第36話 妖精を探して その2

 全員参加が決まった事でマールはテンションMAXで叫ぶのだった。


「よーし!次の休みは妖精探しだー!」


 こうしてマール達の次の休日の予定は決まった。生で妖精が見られるかも知らないと言う期待は彼女の精神を限りなく高揚させている。

 学校が終わって帰宅してもそのテンションのままの彼女に僕は話しかけた。


「で、本当に妖精がいると思ってる?」


「いやぁ、実際に目にしない事にはねぇ。私その噂を直接聞いた訳じゃないし」


 マールはやっぱりその噂の信憑性自体には不審を持っているみたいだった。そこでどこまでこの噂を検証したのか聞いてみる。


「ファルアは誰から聞いたって?」


「うん、近所に住む情報通のおにーちゃんが話しているのを聞いたんだって。ただ、この時点でもう結構な人の間で話題にはなっていたみたい」


 マールの話によるとファルアが知った時点ですでにその噂は広がっていたと言う事みたいだった。広がりきった噂の元を辿るのは骨が折れるし、きっとそれ以上の追求を彼女はしていないのだろうとその話を聞いた僕は思った。

 ここは使い魔の腕の見せ所だね。それで僕はマールに提案する。


「僕らの使い魔ネットワークでも聞いてみるよ」


 使い魔ネットワークとは、使い魔同士で情報を共有しているネットワークの事。全ての魔法使いには使い魔がいる。彼らの情報は多岐に渡り、時には人間の情報より詳しい情報が集まるくらいだった。このネットワークを駆使すればきっと妖精についても詳しく知る事が出来るはずだ。


 この僕の発言にマールはちょっと驚いた顔をして反応する。


「え?とんちゃんも知らなかったの?」


「いや、最近顔を出してなかったんだ」


 そう、最近の僕は家を出ていない。だから使い魔同士の話は全然していなかったんだ。使い魔ネットワークは駆使すればそれなりに便利だけど、使い魔同士の付き合いも平行してこなさないといけない。僕はそれが煩わしかったんだよね。時には面倒事に巻き込まれる事だってあるし。

 でも今回は詳細な話を聞いた方が良さそうだなと僕の直感が囁いていた。動きべき時は動かないといけないよね、うん。


 僕が最近使い魔同士の付き合いをサボっていると聞いたマールはちょっと呆れたようだった。


「なーんだ。使い魔ネットの情報の精度は高いから今度ちゃんと聞いてみてね」


「了解。じゃあ僕の報告を待ってから動く?」


 そんな事はないと思うけど一応は聞いてみる。マールはこの質問にちょっとだけ考えて、それからニコっと笑って返事を返した。


「いや、もう決めちゃったから森には行くよ。別に妖精が見つからなくてもいいしね」


「そっか、分かった。じゃあ吉報を期待してて」


 次の日、みんなが集まった妖精談義の中で話は使い魔の事になった。マールの話を聞いたファルアが口を開く。


「そっか、とんちゃんは知らなかったんだ」


「そっちのパンは何か掴んでた?」


「掴んではいたけど……噂と同じだったよ」


 僕と違ってファルアの使い魔のパンは妖精の噂を事前に掴んでいたらしい。

 けれどその精度はそんなに詳しいものではなかったみたいだ。このファルアの報告にマールは少しがっかりしていた。


「そうなんだ。使い魔ネットでも把握してないのかあ……」


「って言うかそこまで興味持ってないんだよ。使い魔達」


 がっかりするマールに情報が集まらない理由をファルアは口にする。興味を持っていたらきっともっと詳しく知ろうとするはず、これはそこから逆算しての推論だった。その説を踏まえた上で更にファルアは言葉を続ける。


「この島に妖精がいたら大発見なのにねぇ」


 そう言いながらため息を漏らすファルアにマールは使い魔が乗り気にならない理由を想像してそれを口にした。


「そもそも妖精って別に何かしてくれる訳でもないし、言っちゃアレだけどただ珍しいってだけじゃん。だからじゃないかな?」


「マールは妖精についてその程度の認識なんだ」


 その言葉にファルアが鋭い言葉を投げかける。まさかそんな反応が返ってくると思わなかったマールは思わずドキッとした。


「えっ?」


「大体の妖精は無害だし人間に友好なのもいるけど、中にはいたずら好きなのや人に危害を加えるヒドイのもいるんだよ」


 妖精の中に人に迷惑をかける厄介なのがいるなんて知らなかったマールは、このファルアの指摘に関心していた。


「そうなの?知らなかった。この島で見かけたって言うのがどんなタイプの妖精か分からないけど、温和な妖精だといいよね」


 そこまで話して、マールは何か知っているかも知れない人物を思い出す。


「あ、そうだ。しずるなら何か知ってるかも?」


 しずるはこの島の警備担当だし、一般人が知らない機密めいた事にも触れている。妖精の話だってきっと耳に届いている事だろう。そんな訳でマール達4人はぞろぞろとみんなで彼女の机に向かう。

 妖精の話を振られた彼女は突然の質問にも態度を崩さずに冷静に話を始める。


「妖精?ああ、噂になってるのは知ってるよ。でもまだ私も見た事はないなぁ」


「やっぱしずるでも知らないかあ」


 しずるに聞けば詳しい事が分かると思っていたマールは彼女からのこの返答にガックリと肩を下ろしていた。残念がっている様子を見たしずるは気を使って彼女達に向けて言葉を返す。


「本格的に調べてはいないからね。今は他の事で忙しいから」


 しずるの反応に最初は落胆していたマールだったけど、何か名案を閃いたらしくすぐにそれを彼女に投げかける。


「ねぇ、この島で出た妖精が悪い妖精だったらきっと動いているよね?」


「え?ああ……、うん、多分」


 興奮して身を乗り出して質問をするマールに流石のしずるも少し戸惑いながら返事を返した。この返事を聞いたマールは我が意を得たりとドヤ顔になって宣言する。


「ほら、特に苦情とかもないみたいだし、これはいい妖精が出たって事だよ。少なくとも悪い妖精じゃない」


「ま、今のところその考えで良さそうだね」


 マールの言いたい事が分かったファルアはそう言って笑う。その話の流れでゆんも口を開いた。


「妖精と仲良くなれたらいいよね」


「次の休みの日が楽しみですね」


 最後になおがそう言って話をまとめてこの談義は終わったのだった。


 その日の放課後、家に帰って来たマールは早速僕に話しかけて来た。


「どうだった?使い魔ネット」


「うーん、聞いてみたけど確かに噂自体は流れているね。ただし、実際に妖精を見たって言う仲間はいないんだよ。これってさ……」


「いいのいいの。いるかも知れない、って言うのがいいんだよ」


 僕の報告にマールは納得しているみたいだった。って言うか逆に詳しい情報は必要ないくらいの勢いで。この反応を見た僕は思わず彼女に言うのだった。


「マール……吹っ切れてるね」


「ああ、次の休みの日が待ち遠しいなぁ~」


 休みの日の当日、現地集合と言う事でマール達はコンロンの森の入口で待ち合わせをしていた。アウトドアなのでそれぞれが汚れてもいいようなワイルドな服装で集まっている。

 待ち合わせの時間10分前にはもう4人揃っちゃっていたので時間を前倒しに森に入る事にした。

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