妖精を探して

第35話 妖精を探して その1

 その日、マールは寝坊して朝みんなと一緒に登校する事が出来なかった。そんな訳で遅れてひとりで教室に入ると着いて早々ファルアが彼女に話しかけて来た。


「ねぇ、聞いた?」


「何?」


 突然話しかけられて困惑するマールは自分の席に座りながら聞き返す。すると、まるでそれを知らないなんてんてとんでもないと言う風な顔で、ファルアはその質問に言葉を返した。


「え、知らないの?」


「だから、何!」


 質問を質問で返されたマールはちょっと苛ついた。なんでそんなに勿体つけているのだろうと。普段のファルアはそんな性格の悪い子じゃなかったので、それもまた不思議に感じていた。そんな彼女の気持ちに気付かないのか、更にファルアはマールに挑発的な言葉を続ける。


「マールさんは情報に疎いですなあ」


「だから聞いているんじゃないの!」


 マールはこのファルアの態度についにキレてしまった。その様子を見ていたゆんが見かねて彼女に注意する。


「いじわるしないで言いなよ」


「うーん、もうちょい引っ張りたいけど」


「ファルア……」


 ゆんもまたファルアのこの言動に呆れていた。あんまりグダグダになるのも面倒だと思ったゆんが彼女の代わりにマールに説明する。


「全く……、妖精の話でしょ」


「妖精って……この島にいたっけ?」


 妖精と言う言葉を聞いたマールは自分の記憶を総動員する。確かこの島に妖精がいるなんて話は今までなかったはずだと。彼女が考えを巡らせていると、ファルアが自分の得た妖精情報を得意気に話し始めた。


「最近目撃情報が出て来ているみたいなんだよ」


「この島に妖精の森が?確か妖精って森以外に見つかってないよね?」


 妖精は森の住人。そのくらいはマールでも基礎知識として知っている。ただ、今までそんな話を聞いた事のなかったマールはファルアの話をちょっと信じきれないでいた。3人で話しているとその話に興味を持ったなおが近付いて来た。


「妖精って何ですか?」


 妖精について何の知識もない彼女にファルアが説明する。


「妖精は妖精だよ。あ、なおは見た事ないんだ?」


「あ、はい」


 そのやり取りを聞いていたマールが妖精についてもう少し具体的な説明をする。


「小さいのやら大きいのやら大きさは種族によって違うけど、簡単に言うと羽の生えた霊的な生き物の事だよ」


「霊的……私にも見えるでしょうか?」


「見える見える。魔法が使えるなら当たり前に見えるよ」


 妖精が見えるかどうか不安がるなおにマールは勇気付けるように肯定する言葉を告げる。その言葉に安心した彼女はみんなに質問する。


「そうなんですか、それは見てみたいです。皆さんは見た事が?」


「私はあるよ」


 この質問に即答したのがファルアだった。この答えに対し、逆にマールが驚いていた。


「え?テレビとかででしょ?」


「や、ちゃんとこの目で。前に本島に旅行に行った時にね。あっちじゃそこまで珍しいものじゃないから」


「嘘?羨ましい!やっぱ本島は何もかもが違うねぇ~」


 そう、実はマールは生で妖精を見た事がないんだ。だからファルアの話を聞いた彼女はすごく羨ましがっていた。マールはこの島を出た事がないからね。妖精自体はテレビでたまに放送されるからそれで知っているって感じ。


 テレビで放送されるくらいに本島では妖精が普通に見られる当たり前の存在なんだ。本島では妖精のいる森が公開されていて、そこに行けば誰でも妖精が見られるようになっている……らしい。僕も島を出た事がないから妖精は話でしか知らないんだけど。

 羨ましがる彼女を見てファルアは少し得意気に口を開く。


「マールは生で妖精見た事ないんだ?」


「だってしょうがないじゃん、この島に妖精はいないって話だったんだもん」


 上から目線のファルアにマールは逆ギレ気味に返していた。このやり取りを聞いたなおは妖精の噂にみんなが興奮している理由を理解する。


「ああ、だから妖精の話題で騒ぎになっているんですね」


「でも本当なの?この島で妖精って」


 マールは改めてこの話の信憑性をすでに噂を聞いていた2人に尋ねる。その質問にはファルアが答えた。


「騒がれてるのは間違いないよ、見た人がいるって……」


「誰が見たの?」


「そこはよく分からないんだよね。見た人がいるって言うだけの噂だから」


 ちょっと詳しく突っ込むと流石のファルアも言葉に詰まる。どうやら流れてきた噂を特に検証もせずに鵜呑みにしているだけらしい。

 この返事を聞いたマールはその話の胡散臭さから噂自体を素直に信じる事が出来なかった。


「何か怪しいなぁ。眉唾だよそれ」


 そうして一旦は否定したものの、どうしてそう言う噂が流れたのか気になったマールは、その根拠を辿る為に集まっているみんなを前にひとつの提案をする。


「あ!じゃあさ、探しに行こうよ」


「言うと思った」


 この提案を聞いたゆんが苦笑いを浮かべてツッコミを入れる。彼女はマールとの付き合いが長いから当然の反応だ。それに対してマールの探すと言う言葉に反応したのはまだ妖精の事をよく知らないなおだった。


「妖精って、森にしかいないんですか?」


「うん、今のところ森でしか見つかってないんだ。もしかしたら他でもいるのかも知れないけどね」


 この質問にマールが返答する。何だかんだ言って彼女も妖精がいるなら見てみたいと思っていて、それなりの知識は持っている。そしてこの質問に答えた流れでマールは妖精探しのプランを練り始めた。


「て、事で、探すとしたらやっぱり森しかないよね。この島で森と言ったら……」


 マールが妖精のいそうな森を考え始めた時、彼女が結論を言う間にファルアがドヤ顔で口を挟む。


「一番妖精がいそうなのはコンロンの森かな?あそこだったらいるかも」


 コンロンの森とは、マールの住むこの島で一番大きな森だった。深い森で多くの野生動物が暮らしており、その森なら妖精がいても不思議じゃない雰囲気を醸し出している。

 けれどそう言う森の割に整備は進んでおり、森に着くまでの道路も広く作られていて容易に行き来出来るんだ。そしてその森の中もしっかり見学ルートが作られていて、安全に森の中を見て回る事が出来る。


 そう、この島でも1,2を争う観光地がコンロンの森なんだ。ちなみにそう言う森なので森に入るのは入場料、この場合は入森料が発生するんだけどね。

 中学生の料金はひとり当たり大きなお菓子ひと袋分くらいなので、そんなに懐が痛む程でもないよ。


 場所の選定が出来たところで、改めてマールはみんなに質問してみた。


「みんなで行く?予定があるなら別にいいけど」


「私、行きたいです」


 この提案に最初に乗って来たのは意外にもなおだった。どうやら妖精にすごく興味を持ったらしい。


「はい、なおちゃん参戦けってーい!」


 なおの参加を聞いたマールは嬉しくなって景気よくその要望を受け入れる。出遅れた感じになってしまい焦ったのか、その後ですぐにゆんが参加を表明する。


「私も行くよ!」


「言い出しっぺが行かない訳にはいかんでしょ」


 ゆんに続いてファルアも当然のようにこの妖精探索に名乗りを上げた。

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