ヒカリ-ト-カゲ
阿纏 剣
▼プロローグ▼
皆は「死」という言葉を幾度も聞くことがあるだろう。ニュース、医者、あるいは本人の口から聞かされてそれを知り、あるいはそれを目の当たりにすることもあるだろう。それに絶望するものもおれば、逆に幸福と捉えるものもいる。
人間は誰しも必ず死を遂げる。それが何年、何十年も先になるか、あるいは明日になるか。そんな中、人間は常に死と隣合わせの人生を日常の如く過ごしている。
・ ・ ・ ・ ・ ・ ・
だが、「俺」には関係の無い話だ。
突然だが、皆は「不死身」という言葉を一度は聞いたことがあるだろう。簡単に説明をすれば「死なない、死ぬことがない」など、様々な訳が浮かび上がる。おそらく大半の人間がこれを望んでいるであろう。何故なら、それらは死を恐れているからだ。
巫山戯(ふざけ)た話だ。死なない人生ほど、つまらないものは無いだろうに……。
もう大体は気づいているのではと思っている。
察しの方はその通り、俺は「不死身」だ。
母親の腹から生まれてまだ数ヶ月、四足歩行もままならない時だった。その時に俺の両親は医者からある一言を告げられた。
「この子は人間じゃない」…と。
当然ながら、両親は唖然とその場に立ち伏せ、医者の言葉を理解できずにいた。そりゃそうだ。自分の息子がまるで化物扱いされてるかのように聞こえるのだから。
父が医者の胸座(むなぐら)を掴み、医者の言葉の意味を問う。母は父の怒りを抑えるかのように、自分の身体を使って父の身体を抱きしめ、医者から引き剥がそうとしていたそうだ。
暫くして、医者は答えた。
俺の左掌(ひだりてのひら) に〝生命線〟が存在しないという事を。
生命線は人間生まれしも持つ掌の皺(しわ)の一つ。よく手相占いで見られる皺のことだ。長さによって長生きするやら、早死するやらあるが……俺には「それ」がない。
生命線がないことが一体どういう意味を表しているのか。それは線の終わりが存在しない、つまり、死ぬという概念が存在しないことである。
線がないならそもそも始まりもない。だが、今こうして人に脚がついているのはどうして?
そう思う者も多々いる。そのことについてだが、それは俺も知らない。そもそも自分は生きているのか。それすらも疑問に感じてきているのだからだ。
医者が告げた一言から数年間、俺はとある施設に連れていかれ、白衣とマスクを着用し、髪が乱れぬようそれ全体を覆う帽子を被った大人達によって、実験として数々の〝殺害方法〟を受けてきた。
落下死、溺死、電気椅子、圧殺、銃殺、惨殺、撲殺、絞首、餓死、毒ガス等、齢数ヶ月の赤子にこのような殺害方法を使用したのだ。彼らの表情はまるで化物を殺すかのように嘲笑い、落ち果てていた。
だが俺は何事も無かったかのように、「生」きている。
そのせいで両親は気味悪がり、俺を近くの川に投げ捨てた。当然ながら死ぬことはなかった。
死にはしない。そんな理由で多くの人間から暴力や殺害を受けてきたが、不死身でも、普通の人間と変わらない部分がある。
殴られれば「痛い」。見捨てられれば「悲しい」。
俺にだって、「感覚」はある。
それを知らずに大人は…いや、「人間」は好き勝手に俺を弄り、罵り、痛めつける。
死にたくても死ねない。不死身だから。
俺から見た人生。それは正に〝地獄〟そのものだった……。
※
紹介が遅れたが、俺の名は「長門槻景」(ながとつきかげ)。不甲斐ないフリーターである。
趣味はコレクション。海外や国産の武具店から多くの武具を購入し、それを個室に飾って鑑賞することだ。レプリカ…ではない。正に本物の銃や武器を揃えているのだ。
そのせいか、よく人殺しの依頼を頼まれることが増えてきつつある。もちろんそんなものに興味はなく、そもそもコレクションを殺しの道具になどしたくない為、幾度も断っている。何より、人を痛めつけることがどれだけ醜いことか、〝自分が一番よく知っている〟からな。
・ ・
一通り教えてみたが、見ての通り、少し変わったオッサンだ。
そんなオッサンの日常は常に忙しく、武具店のバイトに向かっては給料を貰い、暮らしている。
そんな日常のような非日常を過ごしていく中、俺は1人の女性と出会った。
彼女の名は「朽網妃葵」(くさみひなた)。
白髪の長髪で整った顔、スレンダーな体型で雪原のごとく真っ白な肌。「白」という色がとても似合う女性だった。
何故女性がこのような店に訪れたのかという疑問を抱くことはなく、ただ彼女に見惚れてしまっていた。
多くの人間が恐れ、忌み嫌った俺が〝初めて〟恋に落ちた瞬間だった……。
ヒカリ-ト-カゲ 阿纏 剣 @Azumane0129
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