2-4. 屋根裏暮らし(5)

          *

「ま、とりあえず行ってみようよ」

 そんなユウキの言葉に背を押され、ショウたちは図書館へとやってきた。

 停戦後、この十数年の間にシュセン各地には図書館が増えていた。だが、まだまだ一般市民には縁のない場所だ。文字を読める人口はあまりにも少なく、利用者が限られてしまっていた。国は学力の底上げを図ったつもりだろうが、そもそも学校にも通えない人々にいきなり本を渡したところで効果は非常に薄かった。

 いや、もしかしたら全国民のためと称することで、実質的な上流層びいきに対する反発を抑える策略だったのかもしれない。

 今はもっぱら、地方の役人や首都入りを目指す中間層から上流層の若者たちの、勉強の場と化している。

 最近のシュセンの風潮からすると、戦前から存在していたヤエの図書館は珍しいものかもしれない。もともとは教会が書物を収集して人々に貸し出すといった形で存在していたのだが、教会の移転を機に正式に図書館として改築された。

 外観は教会のままだ。だが、一歩、中に足を踏み入れると、そこはまぎれもなく図書館だった。カーテンに覆われた窓は直射日光が差し込まぬよう配慮され、適度な明るさと室温が保たれている。また、天井の高さや窓の多さからは教会の名残が感じられた。

 書架しょかは入り口側から奥に向かって延びていた。複数の書架が並行して立ち並ぶ様は何とも言えない迫力があり、奥へ奥へと導かれているような錯覚にもおちいる。その最奥や入口の脇には、机や長椅子が用意され、読書や学習のためスペースがもうけられていた。

 ショウは棚の見出しを見ながら奥へと足を進める。黙って後ろを歩くユウキは図書館が珍しいようで絶えずきょろきょろとしていた。

 ショウは特殊能力についての本が集められている棚の前で足を止めた。シュセンは他国よりも特殊能力者が多い。その分研究資料も多く残されていた。

 ――ん?

 ショウはざっと背表紙をながめ、首をかしげる。そこには何やら違和感があった。

 収められているのは、特殊能力ごとの専門書や、特殊能力の種類をまとめた辞典、個人に焦点を当てた特殊能力者の伝記、各一族の文化史――などだった。それぞれ種類ごとにまとめられており、他分野の棚との違いもない。別段おかしなところはなかった。

 そのまましばらく本を手に取らずにじっと眺めていたが、結局、違和感の正体はわからなかった。

 ショウは気のせいだったかと首を振り、まず辞典へと手を伸ばす。これはシュセンが把握している特殊能力の一覧のようなものだ。突然変異などで生じた特殊能力に関しては網羅もうらしきれていない可能性もあるが、何代にも渡って続く、血によって受け継がれる特殊能力に関しては載っているはずだ。つまり、風捕りについても――。

「あれ?」

「どうしたの、ショウ」

「いや……風捕りの記載が見当たらないと思って」

「それ辞典? 特殊能力が全部載ってる本ってこと?」

「全部じゃないけど、大体は載ってる――はずなんだけどな」

 念のため、ショウが他に知っている『鳥使とりつかい』『うたうたい』『かた』『穴蔵造あなぐらづくり』といった特殊能力についても引いてみるが、それらはあっさりと見つかった。

「実家出てから見かけたことないけど、珍しい特殊能力だとは思ってなかったんだけどなぁ」

「身近にいたから気づかなかっただけかもね」

「ってことだよな」

 この分では他の資料を見たところで、載っているかどうかも怪しい。いくつかの本をめくりながらどうすべきかと考える。

 ――後は風土記とか歴史書とか、別分野から調べないといけないか。けど、風捕りと明確に書かれているとは限らないし、時間がかかるな……。

「なさそう?」

「あー、うん。ここにはな。まだ別の棚を見てみないとだけど……」

「んー、じゃあ飲食店とかで聞き込みしてこようか? ここにいても私役に立てないし」

 うっと答えに詰まる。

 正直、ユウキには目立つ行動をして欲しくないというのがショウの本音だった。それでさらに、風捕りについて嗅ぎまわっている人がいるなどという噂が広がったら最悪だ。ショウはマカベがあきらめたとは思っていない。極力、ユウキの存在は隠しておきたかった。

「駄目? 一応、考えはあるんだよ。普通の人に聞いても何も知らないかもしれないけど、特殊能力者なら知ってるかもと思って」

「ん? なんで?」

「特殊能力者同士って少し同族意識っぽいものがあるみたいでね。能力持ってない人と話すより多少口が軽くなるんだ」

「あぁ、なるほど。――じゃあ、今から行くか。ちょうど昼時だ」

 迷ったのは一瞬だった。ヤエについて間もない今ならまだ、多少目撃されても大丈夫だろう。事態が動くとしたら、あの手紙の効力が発揮されてからになるだろうとショウは計算していた。

 それに、聞き込みをする相手が特殊能力者だけなら、噂にしないでおいてくれる気がした。


 だが、ショウのそんな心配は無駄に終わった。聞き込みをする以前に、特殊能力者自体が見つけられなかったのだ。

 これは五十人に一人は特殊能力者だと言われるシュセンにおいて非常に珍しいことだった。

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