シミュ趣味レーション

来年から僕も高校生。不安だ。

ナヨナヨした自分を変えるために新しいことを始めたい気持ちもあるけれど、踏み出すのがすごく怖い。そんなある日、近くに住む博士が開発中の装置を見せてくれた。仮想空間で色々な趣味をシミュレーションできる装置とのこと。まさに僕が欲しかったものだと思ったので、実験台になることにした。装置から伸びるコードに繋がったヘルメットをかぶり、ゴーグルを付けて椅子に座る。試したいものは決めている。サッカー部だ。体育の成績がてんでダメダメの僕は「運動部に所属する」という選択肢を今まで一度も考えたことがなかった。気軽に体験できるのであれば、ぜひ一番メジャーだと思っているスポーツを試してみたいと思った。装置が動き始め、少し視界が点滅するな、と思うと同時に気づけば僕は、広いサッカーグラウンドに立っていた。


入部手続きを終えたサッカー部の歓迎会から始まるようだ。どうやらこの装置は過程を含めた全てをリアルに体験させてくれるらしい。同時期に入部した新人が横一列に並び自己紹介をする。皆背が高く、足も速そうな人ばかりだ。サッカーボールを蹴ってみる。思っている以上に上手く飛ばない。日が経ち、周りの新人がどんどん上手になる中、僕だけが置いて行かれている。それでも皆は、僕が思っていたより優しくしてくれた。見た目だけで勝手に住む世界が違うと思っていたけど、話してみたら案外すぐ打ち解けられた。部活帰りにみんなとコンビニに立ち寄りアイスを食べる、そんなサッカー以外のひと時も楽しかった。だんだん皆に合わせて今までにないほどの大きな声が出せたりして、自分自身の新しい扉が開かれていく感覚はすごく気持ちが良かった。サッカーの方も、ルールが分かってくるとできることは増えていき、ヘタなりに試合にも出られるようになってきた。サッカーの楽しさにどんどん惹かれている。永遠とも思える充実した時間にも最後の瞬間が訪れる。強豪相手に惜しくも負け引退することになったが、心はすごく爽やかで達成感に満ちていた。この3年間大変なこともあったけど、素晴らしい仲間たちと楽しくサッカーという趣味に打ち込めた。サッカーを始めて本当に良かった―――


 「―――といった3年間になる可能性がございます」


無機質な声で現実へと呼び戻される。シミュレーションが終わったらしい。僕は椅子に座ったままだった。もしサッカーをすれば、こんな経験ができるかもしれないのか。でも、できないかもしれない。そもそもあんなに楽しかったのは、シミュレーション世界で仲間に恵まれたからだ、実際に通うことになる高校には彼らはいない。それに、もう一度3年間頑張りきることができるのだろうか。急に自信がなくなってきた。やっぱり帰宅部になろう。

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