四 さなぎが準備を始め、

第27話

 なるほど。

 まず第一に思い浮かべたのは、たった四文字のことだった。確かに、今、自分が一度死んだことを自覚している。

 いや、正確に言うなれば、前々回の最後も、死だったのだろうと、今なら意識が回った。何事も経験を積まなければ、理解出来ないものだ。

 スマートフォンを拾い上げると、日時を確認する。間違いなく、今は終業式の朝だった。ぼんやりと眺め続けているとバイブレーションを起こし、メールの受信を知らせる。木村雪乃からだった。今回も、連絡先は交換していたらしい。

「まさかあんなことになるなんて。どうしたって私は死を免れないの?」

 哀れなプリンセスへ送る文面を考えているうちに、指は、そこから離れた。

 自分は今、三度目の今日を迎えた。初回に関しては、初回であるからして例外として、今ようやく自覚に至った二回目のループのことを、思い出す。

 自分が何にデジャヴを感じ、何には感じなかったのか。

 そして、死の間際、橋の上で、木村雪乃と何を話したのか。

 重点を置くのはその二点だ。

 そしてその思考の中で、ひとつの結論に、至ってしまった。

「早く支度しなさい」

 母が顔を覗かせ、こちらに言うのを、

「本当にね」

 上の空のまま流して、もう一度スマートフォンを手にすると、木村雪乃に電話を掛けた。

 日の当たる御心橋は車も多く往来し、人々も、犬の散歩やジョギングに忙しないようだった。十分してやってきた彼女は制服を揺らし、毅然とした態度である。

「悪いね」

 ひとまず、終業式、ましてや転校する前最後のクラスメイトとの時間を割いてもらったことを、謝罪する。しかしそれも形だけのものに違いない。彼女はこれまでに何回、何十回も、彼らと別れの挨拶を交わしているのだから。

「話って何?」

 彼女は心当たりのひとつもないように、気負いした素振りも見せず疑問を投げかけてくる。

 それに対し、

「全部わかった……、かもしれない」

 答えると、

「どうしたら死のループから抜け出せるか?」

 そうと言ってもよかったが、どこか明言するのが嫌で、

、というところ」

「ふうん」

 しかし彼女の返事はそっけないものだった。それに対して、意外性を感じないあたり、避けているだけで、はっきりと、これというものに行き当たっていることを再認識する。

 後ろで手を組み、欄干に凭れ、

「聞かせてよ」

 彼女は挑発的な声音で、言った。

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