第57話 東南アジアのホテルのクーラーは効きすぎて寒いです
僕と清水くんが部屋を出て、ホテルのロビーに降りたその時だった。
ロビーの隅、観葉植物の陰に立つ姿があった。
白石さんだった。
僕たちに気づいた白石は、少しばつが悪そうに目を逸らしながらも、こちらへ歩み寄ってきた。
「……ごめん、驚かせちゃって」
「白石さん……どうしてここに?」
僕の問いに、白石はゆっくりと息を吸い、吐いた。
「さっきは、あんなこと言って……ごめん。正直、自分でも何がしたかったのか分からなかった。でも、松川くんに言われたこと、ずっと頭から離れなかったの」
僕は黙って聞き入った。
「浮気で復讐なんて、最低なことしたって分かってた。でも、どうしても許せなかったの。……だけど、シンガポールに来て、顔を変えて、名前を偽って、働いてみても……何も変わらなかった。焦りと後悔と、自分への嫌悪感ばかりで」
白石の目が、ほんの少し潤んでいた。
「もう逃げるの、やめる。ちゃんと日本に帰って、あの人と向き合って、終わらせる。自分の過去を整理するために、逃げても何も解決しないよね!」
そう言って、白石は笑った。少しだけ寂しそうな、でもちゃんと前を向いた笑顔だった。
「……ありがとう。あなたのおかげ。松川くん、見破ってくれたでしょ? 私の弱いところ」
彼女がくるりと背を向け、出口へと歩き出そうとしたその時――ふと振り返った。
「ねえ、松川くんってさ、彼女いるの?」
「えっ?」
僕は一瞬固まってしまった。
「梶本さんと田中さん……どっちが本命なのかな〜って思ってたんだけど。違うの?」
「……。僕には今彼女と呼べる人はいないと思う」
白石は小さく笑った。
「そっか~まあ少しその答え方が含みがあるけど~……じゃあ、私にも少しはチャンスあるかな?」
冗談めかしたその言葉を残して、白石はロビーの外へと歩いていった。
その背中は、少しだけ、軽くなったように見えた。
白石が手を振りながら立ち去ったすぐ後にはなさんが、ロビーまで降りてきた。
「あれ、白石さんが来たって聞いて降りてきたんだけど...」
「一足遅かったな田中、もう帰ったよ、日本へ」
しかし玲奈はその場には来なった。
やっぱり、玲奈は気まずくて来なかったか
「えっ!本当~!!それは良かったね~これでやっと帰国できるね~それにシンガポールって暑いしね~だいたい夏の合宿ってもっと涼しいところでやるもんでしょう?もう帰ろうよ~」
はなさんが、明るい笑顔で冗談ぽく笑いながら言う。
「そうだね~僕ももう暑いのはちょっと勘弁だねやっぱ涼しいところが一番だよ」
「それじゃ、二次活動無事終了ということでお祝いもかねて帰ったらみんなでどこか、涼しいところでも行こうか?」
「賛成~じゃあ私は玲奈にこの事伝えてくるね」
こうして僕にとって初めての海外での2次活動は終わったと思われた。
しかしそう甘くはいかなかった、深夜部屋で寝ているとノックの音がした、気のせいだと思い眠る
ブブブブブブブブブブブブ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~
今度はスマホのバイブ音、うも~何だよ~
もう、なんだ?こんな夜中に~玲奈だ、えっ?今ドアの前にいるだって?
驚いてドアを開けると、玲奈が血相を変えて飛び込んできた。
「大変だよ、コーキ!白石さん逃げたって」
「えっ?まさか!そんな馬鹿な!」
僕は寝ぼけ眼で絶句した、そんな昨夜日本に帰って彼氏と話すって言ってたのに、あの表情に嘘はなかった。何でだよクソッ!恐らく白石製薬の人も清水の報告で空港での監視をやめてしまったんだな!
「それで、清水君とはなさんは?」
「あたし朝弱いからライン気が付かなくて、ごめんなさい。清水君とはなあはもう一足先の飛行機で追いかけてる、私たちも急がなきゃ」
「分かった!」
急いで荷物をまとめて身支度を整え、ホテルを出る、
「早く!乗って!」
タクシーに乗り込み、空港へ向かう、空港へ到着すると僕たちは既に清水が予約してあったチケットで搭乗手続きを済ませ、飛行機に乗り込んだ。行き先はどこだろうチケットを見る。
「パース?ってどこ?」
「オーストラリアだよ、コーキ」
いまいち、合点がいかない感じがする....どうしてオーストラリアなんだろう?飛行機は離陸を始める...うーーん
「はい!コーキ、パースまでは7時間、機内は冷えるし、南半球だから季節逆なんだよね、厚着しないと風邪ひくよ。」
彼女は長袖の上着を僕に渡した。
「ありがとう。優しいな」
それに前から気付いていたけれど、ちょっと微笑んだ、いたずらっぽい表情が可愛らしい、うん?なんだこの引っ掛かる気持ちは?いたずらっぽい?長袖?......空港のショップは朝早かったから全部閉まっていた、どこでそんなもの買ったんだろう.......なんで長袖買う必要が最初から分かっていたのか.......まさか!
「ああー!やられた!」
僕は絶句する、白石さんじゃあなかった。はめたのは玲奈か。
「いや見事だよ、玲奈」
「ばれちゃった、?清水君のまねしてみたの~へへへ」
いたずらっぽくそして最高に可愛らしい笑顔で僕に微笑んでくれる
「だってコーキ言ってたじゃない、涼しいところに行きたいって、それにもう飛行機は飛び立ってしまったし、もう引き返せないよ」
涼しいところってそれロビーの物陰で聞いてたのね。
「コーキの事なら何でも知りたいの...駄目?」
玲奈が少しはにかみながら小さめの声で言う。一瞬気持ちが揺れるのを感じるその時飛行機の機体も揺れた、旋回しているようだった。
「いや、あのですねえ、もう元祖帰宅部としてはとてもお家に帰りたいのですけどね...」
「まあ!これから時間はいっくらでもあると思うし~いろんなことして二人の時間を楽しめるよねえ~~」
「あのう〜すいません人の話聞いてます?}
窓に目を向けると朝もやの中にシンガポールの景色が見えてきた、ああーシンガポールから遠ざかって行くけど、日本からもどんどん遠ざかって行くよ~
飛行機が旋回する。
「あ〜僕を帰宅させて~~~」
「そんな細かい事はどうでもいいの!」
「二人とも超方向音痴で英語ができないのは細かいことじゃないよ~!」
飛行機はシンガポール・チャンギ国際空港を遠ざかっていった。
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俺がホテルで英字新聞ストレーツ・タイムズを読みながら朝食をとっていると、田中が激怒してこちらに向かってくるのが見えた。なんだ梶本がまた拗ねて喧嘩でもしたのかな?
「何かあったか?」
テーブルに玲奈の筆跡の置手紙を荒々しく置く。
「清水もぐるなの?」
「はっ?」
置手紙には急いでいたのか、梶本の筆跡で走り書きが書いてあった
”二次活動も終わったので、今日からコーキと遠くでバケーションを楽しんでくるね~~!
二人は帰っていいよ~お土産待っててねえバイバイ~~あと電話とかラインとかウザいんでご遠慮願います”
「玲奈の奴、こうくん、連れだしてどっかいっちゃった!!」
「えっ?さすがにその事までは知らなかったよ」
う~ん、やはりそうきたか〜夜中なんか梶本のやつ廊下でゴソゴソしていたのは分かっていたけど、どうせマレーシア辺りにでも、松君の事を観光に連れ出すとは思っていたが...二人で田中と松君を初日に一緒に過ごさせたのが、そこまで効いていたのかあ、迂闊だったなあ俺としたことが....サトゴリラのお説教2時間コースだぞこれは。
「追いかけるから、支度して!」
「えっ?でもそれは二次活動じゃないから、お金がでないよ」
「ハアーーーー??何言ってんのお??地の果てまで追いかけるにきまってるでしょううう??どうせあんたのことだから、だいたいの目星ついてるよねええええ、ねえ?もし二人を一緒にこのままにさせてええ、既成事実的な事あったらあああああ」
「た、田中っお願いだから、そんなに強く襟首つかまないで、くっ苦しい!!息ができない!」
「早く!居場所、つ き と め て!!」
「わかったから!じゃあいくか~はあ遠いなあ、なんで梶本もオーストラリアなんて行くかねえ~~」
「なんで、そんな秒でオーストラリアだなんて分かるのよ!!キッモ!どこのストーカー?」
「だってこの置手紙の裏をみなよ、これはこのホテルのロビーの横にあるブランドアパレルショップの領収書だよ、男子ものの厚手の長袖の上着買ったみたいだぞ、つまり、真冬の南半球に行ったってことだ、南半球で日本人がビザ取りやすいところなんて、そんなところだろうなあ、あと梶本製作所のオーストラリア支社がパースにあるそうだ、まあそんなところだろう?」
「じゃあさっさと、パースいくよ、とっとと用意する!」
「わかった!わかった!」
その後、玲奈とおまけの僕と、はなさんとおまけの清水の追跡がオーストラリアで一週間にわたり繰り広げられたが、その事はまた機会があれば。
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