第158回『出てって』→落選

 井戸の中を覗いたら中から声が聞こえてきた。

「出てって」

 いやいや、俺は中になんて入ってないし、入るつもりもない。

 不思議に思っていると、真っ暗な井戸の底から異様な熱気が込み上げて来る。

 俺は慌てて後ずさった。なにか得体の知れないものが出てくるような気がしたのだ。

「出てって!」

 引き続き声がする。通告を受けているのは俺ではなく、まだ地下に留まっている何かのようだ。

 その正体は何? 幽霊? それとも妖怪?

 そんな恐ろしいものが出てきたとしても、ちらっと見てみたい衝動に俺は駆られていた。

「出てってよ!」

 繰り返すその退出通告は、予想外に太くて低い声だったから。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る