第100話



「やっぱりなぁ」


 ハギルは、闇の中でそう呟いた。

 こちら側にはあと八、九頭。南側はもう少し多いだろう。


 昨夜、調べたよりも《魔猿ケルコープス》の数が増えている。

 昨夜から今夜の間に合流した群れがあったのだ。


「ザルなんてモンじゃねえなぁっ」


 ハギルは雑木林の中を駆け廻った末、足を止めて右手で握った縄を引き絞りながらそう吐き捨てた。

 彼の縄には、樹木の幹をいくつも経由して五頭の《ケルコープス》がかかっていた。


 数歩先で縄に新たに絡めとられた《魔獣モンストゥルム》は、構わずにハギルへと向かって来ようともがいている。

 そいつらが力むたびに、周囲の木々が根こそぎにされそうなぐらいに揺れた。


 大抵の《冒険者》の腕力では、《ケルコープス》と正面から力比べなど出来ない。

 《魔獣》と人族では、根本的な骨格が違う。摂取する食事量が違い、日常によって培われる筋量が違う。

 さらには、野生の禽獣よりも獰猛で知恵が巡り、どのような怨恨からか執拗に人族を襲撃してくる。


 ハギルは、《魔獣》が強く、人族が弱いことを理解している。

 《技能スキル》を磨き上げた一部の者だけが、それら《魔獣》の身体機能を凌駕し得るだけで、《冒険者》とて弱い人族にほかならない。

 《魔獣種》という種の脅威を理解しているだけに、彼は冷静だった。


 ハギルは低木の林の枝の上に視線を巡らせる。

 さらに、数頭の《ケルコープス》の陰翳が枝を揺らして、威嚇音を奏でながら彼へと近づいて来る気配。

 彼は、縄に結われた小刀を左腕をしならせながら投擲した。


 ハギルの投擲した縄の先の小刀はあやまたずにすべての、雑木林の枝を渡る《ケルコープス》の顔面――眼や鼻面へ吸い込まれ、彼の指と手首に応じて順次切り裂く。


『ぎゃあっ』

『ぎゃん』


 二頭が悲鳴を上げて、樹上から落下する。

 そのとき、《ケルコープス》とは異なった声が、縄に絡まったひとつの個体のほうから上がった。


「オラッ!!」

『がああっ』


 《魔獣》の短い断末魔が応じ、それに触発されたように《ケルコープス》たちがまた一層の威嚇音を迸らせる。

 視界の端で止めを刺された一頭を捉えたハギルは縄を右肘と前腕で巻き取るようにして引き絞る。

 獲物の死骸から短槍を引き抜こうとしていた殺害者は、死体の上から転がり落ちた。


 一頭が死んで緩んだ縄。その中にいた残りの四頭が、ハギルへと腕を伸ばし牙を剥く。

 今にも届きそうなそれを、右腕で手繰る縄で絡み取り、ハギルは怒鳴る。


「ばかヤロウ! んなのぁ、あとだっ!!」

「ギャンギャンうるせえんだよッ!!」


 ハギルに言い返しながら、槍使いは《ケルコープス》の喉から延髄を貫通させた短槍を引き抜いた。

 ハギルは怒鳴りながらも、血を滴らせた短槍を持ち替える娘への評価をまたひとつ上昇させる。


「いいか?! ひと通り、とっ捕まえてからだッ!!」

「知らねえよッ! オレは夜目が利かねえッ!! それに……待ってられやしねえんだ――よッ!!」


 そう言いながらルクレシアは、接近して来た一頭へ予備の短槍を投げつける。

 鼻面を庇ったその《ケルコープス》の掌を貫通した短槍は、頬を裂きながら低木の幹へと縫い付ける。


「てめぇの得物はふたつッきりだろうがッ! ぽんぽん手放すンじゃねえッ!」

「だから、あんたは黙って見てろッ!」


 言いざま、別の一頭の突進を転がりながら彼女は避けた。

 避けながら、《魔獣》の膝へと一撃を繰り出し、体毛によって弾かれる。


「硬ッ!」

「得物が傷むッ! 顔面か手足ッ!!」

「うるせえなッ!!」


 屈んだ格好のルクレシアは、短槍をくるりと回し、両腕を伸ばして上から覆いかぶさろうとする《ケルコープス》の手指を切る。

 立ち上がりざま、そのまま半回転させた短槍の石突で、牙を剥いた《ケルコープス》の上顎を下からかち上げた。

 肉食獣のような鋭い歯が、あたりに飛散し、《ケルコープス》の頑丈な頭骨と石突が上下に弾かれ合う。


『ぎゃ』

「そらッ!」


 弾かれた勢いで短槍を逆に回し、ルクレシアは短槍の切先で《ケルコープス》の長い鼻面を上から斬りつけた。


 それを眺めて、縄とその突端に結われたもので、彼女の背後を襲う一頭の眉間を易々と投げ貫きながら、悪くないとハギルは考えた。


 木々が密集し、月の明かりも届かない林の中。樹間は狭く、足場は悪い。

 だが、視界不良を勘で、長物の不利を上下と前後の動きで補っている。

 加えて、口は悪いが学習能力が高い。


 人族と《魔》の境界を守ると嘯く、「ザル」な軍団よりは、ひどくマシ。


「……あんだよ、終わりか?! 逃がせよ、もうちょい狩ろうぜ?」


 縄に捕らえられて喚き、手負いに呻く《ケルコープス》を見回したルクレシアの嬉しそうな声に、ハギルは呆れた。


 《技能》の冴えは上々。

 敏捷性を初めとした身体能力も高く、勘もいい。

 《下級冒険者》の中では浮く程度には抜きんでているし、《中級冒険者》にも遜色は無い。


 だが、ハギルが呆れるほどに短気で短慮。

 その上、発想は無益で無駄を楽しむことを基調としている。

 およそ、仲間を省みることはないだろう。


「てめえぁ、長所プロフィットが死んで、釣りまで出ちまうタイプだな」

「あぁん? どういう意味だ、そりゃ?」


 ハギルは肩を落とした。

 ともかく、予定とは異なったが林の中の《ケルコープス》はすべて片づけた。

 向こう側は、ほかの三人がなにをやらかそうとルドニスが尻を拭くだろう。


 一方のルクレシアは首を傾げ、気を取り直したように笑顔をこぼす。


「それよりもよ! あんた、ヤるな? オレにこんなに合わせられるヤツ、姐さんとリズ以外いなかったぜ」

「ばかヤロウ、俺ぁなあ……」


 そのとき、ハギルの耳が辺りの《ケルコープス》の呻きと懸命の喘ぎの底に、林の外の鳴き声を拾う。


「手間取ってンのか?」


 ルドニスにしては珍しい。

 ほかの三人が余程足手まといになっているのだろうか。

 ハギルの疑問に答えるように、笑顔だったルクレシアの顔から血の気が失せた。


「なあ、今、向こうから鳴き声がしたのか……?」

「ああ、二十にゃ、届かねえだろうがな」

「――やばい」


 その言葉と表情に、ハギルは自分がひとつミスを犯したことを悟る。



 〓〓〓



「……は……しぃ」


 リザルの吐息のようなか細い声が、オルレイウスの頭上に落ちて来た。

 最初、彼はそれが悲鳴か泣き声なのではないかと考えた。

 リザルの声が震えていたからだ。


 だが、血に染まった手甲がもう一度振り抜かれたとき、オルは考え違いだったということを悟る。


「うふ、ふふっ」


 それは笑い声だった。


 握りしめられた小さな拳を覆う手甲は、一撃目で《ケルコープス》の頑強な下顎を粉砕し、二撃目で上顎を破壊した。

 《ケルコープス》の長い鼻面はぐしゃりとゆがみ、鼻先からは鼻血が、今や閉じられることのない口からは涎混じりの血が滴り落ちる。

 リザルよりも幾らか丈の高い《ケルコープス》は壁に寄り添うようにして倒れ、動かなくなった。


 四足で駆けて壁の手前に迫っていたもう一頭は、飛来した矢に体毛の鎧から飛び出た鼻面を横から射貫かれて、悲鳴を上げてオルの視界――壁の割れ目から消えた。

 リザルもまた、崩れた障壁の外に踏み出し、おもむろに歩き出すと、オルの視界から消える。


 オルは急いで脚の縄を緩めにかかる。

 リザルは戦棍メイスすら持っていない、補助がいる、と考えた。


 同時に、彼は疑念に囚われる。

 なぜ、リザル・クローラルは笑みを溢すのか、と。

 自分の最前の言葉は正しかったのだろうか、と。


 オルが縄に手こずっている間にも、壁の破れ目からは《ケルコープス》の雄叫びと、硬いもの同士がぶつかり合うような音や矢玉の乾いた音が侵入する。

 萎えた指では、固く結ばれた縄の結び目を解くには頼りなく、何重にも脚に巻きついた縄を下へとずり下げていくほか、オルが採れる方法はなかった。

 ようやく、足首を強引に縄から引き抜くと、オルの肉体にいつもの力が戻った。


「リシル、待っていてください」

「しかし」

「相手は頑強な《魔獣モンストゥルム》です。今、無暗に行動することは危険です。ひとまず、僕は一度リザルを連れ戻します」

「……わかりました。無茶はしないように」


 頷くリシルに背を向けて立ち上がると、オルはリザルの後を追う。


 オルが《魔法》によって築いた壁は、《ケルコープス》によってひとが一人通れるほどの幅が崩されてしまったが、辛うじて防壁としての体裁は保っていた。

 彼が壁の破れ目から一歩を踏み出すと、街道のほう――ルダニスがいるはずの方角から、数頭の《ケルコープス》の警戒音が鼓膜を打った。

 一方の北――ハガルとルクレシアがいるはずの雑木林からは、よほど木立の奥で闘っているのか、鳴き声がほぼ聞こえない。


 視界のうちの荒野の上、月明かりの下には壁際のオルの足許のものも含めて、数頭の《ケルコープス》の死骸が点々と転がっていた。

 遠目に南東から荒野をこちらへと駆ける生きた二頭と、ほど近くに一頭。

 ただ、壁から十数歩の距離でその《ケルコープス》の眼前に立ちはだかっているひとりの人影。


 いや、厳密にはその人物――リザルは、後肢で立ち上がった大きな《ケルコープス》の首を、両手で絞め上げて半ば浮かせていた。

 《ケルコープス》の前肢は萎え、鋭い爪は鎧に弾かれ、剛力はリザルをよろめかすことさえできていない。


「リザルっ!! まだ」


 オルが駆け寄って来るさらなる《ケルコープス》の存在を報せることを躊躇った理由は、気づいたからだった。

 転がっている《ケルコープス》の死骸、それらの致命傷はほとんど頭部に突き立った矢と思われたが、うち二頭の頭部は見る影もないほどに潰されていた。

 リザルの鉄靴とそれが残したと思われる足跡は真っ赤に染まっている。


 つまり、リザルは踏みつけたのだ。

 《ケルコープス》の頭を、執拗に、跡形もなくなるまで。


 その事実に気づいたオルは、同時に見た。

 リザルが吊り上げている《ケルコープス》の首が異様に、常態からは考えられないほどに伸びきっている。

 過剰攻撃。それらの陰影が、オルの喉を痙攣させる。

 なにより、オルの呼びかけにリザルは反応しない。


 オルはひとつ唾を飲み下すと、気を取り直して口を開いた。


「『伸びよ、伸びよ。茂って、生えよ。夏の陽射しに枝を広げ、土中の根を疾く伸ばせ。輝ける陽に恋い焦がれしものどもよ』」


 《植物魔法》で《ケルコープス》を縛る。

 リザルの変容、その内容は不明瞭だ。

 それでも、戦闘行動の真っ最中にこれ以上、思考を囚われることは危険だと、オルは理解している。


 この《ケルコープス》の群れが最大規模のそれだとするならば、まだいくらかの個体がいるはずでオルたちは分散している。

 合流、連携、殲滅。オルが採るべき選択は変わらないが、まだリシルは縛られたままで、今のリザルとは意志が共有できるかもわからない。

 ならば、眼前の《魔獣》の無力化を優先、安全を確保してリシルを解放し、リザルの意志を確認後、三人でほかのメンバーとの合流を目指す。


 それが、この場での最善。


「『足を掬え、腕に巻き付け。獣どもに食まれる、そのま』」

「なんて、弱々しいの」


 それは堪えきれなくなったとでもいうように、兜から笑みを伴って零れ落ちた声。

 オルは無視した。《呪文》を唱え切ってからいくらでも話す機会はある。


「『えに、それよりも速く、もっと速く。風よりも、《人馬ケンタウルス》の」

「きみたちに施してあげる――」


 そのとき、オルの視界がくらむ。

 母にしこたま転がされたときのような。

 あるいは、重ね着をし過ぎて倒れる直前のような。


 いや、この感覚に一番似ているものをオルは知っている――



――リザル・クローラル。僕は、あなたが僕を信じてくれることを信じましょう――


 それは、おそらくはオルレイウスの声だった。

 それに対してゆっくりと浮かび上がる感情がある。

 期待と侮り。


――今度は、オレが助けるよ。オレがリズを守るから――


 ルクレシアの声。

 それに対して浮かぶ感情は嘲りと、嘲りに対する否定の渇望。


――あの子は……リズは多くの人を救えるのよ? ――

――あの子が望めばね。……あの子は、お前じゃないの――


 アマリアとカサリナの声。

 浮かぶ感情は失意。


――《狂神》ならば。彼に選ばれた、あなたが正しく望みさえすれば――


 ふたたびアマリアの声。

 浮上するのは自負、同時に疑念。


――よそおう必要はないの、いいのよ? 正直に生きて――


 カサリナの声。

 対するは拒絶、そして不安。


――そのガキゃ、おれたちを見下してる! てめえのこたぁ、棚上げだ! ――


 聞いたことのない下卑た男の声。

 覆いかぶさるような殺意。


――辛苦を受け入れ、克己を成すのだ――


 絞り出すような、それでも確かに慈愛に満ちた老いた男性の声。

 それに対するのは、憤怒と憤懣と不信。

 そして、憐憫と悦楽。



……オルレイウスが判別できたのは、そのぐらいだった。

 数多くの声とそれに倍するほどの感情が、彼の頭に充満する。


 すべての言葉と感情とが消えないまま脳内にわだかまり、新たな声と感興がすぐさまそこに割り込んで来る。

 視界はあふれる涙でゆがみ、響く声は耳を聾し、言葉を理解して感情を飲み下すために、脳の機能は著しく低下する。


 オルは自由にならない思考の底で理解する。

 これらが、これまでリザルが聞いた言葉の数々だということを。

 そして、まるでオル自身のものであると言わんばかりに浮かび上がって来る数々の感情は、おそらく。


 オルは混乱する、し続ける。

 思考力を奪い続ける数多の声と感情は生々しく、オルの手足にまで重りでもつけたよう。

 だが、それでも既に流れた《魔力オド》に引きずられるように、彼の舌は動いていた。


「『よるは、くきょうに、まくをひく。ねむりは、まぶたに、おちるもの。やみは、まつげに、いこうもの。やさしきとばりの、じょうおうよ。《げんわくしん》の、なにかけて、われにちからを、あたえたまえ。わがくつうをぬぐえ!』」


 《植物魔法》を行使するはずの《呪文》から、《幻惑魔法》への強引な移行。

 流した《魔力量》に見合わない乏しい効力。

 それでも、オルの精神は立ち上がる。


 霧が晴れるように、溢れる声と思いは鳴りを潜め、どこかへと遠ざかっていく。

 涙にゆがんだ視界は、溢れた滴が頬を伝い落ちて明瞭に。

 聾された鼓膜は、静けさを取り戻していく。


 滲んだ瞳に映ったものは、のたうち回り、駆け回る《ケルコープス》たち。

 そして、首を握っていた死骸を捨てて、それらに歩み寄って行くリザル。


「――リザル・クローラル!」


 オルはリザルの名を呼んだ。

 しかし、リザルは変わらぬ速度で歩んだ後、鉄靴を持ち上げて、のたうつ《ケルコープス》の一頭の頭を踏みつける。


「リザ……」

「オルくん」


 リザルはもう一度、鉄靴の踵を《魔獣》の頭に落としながら言った。


「僕はずっと、思っていたんだ。僕は、きっと正しくない、って」


 そう言いながら、リザルは何度も足許の生き物の頭を踏みつけた。


「でも、正しかった。僕は正しい」


 リザルの声は歓喜に震えていた。

 そうして、既に動かなくなっていた《ケルコープス》の頭を踏み抜いた。


 ぐしゃり、という頭蓋を踏み砕く音が荒野に漂う。


「リザル! 仲間を助けましょう!」

「これが、きみやルーシーを救うことになる。……そうでしょう?」


 リザルはぐりぐりと足を動かしながらそう言うと、錯乱したように駆けまわる一頭の《ケルコープス》へと向かって歩き出す。


「違うでしょう、リザル。……それは」


 リザルがオルを振り向く。

 そして、両腕を大きく広げた。


「僕が、か弱い・・・きみを救ってあげるんだ。なにが、違うっていうの? きみは僕の正しさを信じているんでしょう?」

「――僕が信じたのは、きみが自分の弱さに立ち向かう勇気があるということだ。……脅威と怖れを克服する力があるということだ!」


 そこでリザルは首を傾げた。


「なにが違うというの? ふふっ、可笑しなオルくん」

「リザっ――!」


 駆け回っていた《ケルコープス》が、急に進路を変えリザルに突っ込む。

 リザルはオルの声と視線に、その《ケルコープス》へ向けて首を傾ける。


 《ケルコープス》の振り回した前肢の爪に引っかけるようにして、リザルの頭が飛んだ。


「リザルっ!」


 オルは駆け出していた。

 あまりにも想定外の出来事に反応が遅れたこと悔やむ暇もなく、頭を喪ったはずのリザルの手が《ケルコープス》の首を掴んでいた。


 そこでオルはようやく、飛んだのがリザルの頭ではなく兜だけだったということに気がつく。

 顕れたのは、まとめられた豊かな金髪。そして、静かだが確かな笑声。


「ふふふ、うふふ」


 ごきりっ、という鈍い音。

 その瞬間、リザルが片手で《ケルコープス》の首を絞め潰したのだということが、オルにも理解できた。

 それでも、リザルは絞め続けた。


「そう。そうでしょう、オルくん。今まで、僕は、勘違いしていただけなんだよ」

「……リザル」


 ごきゅっ、という音ともに、リザルの握っていた《ケルコープス》の首が伸びた。

 そこでようやくリザルは脱力し、捨てるように死骸を落とした。


「脅威? 怖れ? ……コワがることなんてなかったんだ、悩むことなんてなかったんだ」


 静かな声は、それでも喜びに震えていた。


「だって、僕は正しいんだもの」


 そう言うと、リザルは落とした死骸の頭部を踏み砕いた。

 オルレイウスは混乱していた。

 リザル・クローラルという人物の本質が、彼の予想したものからは遠いという事実に接して。


 リザルがふたたびオルを振り向く。

 彼女――リザルは、口元に笑みを湛えて、手を差し伸べる。


「オルくん、か弱いきみたちを、僕が守ってあげる」


 オルレイウスは知っている。

 初めて見るはずの、その瞳に宿っている色を。


 侮りと蔑み。オルが見慣れた眼差し。

 そこに、奉仕するように優越感が添えられている。


 まるで、幼い子どもが他者に示すような、自己愛のいびつな形状。


 荒野にはルダニスの矢に撃ち抜かれる最後の《ケルコープス》の絶命の声が漂っていた――

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