第17話そんなもの
大阪に帰ってきたら、すぐ事務所から
あらびき団放送決定の連絡がきた。
まず、すぐに東京では放送されたらしく、僕らの住む大阪では1ヶ月遅れで放送される。
オクラ入りしなかった!
ついに、十年ぶりだが、テレビに出れたのだ。
しかも家族を犠牲にせず、自分のネタだけで出れた。コネでもない。実力で成し遂げた。
そして、大阪での放送当日、テレビの前でかじりついて自分を見てる僕がいた。
妻は子供を寝かしつけて寝室から、僕に声をかける。
「まだ寝ないの?」
「寝ないよ!俺、テレビに出てるんやで。」
妻は僕の出てる番組など見ようともしなかったが、子供のようにはしゃいでいる僕を見て、
「よかったね。でも、無理したらあかんのよ。子供もおるんやしね。」
と、言って寝室に戻った。
ええんよ。
ええんよ。
妻に見てもらわなくても。
お笑い嫌いの妻に、見てもらわなくても、それでいい。
無理をして、彼女に僕の主観を押し付けるつもりもない。
ただ、見守っていてくれればそれでいい。
僕らはそんな関係でいい。
それでも、
愛してくれていたなら、それでいい。
次の日、テレビ出演した次の日。
外を歩く。
誰にも声をかけられない。
そんなものである。
実際テレビに出るって、そんなものだ。
あんなに頑張ってテレビに出たって、その番組を見ていた人なんて、実は一握り。
自分は自分の事だから必死で番組を見るが。
ある人は家事をしながらテレビを見るし、
ある人は寝ながらテレビを見る。
昨日テレビに出てた人、まさか、そこに普通に歩いているとは思わない。
歩いていたとしても、それが何?
なのである。
外を歩いても、歩いても、声をかけてくる人は誰もいない。
職場に出勤する。
職場ですら、そのテレビを見た人も2、3人。それも、
「昨日、みたでー。」
で、終わりである。
そんなもの。そんなもの。
テレビに出るなんて。
そんなものに、十年以上も費やし、労力と思考の全てを捧げてきた。
それでも、何かないのかな?
俺、テレビに出たんやで。
それで飯が食えるとか、人気者になるとか、そんな高望みしてるわけじゃない。
誰か、もっと、何かないのかな?
自分でも自分が何を望んでいるのかはわからなかった。
頑張った分、虚しさが残った。
オーディションで勝ち残り、収録にこぎつけ、それがオクラ入りする事なく、本当に放送された。
そこまでたどり着いたのに。
・・・・何も、ないのか?
そして、俺は、何を望んでいたのか?
空を見上げると、目に涙が溢れてきた。
この涙はなんだ?
なんで泣くんだ?
・・・妻よ。
テレビに出たって、こんなものだ。
俺、何をどうすればいいのかな?
妻に聞いたってわかるはずがない。
世間から見れば、テレビ出演なんて、そんなものだった・・・
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