第16話東京

「あらびき団」の収録に来た。


事務所の先輩達から、鬼のような話を聞いた事がある。

収録までたどり着いて、結局テレビに放送されずに、オクラ入りした芸人さんもいるとか。

ここまで、ここまでたどり着いたのにか?

放送されないなんて、事があるのか?


もし、俺、そんな事になったら。

本当に立ち直れないだろう。

ここまで、来るのに、何年、どれだけの労力を使ったというのだ。


そして、妻と子供に、何と言えばいいのだ!


「あらびき団」の僕の収録が終わると、スタッフの女性の人が、僕のネタを見て涙を流していた。


「本当っに!面白いです!大好きなネタです!」


その言葉に救われた。

その言葉を聞くために、たった一人のその言葉を聞くために、僕という芸人が生きてきた意味がある。

涙流すくらい、僕のネタにハマってもらえて、こういう人がいるから、僕は東京に呼ばれたのだ。

やってる事は間違ってない!

俺は、面白い事、面白いネタをやってるんや!

放送される事を信じて、やり続けていくしかないんや。


東京の夜。

妻に電話をした。

何よりも、誰よりも早く、声を聞きたかった。


「今、収録が終わったよ。収録しても、放送されへん場合があるんやて。」


それでも、妻は、ハッキリと言った。


「そんな事ええから。無事に帰ってきてな!無事に。」


妻の後ろで、まだ幼い子供の声がした、


「ぱぱ、はやく、かえってきてね・・・・」


・・・なんて可愛らしい家族を持ったのだろう。


そんな妻だから。そんな家族だから・・・

余計に好きになった・・・

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