戦闘狂の兆し

『ゼロ・メデュレ。その帯は此処に来るまで外してはならぬと言ったはずだぞ』

 暫く歩いた所にあった乗り物に乗れば、緑色に光る場所へは程なくして着いた。こんな物に乗るのは初めてで、意外と速い事に少し楽しい気持ちになったが、着くなり迎えてくれた老人の怒りの形相で目がさめた。

 この訓練場は、ゼロ・レイスに向かって攻撃をしかける罠のようなものが沢山あり、それらが動き出さないようにこの黒い帯が巻かれているのだ、という話をしていた。くどくどと続く説教にうんざりした顔になるメデュレ。はいはい、といった親に怒られて反抗するような態度だった。

 今までメデュレが帯を外す、などという規則違反をした事はなかったそうだし、よりによって僕がいる時にそれをした。

 

 ——つまりは、僕をからかった、という事なんだろうか。

 

『……まぁよい、大事に至らなくてよかった。さぁ、こっちだ』

 ぼんやりと緑色に光っていたのは、小さなドーム状の部屋だった。小さいといっても比べるものがあの広い訓練場だ。ドーム自体もまたかなり大きなものだった。

 通路にあったものと同じドアがあり、静かに扉が開いた。キトリとゼロ・メデュレが入ると、老人は自分が入らぬまま扉を閉めた。中には既に七〜八人の子供達が立っており、個々が個々として俯いたり、座ったりしているだけで、誰もいないかのような静けさだった。


 暫くして、ドーム全体に響き渡るような老人の声がした。

『では、始めるとしよう』

 緑色だったドームが薄赤色に変化した。見ているだけで気持ちが落ち着かなくなる、そんな色だった。子供達はそれを合図に、各々に巻かれた黒い帯を剥ぎ取り始めた。大きい斧のような左手をした少年は、ズシンと地面に手を叩きつけると、帯が千切れて飛び散った。大きかった斧手がもう一回り大きくなったように見えた。

 座っていた子供は立ち上がり、一定の間隔を空けて散らばった。

 カチカチガチガチと金属のこすれる音がしたり、シュン、ヒュンと空を斬る音も聞こえ始め、周囲は物々しい雰囲気になってきた。

 隣にいたメデュレも、少し距離を置いて立ち、何かのリズムに合わせて爪をカチカチと鳴らした。

『ゼロ・レイス達よ。憎き敵を思い浮かべよ。君達の生活を脅かし、体をそのように変貌させた根源は、あの赤き国が諸悪なのだ』

 室内が更に赤く染まった。ギギ、ギチッと鈍い音が周囲から聞こえてきて、キトリは周囲を見渡した。ある者はその手から三叉の棘が突き出で、ある者は肘から三日月型の刃を尖らせた。皆様々な形に変化していく左手とは異なり、鉛色の物体が体を駆け巡り、子供達の両足に纏わりつくようにして皆一様に靴のような形状を保った。

 子供達の目は、最早一寸の光も受け入れられない曇りに満ちていた。例えゼロ・レイス同士でさえも、一触即発の嫌な空気がビリビリとキトリに伝わってきた。この手で何かを斬りたい、貫きたい、叩きたい。そんな思いが赤い部屋の空気に混ざってキトリを包んだ。

『ゼロ・ルーや。親御さんを失った怒りもまた、この赤き国が根源なのだ』

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