リトルヒーロー
豆猫
プロローグ
子供の頃の夢を見た。友達と公園でごっこ遊びをする、懐かしい思い出。当時身内で流行っていた、いつもやっていた遊び。
ジャングルジムに登り、友達に木の棒を向け叫ぶ。
「かかってこい!俺が-」
ふと目が覚める。頭がぼーっとする中、枕元に置いて充電していたスマートフォンを見ると、時間は午前5時43分。
「…アラームまだじゃん。んん…」
再び布団にもぐる。が、17分後のアラームには逆らえず、いそいそと身支度をし始める。
食パンをそのまま食べながら朝のニュース番組を流し見している内に、気付けば家を出る時間になり急いでスーツに着替える。
足早に最寄りの駅まで向かうと、普段通り、電車は駅に着いて2.3分で到着した。
混み合いつつある車内の真ん中近くでつり革につかまり、何気なく上を向く。
すると、あるものが目に入った。
「『やりたい』を仕事にする -夢に一歩踏み出そう-」
よくある電車内に掲示している広告。そこに書かれた一文に、軽いため息がこぼれた。
「…そうだね」
吐息のように小さな独り言は、電車の音に溶け込む。
田村 陽平 26歳 独身
今日も仕事に向かう、当たり前の日常。
そんな日常に、彼は少し疲れていた。
仕事と向き合わなければ生活していけない現代社会で、妥協しながら今の仕事を続けている。
そんな妥協に、彼は少し悩んでいた。
(やりたい事、ね…)
心の中でそう呟き、ふと今朝の夢を思い出す。
子供の頃はただただ毎日を遊んで過ごし、家では暖かいご飯が待っているだけで出てくる。将来の事なんて大して考えてもいなくとも、思えばそれなりに楽しく過ごしてきた。
いつからだろうか。そんな日常が懐かしく思うようになったのは。
自嘲するように一瞬ふっと笑いを浮かべ、前に目を向けるとそこにはいつもとさして変わらない、平日には毎朝見る車窓からの景色。
(あ、あそこの潰れたコンビニ新しく何かできるんだ…今日は早く帰れるかなあ…晩飯何にしよう…)
なんてことのない、普通の人生。
今日も、そんな日常が始まる。
彼にとって、大きく変わり映えのしない、当たり前の日常が。
リトルヒーロー 豆猫 @nut
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