第31話⑤ むか~しむかし。

【桃代のいない日々】

 桃代が引っ越して一年と半年。

 年賀状と暑中見舞いは必ず来る。

 寂しさが無くなるわけではないが、少しは紛れるような気がする。

 既にケータイを持っているらしく、菜桜と千春とは毎日メールをやり取りしているみたい。なので、かなり詳しい近況もほぼリアルタイムで知ることができる。便乗して自分の言葉をたまに送ってもらう。


 オレも親にお願いして買ってもらおうかな?


 この頃本気で思うことがある。



 五年生の誕生日。

 幼馴染達に祝ってもらった。

 桃代からもメールで祝ってもらえた。

 かなり嬉しい誕生パーティーだった。


 みんなが帰ってしばらくすると、


「ユキ?ちょー来てん?」


 父親に呼ばれた。

 趣味部屋について行ってみると、


「ほら。これ使え。誕生日プレゼント。」


 バス釣りのタックル一式だった。


「いいと?」


「おぅ。」


 手にした途端、自然と嬉しさが込み上げてきた。

 その内容はというと。

 具体的にはベイトキャスティングリールの着いたセットとルアー一式。

 リールはTD-S103H、サオはTD-S661MHRB。

 タックルボックスの中にはプラグが10個ぐらいと、あと、ワームが数種類。それブラス各種小物。

 その内容は今からでも即行くことができる充実っぷりである。

 ベイトの投げ方は分かるし、なんとか投げられる。

 ここ一、二年、前の川でバスが釣れるようになってきたので、明日早速行ってみることにする。


 一つ楽しみができた。


 桃代はいつか帰ってくるといっていた。

 それならば待とう。

 バス釣りで気持ちを紛らわすことにしよう。



 次の日。

 学校で千尋や海、大気にタックルのことを話す。

 すると、すぐ近くで聞いていた菜桜や美咲、環、千春、渓もその話に食いついてくる。

 親も全員バス釣りをする。だからバスの道具は何回も触ったことがある。

 全員でやろうというコトになった。


 その夜。

 幼馴染はそれぞれ父親と交渉する。

 全員が貰えたり借りられたりで、話が出た次の週末には全員で実行できることとなった。


 時期を同じくして桃代もバス釣りを始めていた。




 タックルを手に入れた日を境に、毎日のように釣りに行く。

 遠征について行ったときは釣れたのだが、その時は殆ど親から手取り足取りの状態だった。よって、その時どのように釣ったのか全く覚えていない。

 いざ一人でやってみると、ただやみくもにルアーを投げて引いてくるだけ。まぁ、これだけでも十分に面白いのだが、やはりやるからには魚の顔を拝みたい。

 一応ルアーの操作し方は親に聞いているので分かるのだが、アタリがイマイチ分からない。

 父親に聞いてみることにした。


「お父さん、釣れんっちゃけど、どげしたらいーん?」


「底は取れるか?」


「それは分る。」


「引き方はどげしよるか?」


「底取ってチョンチョンしたり、スーッと引いて底に着けたり。」


「ん~…間違っちょらんのぉ、何でかの?ちょー、この頃使ったワーム見してん?」


「はい、これ。」


 見せると、じっくり観察するユキ父。いくつかのルアーを見て、あるひとつを手に取り、


「お前これ、食っちょーやねーか。」


 掌に載せ、指差した。


「は?」


 よくみてみると、ワームのフックよりテール寄りに、何やら引っ掻いたような痕がある。


「ほら、ここ。引っ掻いたみたいな痕があろ?これバスの歯型。分からんずく巻いたき離したって。」


「そーなん?」


「そう。動かしよるときとか止めたときに『コツッ』っち来んやったか?とにかく『コツッ』っちきたら待ってん?それがアタリなら、グッグッグっち持っていくき。そしたら一呼吸待って大きくアワセる。そしたら掛るはず。」


 謎が解けた。こういうのが聞きたかったのだ。


「分かった。やってみる。」


 今すぐにでも行きたい気分になった。



 次の日。

 他の幼馴染たちは用事があり遊べなかった。

 一人川に行き、言われたことを試す。

 釣り場は杭の林立するいつもの場所。

 ワームはグラブでリグはテキサス。

 杭の間を狙う。

 投げて底を取り、スッとサオを立て、浮き上がったリグが再度底に着く。

 この動作を延々と繰り返す。

 そして…

 ついにその時が訪れる。

 底を取り、サオを立て、リグを浮き上がらせ、再び底を取ったとき。


 コンッ!


 弾くような感触。


 ん?これか?


 待つと…。


 グッグッグ…


 これか!


 今度はさすがに分かった。

 一呼吸待って、


 ビシッ!


 後ろにのけ反るくらい大げさにアワセた。

 瞬間、サオには重量感。

 そして強烈な引き。

 少し硬め。MHアクションのサオが弧を描く。


 うぉ~!つえ~!


 必死でリールを巻く。

 対岸に向かって突っ込む。

 そしてフワッと軽くなり、エラ洗い。


 うっひゃ~!マジで?シビレあがるぅ~!


 横に走ったり首を振ったり、強烈なファイト。

 フナやハヤじゃ味わえない引き。


 何これ?おもしれー!


 必死こいて耐え、リールを巻く。

 手前まで寄ってもなお暴れる。

 フックはど真ん中、100点のところに掛っている。


 大丈夫!抜き上げよう。


 一気にサオを立て、抜き上げた。

 地面で暴れるバス。

 取り押さえ、口に親指を入れて掴み、持ち上げる。

 30cmをはるかに超える黄色がかったベージュっぽいメタリック。側線に沿って黒っぽい線が入る魚体。

 図鑑で見たまんま。


 カッコイー!


 フックを外してそっと水の中へ。

 ゆっくり深場へ戻っていった。


 しばしボーっとなり、感動を嚙締める。


 釣れた!


 バス釣りが一気に好きになり、ハマる。

 投げるだけでも楽しかった。

 でも釣れるとさらに楽しい。


 幼馴染全員で行きたいな!






 それから時は過ぎ、中学生になる。

 未だ桃代は帰ってこない。

 永遠を感じる。


 ホントに帰ってくるのか?

 もう二度と逢えないんじゃないのか?


 そんな気になっている。

 かなり諦めモードだ。

 引っ越す前に抱いていた特別な感情。

 それはまだハッキリとある。

 あるのだが、今は少し薄い…気がする。

 逢いたい気持ちがなんというか、遠い。

 こんなに薄情やったっちゃろか?オレ…


 ホントは薄情なんかじゃない。

 心が逢いた過ぎて逢えないという現実に耐えられなくなり、「特別な感情」を封印してしまったのだ。

 自己防衛本能により、いつしか「逢いたい気持ち」自体を考えなくなっていた。

 自分を誤魔化してしまっている。


 ふとした拍子に思い出すが、深く考えるとツラい。

 だから、考えるのを諦め、無理矢理忘れたフリをする。

 ここ最近、何度となくやっている。

 これは中二の夏、再会するまで続くことになる。




【ユキのいない日々】

 美咲と澪。

 転校したその日に友達になり、家もすぐ近所。

 いつも一緒にいる。

 おかげで幾分寂しさが和らいだ。

 心から有難いと思う。


 学校から帰っていずれかの家に集まり、お菓子を食べながら駄弁る。

 これが毎日の日課。

 喋っていて分かったこと。


 美咲は釣りをするらしい。


 そして、


「桃んちの近くの水門のトコ、バスが釣れるんだよ。」


「へ~。」


 ブラックバス。

 ルアーで釣ることも知っているし、親達もやっている。釣ったこともあるが、遠征のイメージが強すぎて、あまり身近ではなかった。


 家の前の川っちおったんかな?


 ルアーしていた人はいなかったように思う。


「私、今はエサ釣りしかしてないけど、いつかやってみたいと思ってるんだ。」


「そーなんだ。ウチもエサ釣りは向こうでよくしてた。バスは…親に何回か遠征に連れてってもらっただけかな。釣ったこともあるよ。」


「へ~。そーなんだ。じゃ、一緒にやってみようよ!」


「そだね。」


「決まり!って桃、何か乗り気じゃなくない?」


「そーじゃなくて、イマイチ実感がない。」


「ま、いーや。お小遣い貯まったら、中古釣具売ってるお店あるから行ってみよ?」


「わかった。」


 その話は一旦そこで終わる。



 お菓子を貪りながら駄弁りまくっていると、突如として話題が恋バナへ飛ぶ。極めてよくあるパターンだが、この日ついに標的にされる。


「桃って好きな人っていんの?」


 何てダイレクトな質問!


 瞬間、頭の中が真っ白になる。


「ふぇ?」


 変な声が出てしまう。

 同時にユキの顔がクッキリと浮かんだ。

 そして赤面。


「あっ!なに、その反応?」


「ぷっ!桃、わかりやすっ!」


 美咲と澪がニヤニヤしだす。


「え?何が?」


 誤魔化してはみるものの、


「桃、顔真っ赤。ほら!」


 置いてあった手鏡を見せられると、言い訳ができないほど真っ赤になっていた。


「え?え?え?」


 落ち着きなく頬を触り、慌てている。

 モロバレだ。


「そんなに恥ずかしがらなくてもいーじゃん。」


「え?でも、えっと…」


 真っ赤になったまま俯き、黙り込んでしまう。


「こっちの学校?それとも向こう?」


 どうやら許してくれないらしい。質問はなおも続く。

 しばしの沈黙のあと。


「………向こう。」


 白状させられてしまう。

 完全にいつもの明るい桃代じゃなくなっていた。消え入りそうなほど声が小さい。

 何とゆーか…すっげー可愛い!とは、こいつら談。

 

「遠距離じゃん。寂しいね。で、どんな人?」


「…優しい人。」


「そーなんだ。向こうは桃のことどー思ってんの?」


「…わかんない…好きだったら…いーなーって…思ってる。」


「ちょっと桃可愛過ぎ!抱きしめていいかな?」


「いーんじゃね?ギュッとしちゃおーよ!」


「…もぉやめよ?恥ずかしいよ。」


 ついに耐えられなくなり、ギブアップした。

 二人の友達は、自分のことのように喜んでくれて、はしゃぎまわっている。

 嬉しいけど恥ずかし過ぎる。


 9月。

 ユキの誕生日の次の日。

 昨日はメールだったけど、ユキの近況とナマであろうユキの言葉を送ってもらって今も少し嬉しい。嬉しさを隠せてなかったらしく、学校で美咲と澪に気付かれ、からからかわれて少し恥ずかしかった。


 桃代は少し前ケータイを買ってもらっていた。親一人子一人なので、連絡が取れないと心細い。という理由で持たせてもらった。菜桜と千春がやはり同時期ケータイを持ったらしく、先に持った菜桜から家に電話があり、ケータイの番号とメアドをおしえてもらった。それ以来、毎日連絡を取り合っていて、今に至る。


 そんな嬉し恥かしな下校時間。

 いつもの水門の付近が妙に騒がしい。

 水門の脇の駐車スペースにランドクルーザーシグナスが止まり、テレビカメラを持った人と、レーシングカーみたいにロゴが入ったシャツを着た、母親と同じくらいの年齢の男の人がいた。

 釣り番組のロケだ。

 初めて見た。

 その人は準備をし、カメラマンと一緒に土手を越え水門の下流、大きな川への流れ込みの方へ行ってしまう。

 美咲が、


「アレ、バス釣りだ!見に行ってみようよ!」


 興味津々であとを追いかける。

 それに続いて桃代と澪が追いかける。

 既にカメラは回っているらしく、近寄るのは気が引けて、少し距離を開け、三人並んで座ってずっと見学していた。


 そぉいやあん時も、こげな感じやったな。


 遠征でのシーンを思い出していた。


 それから数分。

 釣っていた男の人が


「食った!デカいかも!」


 ヒットを告げる。

 瞬間サオが大きく曲がり、水柱が上がる。


 すごい!


 サオを立てたり寝かせたり、かがんだりして突っ込みをいなす。

 いつの間にか見入っていた。


 あまり乗り気じゃなかった桃代。

 今、目の前で起こっている出来事を見て、やってみたい!と純粋に思った。

 しばしのファイトのあと魚は抜き上げられた。

 思わず三人で近寄っていき、カメラマンとプロの人と一緒に魚をマジマジと見る。

 40cmはある。


 バス…カッコイイ。ウチ釣ったの、こげデカくなかったな。


 そんなことを考えていると、


「お嬢ちゃんたち釣りすんの?」


 プロの人から話しかけられた。


「するけどバスはしてません。」


「そうなんだ。で、どう思った?」


「すごかったです。」


「やってみようと思いました。」


「そっか。気を付けて頑張ってね。」


 このやり取りはテレビで流された。

 見ることができなかったため、ちょっとだけ我が儘を言ってケーブルテレビに加入してもらった。


 このあと再開するが釣れない。

 テレビの人たちは、どこか別のところに行くみたい。

 片付けるとクルマに乗ってどこかへ行ってしまった。


 帰り道。


「桃、どうだった?」


 美咲が聞いてくる。


「なんかすごかったね。してみたいかも。」


「お小遣い、ある?」


「うん。」


「じゃ、今度の週末買いにいこーよ。」


「うん。」


 澪は、


「私、親から危ないから川に行っちゃいけないって言われてるんだ。だから釣具は買えない。でも、二人がするならバレないよーについてく。」


「そっか。でも一緒に来れるならそれでいーや。」


「うん。ついて行く。」


 ということらしい。



 次の週末、釣具を買いに行く。


 中古釣具店にて。

 初めてなので何もわからない。

 店に着いてすぐ、店員さんをひっ捕まえ質問する。


「バス釣り始めようと思うんですが、どんなの買えばいいんですか?」


 可愛らしい女の子三人組から質問され、驚いたもののすぐに立ち直り、おススメを選んでくれる。

 店員はスピニングを推してくるが、桃代も美咲もこの間プロが使っていたベイトが気になってしょうがない。ショーウィンドーの中には似たようなタイプのが並んでいる。


「あの~…こっちのは?」


 ベイトを指さす。


「初心者にベイトは難しいですよ?」


「なんでですか?」


「バックラッシュといって糸がもつれるんです。」


「そうなんですか…どーしよっか?」


 しばし二人で考える。

 そして、


「やっぱこっちがいいです。」


 二人してベイトを選ぶ。

 店員も考え方を切り替える。


「じゃ、これなんかいいですよ。古いけど上位機種です。」


 TD-X103Pi。

 10数年~20年くらい前のリール。

 傷はかなりついているが、店員が言うには「いい品」なんだそうだ。


「ここまでどうやってきましたか?」


 付き添いの親がいないことで店員が気を利かす。


「電車で。」


「それじゃサオはこれなんかが。」


 メジャークラフトのスライサー662M。二本継で持ち運びが便利な万能竿。


「じゃ、それください。」


「もし、どうしても使えないとかゆーことになったらいけないので、その時は交換します。レシートをしばらく保管しておいてください。」


 難しくて使えないと判断したときは持ってこい、というコトらしい。

 至れり尽くせりだ。

 幸い、数がそこそこ出ていた商品なので、もう一セット用意してもらう。二人して同じものを買う。

 次に糸。

 バックラッシュすることを前提に、ボビン巻きの14ポンドナイロン500mを買う。店員さんにスプールへの結び方を習い、最初なので巻いてもらうことにした。

 そのあとに投げ方とバックラッシュの直し方をおしえてもらい、理解した…気になった。


 そしてルアー。

 あのプロの人が使っていたのを探す。

 タイプは…あ、これ。クランクベイトっちゆーんか。

 同じの見つけた!ワイルドハンチ?何かカッコイイ名前。

 何種類か買お。あとは…ピーナッツ?っち豆みたい。そしてモデルA。こんな感じかな。


「あと、どんなのがいいですか?」


「これなんか。スピナーベイトと言います。」


 くの字型に曲がった針金の片方に金属のヒラヒラ。もう片方に魚の頭みたいなのが着いているルアー。


 なんじゃこりゃ?こんなモノでバス釣れるん?へ~。


 D-ゾーンとハイピッチャーをそれぞれ2個ずつ買った。

 これだけ買っても2万までいってない!

 後日、新品の釣具屋に行ってビックリすることとなる二人であった。


 道具は揃った。

 初心者でいきなしベイト。

 使い方は一応習ったが、果たして…。

 家に帰り、一人タックルをいじっている。リールをセットし、糸を通し、スナップを結び、ルアーを付ける。クラッチを切ってみた。スプールに親指も当てず。


 カチッ!スー…コトッ。


 ルアーが床に着いた瞬間。


 モシャモシャモシャ…。


「何これ!」


 リールのフレームの中で、放出されなくなった糸が出て、グチャグチャになった。


 これかバックラッシュ。そぉいや指当てちょらんやった。


 治し方も一応は習っている。今度は指を当てるのを忘れないようにして、ゆっくり糸を引っ張り出す。

 意外とすぐに治った。

 ホッとして美咲に電話。


「もしもし。狭間ですけど。」


「はい磯村です。って桃?」


 出たのは美咲。


「うん。リール、気を付けた方がいーよ!」


「あ。桃もなったんだ。」


「え?美咲も?」


「うん。親指当てないまんま糸出したら大変なことになっちゃって。」


「明日、釣り行こうと思ったけど、今のでかなりトラウマになったかも。」


「そーだよね。糸の予備持ってった方がいいかもね。」


「うん。ウチもそうする。」


 二人して部屋でバックラッシュしたらしい。

 それから電話を切り、ルアーを落し、スプールを止める練習をした。


 次の日。

 この間プロが釣った近所の水門。

 三人で川岸に立つ。

 邪魔にならない程度離れ、早速練習。

 記念すべき一投目。

 

 カチッ、ブ――――ン、ポチャ。


 マグネットブレーキを最大にしているため、バックラッシュはしなかったものの、


「あっれ~?なんか全然飛ばん。」


 プロのようには飛ばない。


「ダイヤル、一個ずつ緩めてみる?」


「うん。でも怖いね。」


 実行する。

 そんなに変わらない。

 また一つ、また一つと緩めていく。

 6.5の時、盛大にバックラッシュした。


「うわ!」


 桃代も美咲もほぼ同時だった。


「エライことになった。」


 引っ張ったけど糸が出ない。

 少し強めに引っ張ると、手に食い込んで切りそうになった。

 二人座り込み、黙々と糸を引き出そうとするが…無理だ。

 泣く泣く糸を切る。

 まずは飛んだルアーを手で手繰り寄せる。

 リールのフレームの内側で、モジャモジャになった糸をハサミで切る。

 引っ張り出していくと、やがてもつれてない部分が顔を出す。

 ダメになった糸を、持ってきていたお菓子の入ったレジ袋に入れる。

 スプールには糸が半分しか残っていない。

 ガッカリだ。

 気を取り直し、新しい糸を結ぶ。

 棒を拾ってきてボビンの中心の穴にさし、澪に持ってもらい巻きなおす。

 やっと復旧。

 その一投目。


「うわ!また!」


 桃代がやらかした。

 またもや修復不可能に。

 ブレーキダイヤルを強めておくべきだった。


 美咲は今、糸を巻きなおしている。


「美咲!ブレーキ一個強めんとまた糸ダメにするよ。」


「分かった。」


 警戒して二つ強める。

 美咲復旧。

 カチッ、ブ―――ン、ポチャ。


「二個強めた。何か引きずった感が取れないけど、バックラッシュはしなかったよ。しばらくこれで練習しよ。」


「じゃ、ウチもそうする。」


 すぐに二個強める。


 そして桃代復旧。

 カチッ、ブ―――ン、ポチャ。


「まぁこんなもんか。これで練習しよ。」


 あんまり納得できない飛距離だけど、我慢し練習する。



 学校から帰り、何度となく通う。

 二人ともみるみる上達していく。

 何度か修復不可能なバックラッシュはしたけど、半月もするとダイヤルは4~5の辺りで落ち着いた。

 人前で投げても迷惑かけない程度になり、プロの飛距離には及ばないものの、投げるのが楽しくなってきた。ルアーも何個か根掛かりでなくし、新たに買い足した。

 投げまくる日々は続く。


 そして記念すべき初バス。

 今日は美咲が用事で来られないので、一人いつもの水門で黙々と巻き続ける。

 ルアーはワイルドハンチの黒金。

 底に沈んだゴロタに、スタックしないように当てながら巻いてくる。

 深く潜り、石に当たった瞬間、ルアーがバランスを崩す。

 と同時に


 ガンッ!


 サオ先に衝撃を感じた。

 生命感。


 今の魚やろ!絶対魚やろ!


 反射的にアワセていた。

 グーンと引張られる。そしてフーッと軽くなり、


 バシャバシャ!


 エラ洗い。

 無我夢中でリールを巻くと、段々と寄ってきて足元へ。

 プロがやったように抜き上げる。


 やった!


 感動で身体中が震えている。

 急いでケータイをポケットから出し、カメラを起動させる。

 サオと魚を並べ写真を撮る。

 フックが危ないので、先の曲がったラジオペンチを使い、外す。

 下あごを持ち、もう一度撮る。

 サオで魚の大きさを測る。

 目印となる模様を覚え、


「ありがと!バイバイ!」


 初めて一人で釣ったバス。

 記念撮影もできた。

 嬉しすぎる。


 早速菜桜と千春に写メを送る。


「おめでと!」


 といった内容のメールが少しして届く。


 それにしても感動的だった。

 どハマり一直線だ。


 そのあと追加情報。

 ユキもバス釣りしているとのこと。

 帰りたい。帰って一緒に釣りしたい。

 日に日に帰りたい気持ちが増していく。

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