第31話③ むか~しむかし。

【釣り】

 釣りは親がするので、物心ついた頃から親しんでいた。


 学校の帰り道。


「学校の池にザルキン(ザリガニ)釣りいかん?」


「いーね!いこーや!」


 即決定。

 学校にある池は解放されているわけじゃないが、立ち入り禁止になっているわけでもない。故に、釣りをしても怒られたりすることはない。

 一応色鯉が飼ってあるが、特別誰かがエサをやっている訳でもなく、気が向いたときに給食の残りのパンをやったり、落ちた虫や小魚、ザリガニなどを食って生きている。半野生状態だ。


 幼馴染全員、イリコと裁縫の糸を持ってユキの家に集まった。

 バケツを持って早速学校へ!


 イリコの頭をちぎり食べる。

 頭と内臓があると沈まないからだ。

 胴体だけを糸に結び、沈める。


 釣り開始。

 この狭い池でアタリが出ない?

 ターゲットがジッとして食っているときはそんなモン。

 そんな時は、適当な間隔でたまに糸にテンションをかけてみる。

 軽く引っかかったような感触。


 ?


 さらに引っ張ると…


 ピンピン。


 弾くような感触が伝わってきた。


 きた!


 まだボディが薄茶色で完全にアッカン(大きくて赤いザリガニ)になりきっていない個体。

 両方のハサミでしっかりイリコを抱え、口に運んでいる。

 ここまで食わせれば、なかなか離さない。

 慎重に、なおかつ素早く上げる。


 ピチピチピチ!


 陸に上げられ飛び跳ねる。


「釣れた!」


 挟まれると痛いので、振り上げたハサミの届きにくい後ろ側から甲羅を掴む。

 捕獲成功!

 本日の第一号は美咲でした。

 バケツに入れる。


 今度は大気。


「お!」


 糸がス~っと動いていく。


「きたばい!」


 ジワッと糸を引っ張ると赤いのが見える。


「よっしゃ!アッカン!」


「マジで?いーなー。」


 フッと軽くなる。エサを離した。


「あ~あバレた。」


 すぐその場に落とし直す。

 すると。


 ス~…


「今度こそ!」


 さっきより食わせる間を長くとる。

 少し上げてみると…しっかり抱え、口にエサを運んでいる。

 そっと上げ、捕獲!

 ボディだけで10cm越えの立派なアッカン。ハサミの大きいオスだ。


「おぉ~、カッキー!」


 全員の目がキラキラ輝く。


 次に桃代。

 ものすごい勢いで糸が走り、あからさまにザリガニとは違う感触。


「うわっ!なんやか?」


 グッと力を入れてみた。

 赤白の模様。


「あ!色鯉色鯉!」


 30cmはある。


「マジで?」


 みんな寄ってきて桃代のファイトを見守る。

 フッと軽くなった。


「バレた。ハリついてないもんね。」


 笑っている。

 すぐさま足元に落とし込む。


 みんな元居た場所に戻り、釣り再開。

 今度は環。


「きた!でも軽いばい。なんやか?」


 そっと上げると…テナガエビ!


「エビばい!テナガテナガ!まあまあデカい。」


 そっと上げる。


「おぉ~!」


 陸に上げてもエサを離さない。そのまま後ずさる。

 ハサミの先から尻尾の先まで15cmはある。


「ここ、テナガもおったんやね!」


「知らんやったね。」


「うん。」


「ザルキンとおんなしバケツ入れたら共食いするばい。何か入れ物ないやか?」


 バカ騒ぎをしていたので先生が出てきた。


「釣れたんか?」


「はい。なんか入れ物ないですか?」


「ん?ちょと待っちょけ。」


 職員室に戻っていった。


「これでどげか?」


「いーです。ありがとうございます!」


 もち吉の缶を持ってきてもらう。

 それからも全員順調に釣っていく。


 しばらく釣っていると、だんだん暗くなってきた。


「お~い、お前ら。もうすぐ真っ暗になるき帰らないかんぞ?」


「は~い!」


「先生サヨナラ!」


「おう!気を付けて帰らなぞ!」


「は~い」


 帰るのを確認するため一緒に見ていた先生に挨拶して家路につく。

 短い時間だったけど楽しい釣行だった。



 休日の午後。


「今日はハヤ釣りいこ!」


 渓の提案。


「いーね!いこいこ!」


 即決定。


 家の畑にあるゴミ溜めでミミズを掘る。

 釣具を持って、さあ!出発だ。

 今日のメンバーはユキ、桃代、菜桜、渓、環、千尋、大気、海。

 まだこの頃は、全員延べザオで釣っていた。



 ここで。

 今はまだ三年生。

 よってバス釣りはまだ先。

 親達は既にしていて一緒に遠征に行ったこともあるし、キャストしたこともある。釣ったこともあるが、自分用のタックルは持っていないから興味が無いのだ。



 家の前の川。

 少し上流にかなりデカい瀬がある。全員がサオを出しても余裕がある規模の瀬だ。

 所々にちょっとした深みがあって、そこにハヤが群れている。

 各々が思い思いの場所に散る。


 準備をして釣り開始。

 仕掛けは0.6号の道糸、ハリスは0.4号、ハリは秋田キツネの3号で玉ウキ仕掛け。

 状況に応じ、ハリスにはガン玉をうつ。

 小さなハリ。

 ミミズをチョン掛けにし、ハリの大きさに合わせて切る。

 瀬から深みに移るポイント。

 反転流ができ、見た目には流れてない。流れに乗せ、反転流に巻き込まれるよう操作する。


 ピク…ピクピク…スッ!


 ウキが消し込む。

 サオをスッと上げ、アワセを入れる。

 小気味よい引き。


「よっしゃ!きた!」


 ユキ、ヒット。

 サオを立てると、ピチピチ暴れながら、オレンジ色の細長い魚が上がってくる。


「うわ!なんかこれ?ハヤ…よね?」


 12~3cm程のオイカワ。

 銀色で細長いコイ科の魚をまとめてハヤという。

 その中でもオイカワは代表格。

 普段は銀色だが今は産卵の季節。婚姻色が出ており、普段とは違った雰囲気だ。


「オイカワ!婚姻色出ちょー!」


「わ~…キレイね!」


 寄り添うようにして、桃代がマジマジとバケツの中の魚を見ている。

 この距離感は、桃代の計画的犯行だったりする。


 そうとは知らないユキは、「この距離感がすごくいい。」と思っている。

 近頃かなり意識している。

 只今二人、ドキドキ中。


 しばらく観察した後、桃代は戻っていく。


 釣り再開。

 桃代が変な魚を釣る。


「何これ?バスみたいなカタチやけど、色が違う。」


 みんなが寄ってくる。

 薄い茶色ベースの魚体。濃い茶色の模様が背から腹にかけて数本入る。ハタに似ておりエラブタには黒い丸。


「あ!これ図鑑で見たことある!オヤニラミ。」


 海が言った。


「へー…こげな魚おるんやね。」


 しばらくみんなで観察する。


 帰って親に聞いてみたところ、「ヨツメ」という呼び名があることが分かり、しかも絶滅危惧種とのこと。

 後日、そのネタで盛上る。


 元の場所に散っていき、釣り再開。

 みんな順調に釣れている。

 主な魚種はオイカワ、カワムツ、アブラハヤ、ムギツク、モロコ、フナ、カマツカ。

 魚種が豊富な前の川。



 夕方。


「帰ろっか?」


 菜桜が言いだす。


「そぉやね。」


 全員釣りを止め、仕掛けを片付け始める。

 そして、釣った魚を逃がしてあげる。


「ばいば~い。またね!」


 元気よく泳いでいった。


 今日も楽しかった。

 全員並んで土手を歩く。

 夕焼けがキレイだ。




【想い】

 帰り道。


 ふと気づいたことがある。

 この頃みんなで並んで歩くとき、必ずユキの隣には桃代。

 学校に行くときも、帰るときも、遊ぶときも。


 なんでかな?もしかして…好きなん?


 そう思った菜桜は、からかい半分で聞いてみる。


「桃?」


「ん?何?」


「この頃お前、いっつもユキの横やね。もしかして好いちょん?」


「~~~っ!」


 劇的な変化だった。

 爆発的に真っ赤になり、驚いた表情で菜桜を見返す桃代。

 アワアワしだす。


「え、い、いや、その…あの…」


 取り乱し過ぎて言葉が出てこない。


 あ~やっぱし。


 分かりやす過ぎる。

 この場にいた全員が、そう思った。


 桃もユキのこと好きなんやが。

 多分ユキもそう。


 確認の意味でユキを見てみる。

 狼狽えてはいないものの、少し頬が赤い気がする。

 夕焼けのせいではなさそうだ。

 

 こっちもか。

 

 両想い。


 未だアワアワし、


「えっとね…これはね、あのね…たまたま…」


 どうにか誤魔化そうとしている桃代。


「ごめんごめん。」


 笑ながら謝る菜桜。


「もー!バカ!」


 顔の赤みが未だ収まらず、うっすら目に涙を浮かべ、発狂している。

 リアクションがとんでもなく可愛らしくて面白い。


 好きな人が絡むとこんなふうになるんか。


 味を占めた幼馴染達。特に菜桜の本格的な桃いじりはここから始まった。


 今まで自覚してなかったみたいだったが、この言葉を機に、さらに強く互いを意識しだす。



 さっき、ユキくんのほっぺ、赤かったな。

 ウチのこと好きなんやか?

 もしそーやったら…嬉しいな。


 桃代ちゃんのあの反応。

 オレのこと好いてくれちょーんやか?

 もしそーやったら…嬉しいぞ。


 帰った後、全く同じことを考えていた。

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