第一話「浪人の……」 前編
昔々、とある浪人が旅をしていた。
彼は旅の合間に用心棒などして食い扶持を稼ぎながら仕官の口を探していたが、どこもなかなか召し抱えてはくれなかった。
「はあ、この数珠が光る所って。そもそもこれ光るのか?」
浪人は以前貰った数珠を見ながら歩いていた。
そして夕方にある宿場町に着いた。
「今日はここで宿を取るか」
そう言って探していると、相部屋だが泊まれる所があったのでそこに泊まることにした。
宿の女中に案内され、部屋に着くと先客の町人風の男が部屋の隅で俯きがちに座っていた。
「あ、ごめんなさいよ、相部屋させてもらうよ」
「へえ、どうぞ」
男はそう言った後、そのまま何か小声でブツブツ呟いていた。
「?」
その後も男は寝る前までずっとそんな調子だったので、
「もし。何か困った事でもあったのか? 拙者でよければ話してみてくれんか?」
浪人が見かねてその男に話しかけた。
「へえ、しかし」
「無理にとは言わん、しかし話すだけでも少しは気が楽になるかもしれんぞ」
「……じゃあ聞いてもらえますか?」
「ああ」
「実は、生活が苦しくて金を借りたんですが、そこがひどく暴利な利子を取るもんで、その」
「逃げ出してきたっていう訳か。しかし最初にわからなかったのか?」
「そこ以外どこも貸してくれなかったもんで。なんとかなるだろうと思った自分が馬鹿でした」
「して、借金はいかほど?」
「借りたのは一両でしたが、利子が膨れ上がり今は百両」
「なんだそれは、メチャクチャだな」
「はい。なんとか元金は返せたんですが」
「そうか。ところで追手は来なかったのか?」
「それが不思議な事に来ません。しかしどこかで待ち伏せしてるのかもと思うと」
「そうか……」
「すみません、こんな話して」
「いや、拙者が先に話してくれと言ったのだから」
そして夜もふけて、二人は床についた。
あーもし、そこのお侍様、ちょっと起きてくだされ。
「ん?」
浪人は起き上がった。
「人が近寄ってきた気配などなかったが、妖怪変化?」
違います、わしはそこの男の先祖でございます。
姿は見えないが声だけ聞こえてきた。
それは爺様のような声だった。
「ほう。して、拙者に何用ですか?」
浪人は声のする方に向かって言った。
実はそやつに金を貸した相手が追手を差し向けないのは、そやつの妻を攫って行ったからでございます。
「なんと?」
本人は逃げ出す前に離縁したので、追手は自分にしか来ないと思ったのでしょうが……これ、さっきから聞いてるのじゃろ? 起きんか、弥助。
そう言われてその男、弥助は起き上がった。
「うう、すまねえおなつ。実家へ帰せば大丈夫と思ったのに」
そう言うと弥助は泣き出した。
「してご先祖どの、それだけを言うためにわざわざ娑婆に来たわけではないでしょう?」
はい、実はその金貸しは、裏で何やら得体の知れない集団と繋がってるのです。
そやつらはおなごを集めて何やら恐ろしいものを呼び出すための生け贄にしようとしているそうです。
「何だこの訳のわからん超展開は?」
浪人はそう呟いた。
人同士の事なら多少は手出しできますが、相手が相手だけにわしらではどうにもならず、仏様におすがりしようとしたのです。
そうしたらちょうど娑婆から帰って来たというお地蔵様に出会い、貴方様の事を聞いたのです。
「あのお地蔵様の事か。しかしなぜ拙者を?」
お地蔵様が言うには貴方様の刀はお地蔵様の体を斬った事により妖の類をも斬れる力が備わったとか。
それに貴方ご自身も相当な使い手、きっと妖の類を退治してくれると仰ってました。
「だからそう言う事はその場でわかるようにしてくださーい! お地蔵様のバカヤロー!」
浪人は天に向かって叫んだ。
叫び疲れてから
「ま、まあ、そんな危ない奴らほっとけませんな……よし、拙者がそやつらを退治しましょう」
おお、ありがとうございます。
これ弥助、お前も。
「は、はい、どうかお願いしますというか、足手纏いかもしれませんが俺も着いていきます、人に任せて待ってるだけなんて」
「ああ、わかった」
こうして浪人は弥助と共に金貸しの所に向かった。
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