第52話

「だけどあんたはあのダーナンを殺った。しかも一人で」

「お前にとってダーナンは強大な暴力を手にした絶対者だったのだろう。盗賊を率い、村々を襲い、望むがまま食い、飲み、犯す。誰にも手がつけられない暴君。……だが現実は違う。奴は辺境で暴れる小汚い盗賊の首領にすぎなかった」

 ファバはレグスの話を黙って聞いている。

「山猫が好き放題に暴れられたのは、領主達が奴らの標的になった東黄人達を見捨てていたからだ。そうでなければもっと早い段階で駆除されていてもおかしくない。お前は疑問に思わなかったのか、東黄人の村ばかりを襲う事を」

「それは奴らが東黄人を嫌ってるから」

「嫌っているから襲う? では奴らは同胞である青目人に対してはどうだ? ダーナンは同じ青目人である部下達にそれほど優しかったか?」

 それはない。ダーナンにつまらぬ理由で無惨に殺された下っ端盗賊達がいる事をファバは知っている。

「いや」

「ダーナンは言っていたぞ自分はユロアから流れて来たと。大国ユロアから見れば同じ青目人と言ってもザナールなど所詮は東の辺境に住む異人だ。ザナールの青目人に対してダーナンが特別な感情を持っていたとは思えんな。奴らが青目人の街や村を襲わなかった理由は一つ、領主に目を付けられぬようにする為だ。その為に山猫はわざわざ痩せた東黄人の村を襲い、せこい略奪品で満足せざるを得なかった。そして汚い廃墟や村を転々として活動していた。本当に誰にも手がつけらぬ絶対者ならば、一箇所に留まり堂々していればよい。それこそ一国の王のように」

「それは……。だけどダーナンが強いって言っても相手が軍隊じゃ数が違いすぎる。俺が言いたい強さはそういう強さじゃねぇ」

「かつてフリア全土を巻き込んだ解放戦争では、多くの英雄が生まれた。名もない農民から王に駆け上がった者すらいた戦争だ。奴はその戦争に参加して、いったい何になれた?」

 答えは決まっている。

「何にもなれなかったのだ。あの程度の強さではな。だからケチな盗賊として辺境の弱者を食い物にしていた。はっきり言おう、ダーナンの強さなどたいしたものではない。奴を簡単に屠れるほどの腕を持つ者を俺は両の手で数えきれぬほど知っているぞ」

 嘘ではない。レグスがそんな嘘を言うような男ではない事をファバは理解していた。

「そうか、そうなんだろうな。あんたが言うんだ、俺が想像出来ないほど強い奴ってのは世の中ごまんといるんだろう」

「学ぶ気が失せたか?」

「逆だ!! そんなにすげぇ奴がたくさんいるなら、尚の事、俺は剣を知る必要がある!! 絶対あんたの強さを盗んでやる!!」 

「強さを盗むか……、まぁ好きにしろ。この旅を生き残れるなら、自然と身につくだろう、お前の言う強さもな」

「で、その為にはまずはこの弓をだろ」

「そういう事だ」

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