第43話『ロゼッタ』

――くそ!!

 ファバは自分の無力を呪い、醜態を悔やんだ。

 レグスと出会ってまだ日は浅い、それなのにもう彼を二度も呆れさせたのだ。それが耐え難かった。

 別にレグスを特別慕っているわけではない。彼の冷酷さ、残酷さは知っている。優しくされるなど期待してはいないつもりだった。

 そのはずだったのに、自分の中の甘えが、この醜態を生んだのだ。

 ダーナンを殺したレグスの持つ『強さ』は本物だと信じ、それを求めたファバにとって、この醜態はひどく苦痛であった。

 レグスははっきりと言った、殺したい屑はお前だと。

 彼にとって自分は必要のない人間だと、まざまざと見せ付けられたその現実に彼は苦悶するしかなかった。

――同じだ。何てことはない。同じじゃねぇか。

 それは今まで幾度となく経験してきた事のはずだった。それなのに。

――なのに何で……。

 どうしてレグスに失望されたという事実に、己の無力に、今さらこうも胸を衝かれるのだろうか。ファバにはわからなかった。

「元気だして、って私なんかが言うのも変かしら」

 落ち込む東黄人の少年をロゼッタが慰めようと試みる。

 彼女はファバを部屋に案内した後も、そのままにしておけず、少年と共にベッドの上に腰掛けていた。

「もういいよ。ほっといてくれ」

 そんな彼女の親切心も、今のファバにとっては鬱陶しいだけ。

「ほっとけって……、落ち込むいたいけな男の子をそのままにしておけるほど、冷たい女じゃないわよ、私は」

 自分を命がけで守ろうとした女。この女の背中に隠れ震えていた惨めな自分。彼女が近くにいれば、否が応にもその事を自覚せざるを得ない。

「ほっとけっつってんだろ!!」

 独りにして欲しいと願うファバであるが、ロゼッタもそれをはいそうですかと了承出来るような女ではない。

「だったらそんなに悲しそうな顔をしないで」

「あんたには関係ないだろ!!」

「そうかもしれないわ。……でも、あなたが悲しい顔をしていると、私まで悲しくなってくる、ほっとけないわ。それに独りで塞ぎ込むより、人とお話するだけでも全然違うものよ。それとも私なんかじゃあなたの力になれないかしら」

 諭すようなロゼッタの口調。優しく微笑む彼女に、ファバは戸惑った。

 他人の親切というものに少年は慣れていなかった。

 昨日まで顔も知らぬ仲、何故彼女が、自分にこれほど優しくするのか、同胞に忌み嫌われ育った者には理解できなかったのだ。

「なんでだよ。そんな事したってあんたに何の得もないだろ」

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る