第40話 眉間と耳と。

 授業中でもそうじゃなくても、目が合うといつもならふんわり微笑むのに、ここ2~3日はそうじゃない。

 眉間に寄せた皺。

 机の上で固く握られた両手。

 考え込む強い瞳も、正直いいな、と思ったのは嘘じゃないけど。


「次移動だよ?」


 みんないなくなった教室。

 まだ眉間に皺を寄せたままの彼女に声をかけた。


「……うん」


 机の中に手をいれて、教科書を探ったときも、それを腕に抱えて立ち上がったときも……彼女の表情は硬いままだ。

 その姿も魅力的だと思ったけど――。


「高木、シワ出来てる」


 右手の親指で彼女の眉間をそっと下から撫でてみる。


「さ、左京くん!」


 彼女はやっと俺を見る。

 驚いて、一気に赤く染まった頬。

 眉間の皺もすぐに消えた。


「西村のこと考えてた?」


 そう聞くと、彼女はすぐに頷いて、塩田茉由のところに行った青い髪留めは、彼女のじゃないと思うと話した。


「私、前に見てるの……あの髪飾り。ガーベラを買った素敵な人が付けてたの。……証拠なんてないんだけど……でも!」

「それが、西村だったと思う?」

「……うん。変かな」


 そうして不安そうに俺を覗きこむ。

 頼りにされてる気がして堪らない。

 こんな些細なことで煽られる俺は完全にイカれてると思った。

 今すぐ抱き締めて、その顔を誰にも見られないように隠してしまいたい。

 そんな気持ちを慌てて奥の奥にしまいこんだ。


「高木の記憶を信じるよ」


 広がった笑顔も嬉しかった。

 可愛くて仕方なかった。


「森口なら知ってるかな……?」

「森口くん?」

「前に、西村と屋上にいるとこ見たことあるんだ。放課後、森口と話してみようか」


 彼女は花のように笑う。

 あぁまただ。

 俺は彼女に勝てる気がしない。彼女は、まだ俺に緊張すると言うけれど、間違いなく俺の方がいっぱいいっぱいだ。


 待ち合わせた近くの洋食屋。

 老夫婦がやっているこの店の、甘いココアは彼女のお気に入りだった。

 歩きながら、話すことをまとめる彼女が、俺をまた忘れている気がして、ふいに彼女をからかいたくなる。


『ねぇ、高木、解決したらご褒美くれる?』


 耳元で囁くと、彼女は真っ赤になって怒った。

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