第21話 戸惑いの真夜中

 土曜・日曜と行われた学祭も無事に終わり、今日は全校生徒による片付けの日。

 明日は振替休日だ。

 私と未央のランチの場所が、今日から自然と4人の場所になっている。


「未央、お前さっき擦ったとこ大丈夫か?」

「あー、うん。大したことないよ」

「見せてみろよ」

「……え?!いいよ。いいって!」

「いいから、見せろって」


 学祭初日に彼氏と彼女になった二人を見る度に、嬉しくて嬉しくて勝手に口角が上がってしまう。何をしていても楽しそうな二人を、心の底から祝福した。


 それに――


「高木、指にソース付いてる」


 彼はそう言ったかと思うと私の小指を親指で拭い、自分に付いたソースをペロッと舐めた。


「さ、さ、左京くん!」


 慌ててティッシュを渡すと『サンキュ』と柔らかに微笑み私の頭をポンと撫でる。

 その一連の流れに、未央も右京くんも目を丸くして固まった。

 学祭の初日から、左京くんが……近い。

 私に向ける眼差しも、私にかける声も、態度も何もかもが何だか今までと違うのだ。


 ……勘違い……しちゃうよ。


 嬉しいはずの彼の態度も、ふとした瞬間に悩みにも変わる。

 私は少し俯いた。


 突然、両手をパチンと合わせて未央が言う。

「明日、みんなでどっか行かない?!」

 突然の提案に驚き、彼女へ視線を送ると、彼女は他の二人に気付かれないように私に向かって軽く頷いた。


 ***


 ど、どうしよう。

 これでもない。

 あれでもない。

 私の部屋はクローゼットをひっくり返したかのように服でいっぱいになっていた。

 未央の提案で、明日のお休みに、左京くんと右京くん、未央と私の4人で出掛けることになった。


『念願のダブルデートだね♪』


 未央が耳元で囁いた言葉が私の頭をぐるぐる廻っていた。


「……左京くん、おしゃれなんだよなぁ」


 前にお花の配達に行ったとき、私はとっても後悔した。

 ベージュのパンツに、白いTシャツ、グレーのパーカーを羽織って配達に行った私を出迎えた左京君の格好。インディゴブルーのジーンズと、黒いTシャツの上に羽織った赤いカーディガン。それに黒縁の眼鏡。

 まるで雑誌から出てきたかのようなその姿。

 でも彼は決して服に負けていなかった。


「はぁぁぁ」


 深いため息が部屋中に広がる。

『明日、1時に駅前ね!』

 あっという間にあと13時間。

 時計の秒針は、いつもより大きな音で私を急かす。


「……どうしよう」


 服で覆われたベッドに頭を乗せて目を閉じると、すぐに彼の顔が浮かんだ。

 前は話せるだけで嬉しかったのに。

 どんどん欲張りになる自分にとっくに気が付いていた。


 ……可愛いって思って欲しい。


 私はもう一度顔を上げると、広がる服を順番に手に取った。

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