第3話 新しい旅の準備

コンコンッ。


「レオン! 起きてる?」


朝、部屋のドアを叩く音とともに、聞き慣れた声が響いた。


「……ん? ミリアか?」


「そうだよ! そろそろ起きてるかなって!」


俺はベッドから身を起こし、眠い目をこすった。


「今、起きたところだ……」


「もう! 今日は買い物に行くんでしょ? 早く準備してね!」


「ああ、分かった。すぐ行くよ」


俺は身支度を整え、部屋のドアを開けた。


「おはよう、レオン!」


目の前には、満面の笑みを浮かべたミリアが立っていた。


「おはよう。朝から元気だな」


「もちろん! 今日はいよいよ旅の準備をするんだよ? 楽しみじゃないわけないでしょ!」


「……そうか」


あまりにも嬉しそうに言うものだから、俺まで自然と笑ってしまった。


勇者パーティーを追放されてから、まだ一日しか経っていない。


それなのに、こうしてミリアと二人で新しい旅の準備をしているのだから、不思議なものだ。


「それじゃあ、まずは武器の手入れからだな。長旅になるんだし、今のうちに整備しておかないと」


「うん! 私も必要なものを買わなくちゃ!」


俺たちは宿を出て、冒険者向けの店が立ち並ぶ通りへと向かった。


最初に訪れたのは、通りの奥にある古びた武器工房だった。


店内からは、金属を打つ音が響いている。


「いらっしゃい。武器の購入か?」


奥から顔を出したのは、恰幅のいい中年の男性だった。


「いえ、剣の手入れをお願いしたいんですが」


俺は腰に差していた剣を取り出し、店主に差し出した。


店主は剣を受け取ると、じっくりと眺め始めた。


「ほう……こいつは随分と使い込まれているな」


「まあ、長いこと使っていますから」


「それにしては、刃こぼれがほとんどない。手入れが行き届いているだけじゃないな……」


店主は剣を確かめたあと、俺の方へ視線を向けた。


「お前さん、かなりの腕前だろう?」


「え?」


「この剣の状態を見れば分かる。無駄な力を使わず、的確に扱っている証拠だ。魔法剣士としても、相当な実力があるんじゃないか?」


「い、いえ……俺なんて、まだまだですよ」


俺は思わず頬をかいた。


「謙遜することはない。長年武器を扱っていれば、そのくらいは分かるもんさ」


店主はそう言って、剣の手入れに取りかかった。


その様子を、ミリアは隣でじっと見つめていた。


(やっぱり、レオンはすごいな……)


レオンの戦い方は、とても無駄がない。


必要なときにだけ剣を振るい、必要な分だけ魔法を使う。派手さこそないものの、その一つ一つが正確で、効率的なのだ。


それなのに、あの勇者たちは彼の実力を見抜けなかった。


(本当に、もったいないことをしたよね……)


ミリアは小さくため息をついた。


「おーい、ミリア?」


「えっ? な、なに?」


「どうしたんだ? ぼーっとして」


「な、なんでもないよ!」


ミリアは慌てて首を振った。


「そ、そんなことより! 剣の手入れ、もうすぐ終わりそうだね!」


「そうだな」


しばらくして、店主が手入れを終えた剣を差し出してきた。


「よし、これでいい。大事に使ってやりな」


「ありがとうございます!」


俺は代金を支払い、剣を腰に戻した。


「さて、次は防具だな」


「うん! 行こう!」


俺たちは武器工房をあとにした。


次に向かったのは、防具を扱う店だった。


「レオンは、どんな防具にするの?」


「動きやすいものがいいな。重すぎると剣も振りにくくなるし」


「確かに、レオンは素早く動くもんね!」


店内には、革鎧から金属製の鎧まで、さまざまな防具が並んでいた。


俺は何着か試着し、動きやすさを確かめながら選んでいく。


「これならよさそうだな」


「うん! 似合ってるよ!」


「そうか?」


「うん!」


ミリアも自分に合った防具を選び、必要なものを購入した。


防具を新調したことで、少しずつ旅に出る実感が湧いてくる。


「よし、次は道具だな」


俺たちは道具屋へ向かった。


そこでは、食料、水筒、寝袋、野営に必要な道具、着替えなどを買いそろえた。


「食料はこれくらいあればいいかな?」


「そうだな。あとは旅先で補充すればいいだろ」


「着替えも忘れちゃだめだよ!」


「分かってるって」


ミリアが次々と商品を選んでいく。


気づけば、俺たちの手にはたくさんの荷物がぶら下がっていた。


「……なあ、ミリア」


「なあに?」


「これ、どうやって運ぶんだ?」


「…………あ」


ミリアは手元の荷物を見下ろした。


「そ、そういえば……!」


「マジックバッグを買えばいいんじゃないか?」


「それだよ、レオン!」


ミリアはぱっと顔を輝かせた。


「どうして今まで気づかなかったんだろう!」


「いや、俺も今気づいたんだけどな……」


俺たちは顔を見合わせて笑った。


そのまま近くの魔道具店へ向かうことにした。


店内には、魔石や魔道具が所狭しと並んでいた。


「いらっしゃいませ。何をお探しですか?」


店員に尋ねられ、俺は答えた。


「マジックバッグを探しているんですが」


「でしたら、こちらはいかがでしょう?」


店員が棚から取り出したのは、落ち着いた茶色の革製バッグだった。


「こちらは中型のマジックバッグです。旅に必要な荷物なら、十分に収納できますよ」


「へえ……」


見た目は普通のバッグなのに、そんなにたくさんの荷物が入るらしい。


「マジックバッグは、冒険者にはよく使われている魔道具なんです。容量によって値段が変わりますが、こちらなら長旅にも便利ですよ」


「それなら、これにしようか」


「うん! 私もそれがいいと思う!」


俺たちは代金を支払い、マジックバッグを受け取った。


さっそく荷物を入れてみると、あれだけあった荷物が次々とバッグの中に収まっていく。


「すごい……! 本当に全部入っちゃった!」


「これなら、持ち運びも楽だな」


ミリアは感心したようにバッグを眺めていた。


「これで買い物は全部終わりかな?」


「ああ。必要なものはそろったはずだ」


俺たちは店を出て、宿へと戻った。


部屋に荷物を置き、明日に備えて必要なものを確認する。


剣の手入れも済んだ。防具も新しくなった。旅に必要な道具もそろっている。


これなら、いつでも出発できそうだ。


「これで準備は全部終わったな」


「うん!」


ミリアは嬉しそうに頷いた。


「明日から、いよいよ二人の旅が始まるんだね!」


「ああ。どんな場所に行けるのか、楽しみだな」


勇者パーティーを追放されたときは、これからどうなるのかと思った。


けれど、今は違う。


隣にはミリアがいる。


そして明日からは、二人で新しい世界を見て回るのだ。


「それじゃあ、今日はゆっくり休むとするか」


「うん! おやすみ、レオン!」


「ああ、おやすみ」


ミリアと別れ、俺は自分の部屋へと戻った。


窓の外には、穏やかな夜の景色が広がっていた。


――明日から、俺たちの新しい冒険が始まる。

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