概要
「下げろと言われるたびに、一枚足す」北の公爵の雇い方が甘すぎます。
「いくら払えば、引き受けてもらえる」
婚約破棄の祝宴を出たリディアに、廊下で待っていた北の公爵アレクシスはそう訊いた。広間の誰もが彼女の顔を見ていた夜、彼だけが、白い痕の走る右手を見ていた。
王宮の灯が六年間一度も揺れなかったのは、伯爵令嬢リディアの右手が、その揺れを冷えとして受けていたからだ。そうと知らない王太子は「帳面係はいらない」と婚約を破棄した。リディアは自分が署名した一頁目の契約を撤回し、その夜のうちに王宮を出る。翌朝、王太子の朝湯は水になった。
雇いの契約書は、給金の欄だけが白かった。自分の値を書けずに「院と同じで結構です」と言うと、公爵は四十四を消して四十五と書く。「下げろと言われるたびに、一枚足す」。条項には「北では、契約官の身体に線を受けさせない」「雇い主は、雇った者に
婚約破棄の祝宴を出たリディアに、廊下で待っていた北の公爵アレクシスはそう訊いた。広間の誰もが彼女の顔を見ていた夜、彼だけが、白い痕の走る右手を見ていた。
王宮の灯が六年間一度も揺れなかったのは、伯爵令嬢リディアの右手が、その揺れを冷えとして受けていたからだ。そうと知らない王太子は「帳面係はいらない」と婚約を破棄した。リディアは自分が署名した一頁目の契約を撤回し、その夜のうちに王宮を出る。翌朝、王太子の朝湯は水になった。
雇いの契約書は、給金の欄だけが白かった。自分の値を書けずに「院と同じで結構です」と言うと、公爵は四十四を消して四十五と書く。「下げろと言われるたびに、一枚足す」。条項には「北では、契約官の身体に線を受けさせない」「雇い主は、雇った者に
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