「私」のために残された音声なのだと思って読んでいると、ある時から母の声で「おかあさん、おかあさんどこ?」と尋ね始める。読み進めると、母自身がラジカセに語りかけ、言葉を教えるように録音していたことが分かってくる。つまり、このラジカセは「私」が家を出たあと、孤独を紛らわせるために言葉を覚えさせていたものだった、のかもしれないということ。ここで感じるのが、母の寂しさと、母を失った「私」の寂しさ、そして同じように取り残されたラジカセとの不思議な共通性です。そこから始まる「私」とラジカセの奇妙な交流がとても良い。最初は恐ろしく、噛み合わなかった会話が、少しずつ互いの寂しさを埋める時間になっていく。そして最後には、母から受け取った言葉を「私」自身がラジカセに教える側になる。怪異の正体を明かすだけでは終わらず、孤独だったもの同士が、言葉を通して一緒に暮らしていくところまで描かれる。その優しさが、とても印象に残る作品でした。