第16話「運命の進級テストと、奇跡の3科目合格!」

第16話「運命の進級テストと、奇跡の3科目合格!」

​ ついに迎えた、特別補習組の運命を決定づける「進級テスト」当日。

 大樹の根に抱かれた大講堂の特別試験会場の前には、ピリついた重苦しい緊張感が漂っていた。その中で、家庭教師のタキモトが、受験票を握りしめる雑賀アルヴェインに向けて最後の注意事項を叫んでいた。

「いいですか先輩! 聖樹学園は完全な実力主義の『単位制』です。全科目を平均的に取る必要はありません。今回受験する五教科のうち、一度でも『70点以上』を叩き出した科目は単位取得(合格)扱いとなり、来年以降の試験では免除されます! 狙うは全体での赤点回避ではなく、局地戦での70点突破です!」

「……カムコ・ゴウカク……?」

 純白のハチマキをきつく締め直し、白フン姿に長ラン風ローブを羽織ったアルヴェインが、腕を組んだまま首を傾げる。

「要するに! 一度でも70点の壁を越えて討ち取った敵(科目)は、二度と先輩の前に立ちはだからないということです!」

「なに……? 一度屠った獲物は、二度と俺のシマを荒らさねぇということか……!」

 アルヴェインの涼やかな瞳が、野生の猛禽類のようにギラリと危険な光を放った。

「なら話は早ぇ! 拾った命(科目免除)をチマチマ稼ぐんじゃねぇ……。今日この盤上で、ケチな科目どもを片っ端から仕留めて、単位とやらを根こそぎ奪ってやるぜッ!!」

 ゴングが鳴る。

​【第一戦:国語 & 外国語】

 試験開始の魔鐘が鳴り響き、分厚い問題用紙が配られる。

 しかし、案の定というべきか。国語の長文読解に整然と並ぶ「黒い羽虫の群れ(漢字)」と、外国語の長文に延々と続く「均等なミミズのダンス(アルファベット)」を目にした瞬間、アルヴェインの脳内で強烈な防衛本能(睡眠魔法)が発動した。

(……くっ……いかん……。黒い羽虫が……一定のリズムで……古代の子守唄を……歌って……)

「グォォォォ……(爆睡)」

 開始わずか五分。アルヴェインは白目を剥いて机に突っ伏し、豪快なイビキを掻き始めた。監督官のエルフが呆れ顔でため息をつく。この二教科は、文字通り手も足も出ずに無残な全滅(不合格)となった。

​【第二戦:数学(算術 & 魔法幾何学)】

 鐘が鳴り、科目が変わる。目を覚ましたアルヴェインは、己の白フンをバシィィィンッと叩いて丹田に気合いを再注入した。

「ふぅぅぅぅ……ッ! 盤上の実体(そろばん)の持ち込みが禁止なら、俺の肉体に刻まれた『物理法則』で解き明かすまでだッ!」

 問題用紙には、複雑な図形の面積や、放物線の軌道を求める幾何学の数式が並んでいる。普通ならお手上げだ。しかし、今の彼には違って見えた。

(この図形の角度……ベーゴマ『赤フン号』が弾き飛ばされた時の衝突角と同じだ! そしてこの二次関数……卓球でシマダの重量ドライブを打ち返した時の、ピンポン球の放物線軌道そのものじゃねぇか!)

 彼は数式を「数字」としてではなく、「空間の力学」として直感的に理解していた。100マス計算の地獄で培った『神速筆記』が火を噴く。アルヴェインの鉛筆が、猛烈な摩擦熱と煙を上げながら、幾何学の解答欄に「力学的な野生の最適解」を次々と書き殴っていく!

​【第三戦:魔法薬 & 魔法史(本命)】

 実技の寸胴鍋がない、純粋なペーパーテストの魔法薬学。

 数百年の長寿で培った薬草の知識が炸裂するだけでなく、アルヴェインのペンは「魔力安全管理」の設問で驚異的な冴えを見せた。

(『初級ポーションに過剰な大地のマナを注入した場合の臨界時間と反応を記せ』……だと? 舐めるな、つい先日、俺自身がその臨界点を突破させて大爆発を食らったばかりだ! あの時の黒煙の匂い、熱膨張の速度、すべて俺の皮膚が覚えている!)

 失敗という最悪の経験を、完璧な安全管理の正答へと昇華させる。

 そして、運命の『魔法史』――。

(……見えたッ! タキモトと死に物狂いで手首に叩き込んだ、『20の連撃コンボ(重要漢字)』……ッ!!)

 意味や成り立ちなど関係ない。形を「21連撃の物理的なタッピング軌道」として筋肉に記憶させたアルヴェインの指先が、自動機械のように激しく躍動する。

『魔導都市結成』『聖樹学園』『精霊契約』――! 過去のテストで「ひらがな」しか書けず減点され続けた解答欄が、美しく、そして暴力的なまでに力強い達筆な漢字で次々と埋め尽くされていく!

「これがぁぁぁっ! 漢の起死回生……『一晒(ひとざら)し・暗記叩き』だぁぁぁッ!!」

​ 数日後。桜が完全に散り、新緑が眩しい学園の巨大な掲示板の前に、人山ができていた。

 恐る恐る結果発表の紙を覗き込むタキモト、シマダ、サキ、マリオ。そして腕を組み、下駄を鳴らしてどっしりと構えるアルヴェイン。

「あ、あった……! 雑賀アルヴェイン先輩の成績欄です!」

 タキモトが震える声で張り上げ、そこに書かれた数字を読み上げる。

 国語:35点(不合格)

 外国語:28点(不合格)

 数学(算術):72点(単位認定・合格!!)

 魔法薬:78点(単位認定・合格!!)

 魔法史:82点(単位認定・合格!!)

「さ……3科目……!? 1科目どころか、『3科目同時70点突破』で合格してるーーーっ!?」

「「「う、頭(ヘッド)ぁぁぁぁぁッ!! やりましたねぇぇぇ!!」」」

 掲示板の前に、シマダとサキのうれし泣きの絶叫が響き渡った。

 特別補習組のペナルティ進級条件「1科目以上の70点突破」を軽々とクリアし、見事に留年脱出・進級決定の快挙を成し遂げたのだ!

「ガハハハハ! 見たかタキモト! 俺の物理的な気合いと、お前の命懸けの指導の勝利だ!!」

 アルヴェインは歓喜のあまり、タキモトの小柄な体を豪快に抱き上げて高々と天へ掲げた。

「す、すごいです先輩! 魔法史82点なんて、エルフの歴史上でも奇跡ですよ! ……あっ、でも先輩!」

 タキモトが宙に浮いたまま、ふと我に返って真顔で指を突きつける。

「進級は決まりましたけど、残った『国語』と『外国語』の単位は取れてませんからね! 来年の卒業試験までにこの2つを70点以上にしないと、今度こそ卒業できずに終わりますからね!?」

「……ぬぐっ」

 アルヴェインは顔をひきつらせ、そっとタキモトを地面に降ろした。漢字と横文字という「文字の檻」との戦いは、まだ終わっていなかったのだ。

「グヒッ!」

「キャン♪」

 足元ではアース・パグのトシロウと雷獣チワワのチワ丸が「まあ、今日はめでたいから良しとしよう」と言わんばかりに顔を見合わせ、満足そうに尻尾を振っている。

 体育『5』、驚異の3科目突破を果たしたエルフンドシ番長。

 文字の山との死闘はまだまだ続くが、大地の重みを知る彼の『漢の道』は、吹き抜ける春の嵐とともに、どこまでも熱く、そしてシュールに突き進んでいく――!

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エルフんどし番長 水前寺鯉太郎 @suizenjiritaro

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