第5話「損得のあるこの世界の良いところ」

 俺はミキタカと手を繋ぎ、商店街を過ぎた先にあるロータリーに行った。そこの中央にある池の周りに立っているベンチに座った。

 「久々に来たな。ここ、小さい時にジイジと鯉の餌やりしたんだ。今は、水も抜かれてるけど。」

 「楽しそうな思い出ですね。」

 「あぁ。学校がつまんなかったのもあるけど、俺は、ずっと過去を引きずってきた。失ったことを認めたくなくて、人に当たってたんだ。」

 「そうですか。」

 「なぁ、ミキタカ。開き直るようだけど、これが青春だよ。」

 それを聞いても、彼女はきょとんとした顔を浮かべていた。

 「俺の場合は重症だ。でも、失敗を積み重ねて何かを成功していく、人生には、そういうのが必要だって思うんだよ。」

 「ですが、成功までは多大なストレスや周りへの悪影響が及ぶリスクも考えられます。」

 「ストレス?上等だよ!食べるものって、今の気分で選びたいもんだろ?人生も同じだよ。誰かを困らせたなら謝ったり、挽回すればいい。それに、ホントに辛くなったら、楽しかったことを思い出せば楽になる。」

 俺は池を眺めた。

 今は空っぽだけど、俺の頭の中では違う景色が浮かんでいる。水が溜まっていて、たくさんの鯉が泳いでいる。視線の先には、ジイジが小さい俺を抱っこしている。俺は握りしめた手をパッと開き、餌を池にばら撒く。パクパクと食べる鯉を見て、ジイジは俺の頭を撫でた。

 他にも、小学5年生の頃にキャッチボールをしている景色も浮かんだ。

 思い出に浸ると、目が水中にいるみたいにぼやけてきた。袖で拭いていると、ミキタカはハンカチを渡した。俺は「ありがとう」と言い、涙を拭いた。

 「ここへ来なくても大丈夫です。だって、あなたのおじいさんは、きっと空の上で、あなたを見守ってくれてますから。」

 この時、ミキタカは、俺に初めて笑顔を見せた。ありきたりな言葉だ。けど、その言葉だけで、俺は恐れることなく進める気がした。未来というドアを開いた先へ。


【おわり】

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

良いことばかりも良いけれど 瀬滝二会 @setaki2

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ

参加中のコンテスト・自主企画