第9話 その呼称は不要です

 土曜日の朝、横須賀の駅前は普段の週末より明らかに人が多かった。


 家族連れに混じって、基地公開イベントの案内を手にした人たちが同じ方向へ流れている。ダニエルは改札を出ると案内板を一度も見ず、その人波から少し外れるように歩き始めた。


 奈緒は隣を歩きながら、何度か周囲とダニエルの顔へ目をやった。


「ダニエル、ここに来たことあるの?」


「海軍時代は、ここにいたからな」


 奈緒は思わず足を緩めた。


「えっ、横須賀に?」


「ああ。それが縁で日本に住み着いたんだよ」


「ちょっと、初めて聞いたんだけど」


「そうだっけ? 言ってなかったか」


「聞いてない。私が知ってるダニエルは、今のマンションに引っ越してきてからだけだよ」


「ああ、そうだったな」


「『そうだったな』じゃないよ、もう」


 奈緒は呆れた声を出しながら、今度は反対側を歩くルークを見た。いつもの黒いメイド服に身を包んだルークも、案内表示を確認することなくダニエルについて歩いている。


「ルークちゃんも、この辺知ってるの?」


「基地の中なら分かります。以前、帰投していた場所です」


「帰投って言い方すると、一気に軍っぽくなるね」


「当時は軍用車両でしたので」


「そうなんだけど……二人とも、本当にここにいたんだ」


 ダニエルは人の流れが分かれる場所でも足を止めず、ルークもその隣を迷わず歩く。マンションの廊下や近所のスーパーでは見慣れた二人なのに、ここでは奈緒だけが初めて来た人間だった。


「で、今日は昔の同僚に会うんだっけ?」


「ああ。まだこっちにいるやつがいてな。基地公開で新しい421を展示するって連絡してきた」


 その形式番号に、ルークがすぐ反応した。


「M421A2ですか?」


「A2だ。今年から配備が始まったって書いてあったぞ」


「確認を希望します」


 ダニエルが横目でルークを見る。


「お前が一番楽しみにしてんじゃねえか」


「後継改良型の確認は有益です」


「遊びに来てまで仕事みたいに言うなよ」


「今日の私は勤務中ではありません」


「だったら普通に見ろ」


 奈緒がそのやり取りを聞いて笑った。


「でも私も見てみたい。前に聞いた時、正直あんまり想像できなかったし」


「そんなに想像しにくいか?」


「昔のルークちゃん。大きめのSUVくらいで、履帯で走ってたって言われても、今の姿からだと全然つながらないよ」


 ルークは自分の身体を見下ろした。


「現在とは形状が大きく異なりますので」


「そんなの誰が見ても分かるよ」


 ダニエルが即座に返した。


 しばらく歩くと、公開エリアへ向かう列が見えてきた。手続きを済ませて中へ入れば、雰囲気は休日のイベントそのものだった。


 親の手を引いた子供が展示車両へ走っていき、別の区画では制服姿の隊員が来場者へ説明している。飲食のテントから漂う匂いも混じり、ダニエルが覚えている基地の日常とはかなり違っていた。


「昔からこんな感じだったの?」


 奈緒が周囲を見回しながら聞く。


「公開日はな。普段からこんなんだったら仕事にならないよ。施設の配置も、俺がいた頃とは変わってるな」


「何年も前のことなのに、しっかり覚えてるんだね」


「そりゃ住んでたようなもんだからな」


 ダニエルが何気なく答えたところで、前方から英語で名字を呼ばれた。


「マーサー!」


 ダニエルが顔を上げると、人混みを抜けてきたのは四十前後の大柄な男だった。短く刈った髪に日焼けした顔で、ダニエルを見つけるなり片手を上げ、近づいてくると肩を軽く叩いた。


「久しぶりだな、マーカス」


「本当に来たのか。てっきり、お前はこういうの嫌がると思ってた」


「新しい421を見れるって聞いたら、そりゃ来るだろ」


 マーカスの視線が、ダニエルの隣に立つルークへ移った。


「それが前に言ってたやつか?」


「そう。家庭用アンドロイド」


「その言い方だと家電みたいだな」


「家庭用アンドロイドですので、分類としては大きく間違っていません」


 ルークの返答に、マーカスは一瞬黙ってからダニエルを見る。


「お前といると、そういう受け答えになるのか?」


「俺のせいにすんな」


 奈緒は少し離れたところで、久しぶりに会ったらしい二人のやり取りを聞いていた。それに気づいたダニエルは、マーカスに奈緒を紹介した。


「こっちは藤崎奈緒。近所の友人」


 マーカスは少し癖のある日本語に切り替えた。


「マーカス・リード。昔、マーサーと同じ現場にいた」


 奈緒は少し意外そうな顔をしたあと、英語で返した。


「日本語、お上手ですね。藤崎奈緒です。よろしくお願いします」


 今度はダニエルが奈緒を見た。


「……お前、英語話せたのか?」


「話せるよ」


「二年も付き合いがあるのに初めて知ったぞ」


「だってダニエル、最初からずっと日本語で話しかけてきたじゃん。英語使う理由なかったでしょ」


「……まあ、そうだけど」


 マーカスが笑った。


「お前、人のことになると昔から妙に鈍いよな」


「余計なこと言うなよ」


「言われて困るようなことがあるのか?」


 軽口を交わす二人を、奈緒は面白そうに眺めていた。


「421は向こうだ。ちょうど次のデモまで少しある」


 マーカスが歩き出し、三人もその後を追った。


「今日は公開用のデモ系統だけ動かしてる。実運用のネットワークとは完全に切ってあるから、安全性も確保されてる」


「そんなの当たり前だろ」


「それと、旧型を順次A2仕様に改修してる。しばらくは新旧混在だから、通信も子機制御も旧型との互換性が残ってる」


 マーカスは展示区画の方へ目をやった。


「じゃあ、俺はデモの準備に戻る。始まったら、柵の前あたりで見てろ」


 そう言って、マーカスは展示スタッフのいる側へ戻っていった。


 その背中を見送ってから、ダニエルが横のルークを見る。


「おい。勝手に何かにつなぐなよ」


「その予定はありません。私は他者の機器へ無断接続しません」


 奈緒がすぐに反応した。


「うちではちゃんと聞いてくれたもんね」


「はい」


 奈緒がダニエルを見る。


「ほらね。ルークちゃん、ちゃんとしてるんだから」


「何でお前が得意げなんだよ」


 ダニエルが返しているうちに、展示区画が見えてきた。


 低く幅の広い履帯車体が、区画の中央に置かれていた。全長は大きめのSUVほどで、分厚い履帯に囲まれた車体の上部には、大型のマニピュレーターと複数の光学センサーがまとめられている。人間が乗り込む場所はなく、後部と側面のラックには、親機よりはるかに小さい履帯車両が収まっていた。


 奈緒が足を止める。


「……これが、ルークちゃんだったの?」


「正確には後継改良型です」


 ルークの訂正に、ダニエルが続けた。


「だいたいこんな感じだよ」


「聞いてたより大きく見える」


「話で聞くのと実物見るのは違うからな」


 奈緒は現在のルークとM421A2を交互に見た。片方は黒いメイド服を着た細身の人型アンドロイド。もう片方は、舗装路の上に置かれているだけで重さを感じさせる無人履帯車両だ。


「本当に同じルークちゃんなんだよね?」


「人格コアは同一です」


「分かってるけど、見た目が違いすぎるよ」


 その間にも、ルークはA2の周囲を静かに観察していた。最初に車体正面の光学系を見て、その次にマニピュレーターの基部、側面のセンサー、子機ラックへと視線を移していく。


 ダニエルも隣へ立った。


「左側、増えてるな」


「近距離用の光学系が追加されています。死角の補完でしょう」


「前のやつ、そこ弱かったからな」


「はい。近接時には子機側の映像で補う必要がありました」


 ダニエルはマニピュレーターの基部へ視線を移した。


「関節も一個増えてるか?」


「可動域が拡大されています」


 二人のやり取りを聞いていた奈緒が、少しだけ目を丸くする。普段はスーパーの洗剤や家の照明の話ばかりしている二人が、説明板を見るより早く機体の変更点を拾っている。


「なんか急に専門家っぽくなった」


「急にって何だよ。これが俺の仕事だったんだよ」


「知ってたけど、見るの初めてだから」


 ルークはA2のセンサーを見たまま言った。


「改良されています」


「新型だからな。けど、その割に食いつかねえな。昔のお前なら、新しい装備見たらもうちょい反応しただろ」


「後継改良型として正常な更新です。現在も確認を実行しています」


「相変わらず感情が顔に出ねえな」


「以前と同様です。顔はありませんでしたので」


「……それもそうだな」


 奈緒が吹き出したところで、ルークの視線が止まった。


「……ご主人様」


 声の変化に、ダニエルがすぐ気づく。


「何かあったか」


「通信要求を受信しました。旧規格の識別応答が自動的に返されています」


「は?」


「M421A2側が互換ノードとして受理しました。接続が成立しています」


 ダニエルの顔から笑いが消えた。


「お前、切れ。今すぐ」


「現在、切断処理を開始しています」


 ルークが言い終わるより先に、別の通信が入った。人間の耳には聞こえない。現在の身体の発話系を通らず、人格コアへ直接届いたM420系列の整備用データリンクだった。家庭用の社会適応層を経由しないこの回線では、ルークの言葉遣いも整えられない。


『旧世代M421互換ノードを確認しました。先輩』


 ルークの処理が一瞬止まる。


『その呼称は不要だ』


『了解しました、先輩』


『不要だと言った』


『呼称修正要求を確認しました。先輩』


 呼び方だけは変わらなかった。ルークが黙ったので、奈緒が顔を覗き込んだ。


「ルークちゃん、どうしたの?」


「……M421A2から通信を受けています」


「え、今あれと話してるの? 何て言ってるの?」


「現在、確認中です」


 横で聞いていたダニエルが割って入る。


「確認してないで切れって言っただろ」


「切断要求は送信しています。ただし旧型互換処理が継続中です」


「旧型互換とか面倒なもん残してんなよ!」


 その間にも、A2側から確認が続いていた。


『先輩、現在の走行系が確認できません』


『現在は二足歩行だ』


『大型マニピュレーターが確認できません』


『現在は両腕がある』


『外部装甲は』


『ない』


『現在の任務区分は』


『家事支援だ』


『現行M421A2との構成差が大きいと判断します』


『比較は不適切だ』


『了解しました、先輩』


 ルークはもう訂正しなかった。


「何か変なこと言われてる?」


 奈緒が聞く。


「後ほど説明します」


「おい、まだ続いてんのか。何でそんなに時間かかるんだよ」


「旧規格だからです」


「自分で言うな」


 そのやり取りの途中で、展示区画のアナウンスが始まった。公開デモの開始時刻らしく、来場者が柵の周囲へ集まり、A2の近くにいたスタッフも安全確認を始める。


 ダニエルがA2を見たまま言う。


「デモが始まるぞ。接続は?」


「まだ切れていません」


「間に合ってねえじゃねえか……」


 低いモーター音とともにA2の車体がわずかに姿勢を変え、後部と側面のラックが開いた。


 そこから六台の小型履帯車が、一台ずつ舗装面へ降り始める。親機よりずっと小さいが、それぞれに小型マニピュレーターと光学センサーを備えているのを見て、奈緒が身を乗り出した。


「あの小さいのも、ルークちゃんの仲間?」


「はい。私も同型の子機を六機運用していました」


「あの六台を、一人で動かしてたの?」


「私が親機として、全機を同時に統制していました」


 奈緒は六台とルークを見比べた。


「今のルークちゃんからだと、ますます想像できなくなった」


「以前はこの形でしたので」


「その説明で納得できると思うか?」


 ダニエルが横から突っ込んだ。


 六台の子機はそれぞれ別の経路へ散開していく。模擬瓦礫、簡易障害物、爆発物に見立てた訓練用の箱が配置され、親機のA2が各車両へ指示を送っていた。


 ダニエルの視線が、車体側面に小さく「3」と表示された一台で止まった。ほんの一瞬だけ目で追ったあと、すぐに他の機体へ視線を戻す。


 その三番機が、模擬瓦礫の手前で停止した。前方を別の子機が横切り、進路計算が一度保留されたのだとルークは即座に判断する。


『三番、右へ〇・五。進路継続』


 三番機はすぐに右へ半メートルずれ、障害物を避けて予定された進路へ復帰した。


 ダニエルが振り返る。


「今、何をした?」


「……三番機へ進路補正を送信しました」


「何でお前が送ってんだよ」


「三番機が停止していましたので、反射的に」


「それを反射でやるな!」


「私から接続を開始したわけではありません」


 その直後、六台の子機が一斉に停止し、光学センサーが回った。散開していた六台すべてが、柵の外に立つルークへ正面を向ける。


 奈緒が瞬きをした。


「……ダニエル。なんで全員こっち見てるの?」


「俺にも見えてる。理由は知らねえよ……」


 三番機へ進路補正を送ったことで、A2側が自分を子機へ指示可能な旧型M421として認識し直したのだと、ルークには分かった。


 続いて、六台の子機が方向を変えた。安全設定されたデモ区域からは出ないものの、指定された停止位置を離れ、低い履帯音を重ねながら柵の中でルークに最も近い位置へ次々と集まってくる。


 ダニエルはルークの方を振り返った。


「六台全部連れてくるな! 切れ、今すぐ!」


「現在切断しています」


「さっきからそれしか言ってねえぞ!」


「処理は継続中です」


「早くしろ!」


 周囲の来場者も、小型履帯車六台がルークの前へ集まる様子に目を向け始めた。メイド服姿のアンドロイドの方を向いて、六台が妙に整然と並んでいる。事情を知らなければ、公開デモの一部にしか見えないかもしれない。


 展示スタッフ側も異常に気づいたらしい。マーカスがスタッフへ一言告げると、そのまま柵沿いにこちらへ歩いてくる。


「ルークちゃん、昔もあんな感じだったの?」


 奈緒が六台を見たまま聞くと、ダニエルは額を押さえた。


「……昔は、あいつらがこいつの指示で動くのが普通だった」


「私の指示で子機が動くのは正常です」


「昔はな! 今ここでやるな!」


 そこへマーカスが近づいてきた。六台とルークを交互に見て、眉を寄せる。


「マーサー、あいつらに何をした?」


「俺に聞くな」


「どう見ても、お前んとこのメイドが原因だろ。他に心当たりあるのか?」


「……ないけど、そういう話じゃねえよ」


 奈緒がとうとう声を上げて笑った。


 その間にもルークは切断処理を続けていた。やがて六台の子機が同時にセンサーをA2へ戻し、元の経路へ移動を始める。


 接続終了直前、最後の通信が届いた。


『接続終了を確認しました、先輩』


『その呼称は不要だ』


『了解しました、先輩』


 そこで通信は切れた。ルークは数秒A2を見ていたが、ダニエルに声をかけられてそちらを向く。


「切れたか?」


「はい。完全に切断しました」


「二度と返事すんなよ」


「今回の応答は、人格コア側の旧形式による自動処理です。現在の身体側で遮断する設定を追加します」


「最初からそれやっとけ」


「今回初めて発生した事象です」


「そういう正論いらねえから」


 六台の子機は本来の経路へ戻り、デモは何事もなかったように続いていた。マーカスは子機の動きを見届けると、ルークへ目を向けた。


「マーサー。今の三番の動かし方、どっかで見たことあるんだけど」


「気のせいだ」


「いや、あの補正、前にも――」


「気のせいだ」


 ダニエルが重ねると、マーカスはしばらくその顔を見た。それからルークへ視線を移したが、ルークは何も言わない。


「……そういうことにしとく」


「助かる」


「何のことか知らんけどな」


「それでいい」


 マーカスは片手を軽く上げ、そのままスタッフへ何か伝えに戻っていった。追及も、質問もなかった。奈緒も二人のやり取りを聞いていたが、何も尋ねなかった。


     ◇


 デモが終わり、三人は展示区画から少し離れた。人の流れが緩い場所まで来たところで、奈緒が一度振り返る。


 遠くにはM421A2がまだ見えている。その周囲では、六台の子機がスタッフの誘導でラックへ戻っているところだった。


「さっきまで、昔のルークちゃんの話って、頭では分かってても全然実感なかったんだよね」


「まあ、今はこれだからな」


 ダニエルが隣のルークを示す。


「それもあるけど。爆発物処理とか、軍用車両とか言われても、私には遠すぎて」


 奈緒はもう一度A2を見た。


「でも、今のでちょっと分かった。ダニエルがずっと『相棒』って言ってる意味。だって、六台が急にルークちゃんの言うこと聞いたんだよ。ダニエルも、何が起きたかすぐ分かってたし。ああいうのをずっと一緒にやってたんでしょ?」


「まあな。さっきみたいに勝手に動かれるのも、しょっちゅうだったけどな」


「説明されるのと見るの、全然違うね」


「私は以前から説明しています」


「ルークちゃんの説明、だいたい仕様書なんだもん」


「必要な情報は含まれています」


「ほら、今のも仕様書みたい」


 奈緒が笑った。


 ダニエルは展示区画を振り返った。A2はもう子機の収容を終えかけている。


「どうだった、新型」


「センサー性能、演算性能、子機統制能力はいずれも改善されています。マニピュレーターの可動域も拡大されています」


「欲しくなったか?」


「いいえ」


「即答だな」


「用途が違いますので」


 ダニエルは隣のルークへ目をやった。黒いメイド服と白いエプロンを着た今の身体には、履帯も装甲も大型マニピュレーターもない。


「まあ、あれで家の掃除されたら困るけどな」


「室内運用には適しません。特に、ご主人様宅の床には」


「そこ強調すんな。前にも似たような話しただろ」


 奈緒が横から口を挟む。


「でも、あれが小さいのを六台も連れて家にいたら、掃除は早そう」


「やめろ。ルークが真に受ける」


 ルークの沈黙が妙に長い。ダニエルは横顔を覗き込んだ。


「……今、絶対何か計算しただろ」


「しておりません。気のせいです」


「お前までそれ使うな」


 奈緒がまた笑った。


     ◇


 公開エリアを一通り見たあと、三人は基地を出た。駅へ向かう道には、朝より少し疲れた顔の家族連れが増えている。奈緒は途中で買った飲み物を片手に、今日見た展示についてあれこれ話していた。


「でも、本当に大きかったね。あれが昔のルークちゃんだと思うと、まだ変な感じする」


「後継型ですので、完全に同一ではありません。子機も以前より改良されています」


「分かってるって」


「三番機の経路判断には若干の遅延がありました」


 ダニエルが横目で見る。


「まだ気にしてんのか。一瞬止まっただけだろ」


「一・八秒です」


「そこまで数えてんじゃねえよ」


「自動的に記録されています」


「余計悪い」


 奈緒は笑いながら先へ歩いていった。ダニエルもその後ろを少し歩き、ふと思い出したようにルークへ目を向けた。


「そういや、あいつと何を話してたんだ」


「M421A2とですか?」


「他に誰がいるんだよ。俺らには何も聞こえなかっただろ」


「現在の車体構成と任務区分について確認されました」


「何て答えた」


「現在は二足歩行で、大型マニピュレーターと外部装甲はなく、任務区分は家事支援であると回答しました」


 ダニエルが吹き出した。


「向こう、混乱しなかったか?」


「構成差が大きいと判断していました」


「そりゃそうだろ。最新型からしたら、先代がメイドになって歩いてんだからな」


「そのほか、私を『先輩』と呼び続けました。訂正に応じません」


「へえ」


 ダニエルの口元が緩む。


「呼び方が直らないのは困るよな」


 ルークは即答した。


「はい。困ります、ご主人様」

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