第30話

霊峰の山頂を埋め尽くしたのは、漆黒の虚無を嘲笑うかのような、眩いばかりの「七色の祝福光」だった。


俺の精密な構成力。

エリザベートの無限の極氷と愛。

クラリスの不屈の熱炎。

そしてセレスティナの星の導き。


四人の力が織りなす究極の合体術式『創世の調和光(ジェネシス・ハーモニー)』が、ヴェルザの巨大な影を完璧に包み込んだ。


『馬鹿な……存在を消去する我が虚無が……光で……温もりで満たされてゆく……!? これが……調和というのかぁぁぁぁっ!!』


絶叫と共に、太古の虚無の王ヴェルザの肉体と魂は、何一つ残すことなく光の粒子へと浄化され、大気中へと還っていった。


空を覆っていた不気味な黒雲が裂け、雲の隙間から澄み渡る冬の青空と、温かな陽光が霊峰へと降り注ぐ。

地脈の狂いは完全に正され、極北の地に芽吹きすら感じさせる穏やかな風が吹き抜けた。


世界を破滅へと導くはずだった最後の脅威は、ここに完全に灰燼に帰したのだ。


「や……やったのか……?」

クラリスが大剣を地面に突き立て、荒い息をつきながら空を見上げた。


「はい……。星の軌道が……完全に正常な、そして美しい光の未来へと繋がりました……!」

セレスティナが感涙を浮かべ、天球儀を抱きしめた。


そして——。


ドサッ。


「アルスぅ……っ!」


緊張の糸が切れたエリザベートが、俺の胸へと激しく飛び込んできた。

俺は倒れそうになりながらも、彼女の体をしっかりと受け止め、抱きしめた。


「終わりましたね、エリザベート。俺たちの勝利です」


「ええ……ええ……っ! アルス……ありがとう……っ! 私を救ってくれて、私を愛してくれて……こんな素敵な世界を見せてくれて……っ!」


エリザベートは俺の胸に顔をうずめ、ポロポロと嬉し涙を流した。

かつて破滅の運命に怯え、孤独の中で暴走するはずだった悪役令嬢。

彼女は今、自分の手で世界を守り抜き、愛する男の腕の中で最高の幸せを噛み締めている。


俺の「悪役令嬢更生計画」は、ここに文字通り、完璧なる大勝利をもって完結したのだ。


数か月後。春の訪れと共に。


王立魔法学園の庭園は、満開の桜と色とりどりの花々で満たされていた。

今日は、王国とサザンクロス皇国の歴史上、最も盛大で華やかな「婚礼の儀」が執り行われる日であった。


純白のドレスに身を包んだエリザベートは、息を呑むほどに美しかった。

胸元には俺の作ったペンダント、そして薬指には、俺が贈った本物のダイヤモンドと氷結晶の指輪が光り輝いている。


「アルス……私、綺麗かしら?」


「ええ、世界で一番美しいです、私のエリザベート」


俺がそう答えると、エリザベートは熟したイチゴのように顔を赤くし、幸せそうに微笑んだ。


「ちょっとアルス! 私を忘れてもらっては困るぞ!」

豪奢なドレスを身に纏ったクラリスが、照れくさそうに参列者の中から手を振る。彼女もまた、サザンクロス皇国とルーンベルク王国の架け橋として、俺たちの『調和機関』の副代表に就任していた。


「星々も、お二人を永久に祝福しておりますわ」

セレスティナも神秘的な微笑みを浮かべ、礼を捧げている。


大聖堂のパイプオルガンが響き渡り、数百人の列席者からの温かい拍手が二人を包み込む。


誓いの壇上に立った俺とエリザベート。


「アルス・ローゼンバーグ。あなたはエリザベート・フォン・ヴァルハイトを妻とし、健やかなるときも、病めるときも、その愛と調和をもって生涯守り抜くことを誓いますか?」


「はい、誓います」


俺は即答した。


「エリザベート・フォン・ヴァルハイト。あなたはアルス・ローゼンバーグを夫とし、永遠の絆をもって支え合っていくことを誓いますか?」


「はい……! 喜んで、私の命の全てを懸けて誓いますわ!」


エリザベートは弾んだ声で答え、待ちきれないといった様子で背伸びをし、俺の唇に誓いのキスを重ねた。


割れんばかりの歓声と、舞い散る花びら。

誓いの接吻を交わしながら、エリザベートは俺の耳元で甘く熱く囁いた。


「逃がしませんわよ、アルス。……これから始まる私たちの永遠の未来、私をずーっと、甘やかして指導してくださいね……私の大好きな、指南役様?」


「ええ……喜んで、永遠に」


かつて最凶と呼ばれた悪役令嬢と、彼女を救った一人の指南役。

二人が紡ぎ出した愛と調和の物語は、最高の祝福に包まれながら、永遠に続く幸福な日常へと踏み出していくのだった。


(全三十話・完)

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