概要
手も握らなかった。それでも、何もなかったとは言えない。
四十二歳の建築士・榊透は、金曜日の午後十一時四十二分、JR玉造駅から乗った大阪環状線で、高校時代の恋人・河原美和と二十四年ぶりに再会する。
東京で結婚したはずの美和は、離婚し、認知症の母を介護するため大阪へ戻っていた。一方、榊には妻と七歳の息子がいる。
二人は連絡先を交換しない。 駅の外では会わない。 食事もしない。 毎週金曜日、同じ時刻の環状線で一周する間だけ言葉を交わす。
誰の生活も壊さないために決めた境界線。しかし、会えない夜を寂しく思い、家族には見せられない自分を相手にだけ見せるうち、その一時間は二人の日常から切り離せないものになっていく。
触れていなければ、裏切りではないのか。 嘘をついていなければ、何も隠していないと言えるのか。
列車は何度でも同じ駅へ戻る。 だが、人はいつまでも
東京で結婚したはずの美和は、離婚し、認知症の母を介護するため大阪へ戻っていた。一方、榊には妻と七歳の息子がいる。
二人は連絡先を交換しない。 駅の外では会わない。 食事もしない。 毎週金曜日、同じ時刻の環状線で一周する間だけ言葉を交わす。
誰の生活も壊さないために決めた境界線。しかし、会えない夜を寂しく思い、家族には見せられない自分を相手にだけ見せるうち、その一時間は二人の日常から切り離せないものになっていく。
触れていなければ、裏切りではないのか。 嘘をついていなければ、何も隠していないと言えるのか。
列車は何度でも同じ駅へ戻る。 だが、人はいつまでも
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