第3話 だまし道のその先に
右の道は緩やかな下りになっていて、
左の道は登りになっている。
ここは地元でも『だまし道』と呼ばれている場所だ。
右の道は一度下るが、そこから急激な登りになって丘の頂上に続き、左の道は登るだけ登った先が土砂崩れで通れなくなった旧登山道に続く。
ここに越してきたばかりの頃、丘の頂上に行こうとして、僕も大いに騙された。
あの子はどこに向かおうとしたんだろうか?
僕はズボンのポケットからスマートフォンを取り出して祭さんに電話を掛けた。
心配してるのだろう祭さんは、ワンコールもしないうちに電話に出てくれた。
「もしもし先生?ソラ君見つかった!?」
「いや、まだ。あの子…どっか行くとかなんか言ってました?」
「え?ううん…展望台で村の説明してて…ここは夜になると星が綺麗に見えるんだよって話してたの―」
祭さんは懸命に記憶を探っている感じで、いつもより早口になっていた。
「丘の方見てたから、あそこのてっぺんもお星様が綺麗に見えるよって、掴めそうなくらい近いよって、そう言って…」
そこまで言って祭さんは「あっ!」と声を上げた
「そういえば『ママ』って言ってたかも…」
もしかして…
「祭さん!そこにまだ僕の大叔母いますか!?」
「え?あ、この方先生の親戚なんだ…」
「いますか!?」
「うん。一緒にいるよ」
僕は暮れ始めた空に焦りつつ、出来る限り冷静な声を出した。
「大叔母に聞いてください。あの子にこう言ったことがあるか…『お母さんはお星様になった』って」
祭さんが大叔母と電話を代わった。
戸惑うような大叔母の声がスマートフォンの向こうから聞こえてきた。
「言ったわ…」
「え?」
「ママはお星様になったのよって。私、宇宙くんに言ったわ。それが?」
「分かりました」
僕は一方的に電話を切った。
僕は迷わず左に向かった。
あの子は子供だ。
きっと祭さんが言った『星が掴めそう』を、言葉のとおりに受け取った。
星になった母親に会いに、丘の頂上に向かったんだ―!
それなら登ろうとする。
あの子はこのだまし道のことを知らないから。
どうして今日初めて会った子供のために、こんなに必死になっているのかは自分でも分からなかった。
でも何となく外聞が悪いからとか、大人としての責任とか、そんな事の為だけじゃないような気がしていた。
『お父さんとお母さんはお星様になったのよ。』
両親を亡くしたばかりの僕に、施設のお姉さん先生が言ったのを思い出した。
下っ端とはいえ天文学者になった今、そんな事は有り得ないと解っている。
だけどその言葉は、あの頃の僕が顔を上げて空を見上げるには十分な理由だった。
足元に大きい石が増えてきて歩きづらくなってきた。さして体力の無い僕の足が悲鳴をあげている。
一度足を止め、膝に手を置いて息を吐き、顔を上げた。
――――居た!
土砂崩れで塞がれた道の手前。
大きな杉の木の下にうずくまるか細い背中が見えた。
呼んであげなくちゃ…
あの子の名前…
きっとあの子の母親が、
会ったこともない僕の従姉妹が、
願いを込めてつけたあの子の名前…
「
僕の声に反応して、白い小さな顔が振り向いた。
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