第2話 仕事を辞める確率
翌朝。
神谷直人は。
目覚ましを止めて。
天井を見ていた。
「…………」
仕事。
行く必要あるか?
最初に。
そう思った。
昨日。
スクラッチで10,000円。
その前には。
一番くじのA賞。
たった2回。
能力らしきものを使っただけで。
金になった。
もっと効率のいい方法を探せば。
会社員として働く意味など。
なくなるかもしれない。
「辞めるか」
口に出してみる。
だが。
本当に辞めたいのか。
直人自身にも。
よく分からなかった。
今の会社は。
特別好きではない。
嫌いでもない。
給料。
普通。
人間関係。
面倒な奴はいる。
でも。
どこへ行っても。
似たようなものだろう。
前職では。
もっと頑張っていた。
営業成績。
昇進。
部下。
責任。
気づけば。
人の数字まで。
気にしなければならなくなった。
それが嫌で。
転職した。
今は。
目立ちすぎない。
怒られない。
ほどほど。
それでいい。
そういう働き方をしている。
直人は。
何となく。
問いかけた。
――今後1年以内に、俺がこの会社を自己都合で辞める確率。
数字が浮かぶ。
――38.7%。
「…………」
思ったより。
高い。
指を伸ばす。
触れれば。
変えられる。
99.9%にすれば。
たぶん。
何かが起きる。
辞めたくなる。
金ができる。
転職する。
何か。
「いや」
手を下ろした。
「これは自分で決めるだろ」
数字が消える。
直人は。
ベッドから起きた。
結局。
いつも通り。
会社へ向かった。
午前。
営業部。
メールを確認する。
その中に。
東洋システムからの返信があった。
「……ああ、これか」
以前から。
何度か提案している大型案件。
金額は大きい。
決まれば。
自分の今月の数字は。
かなり楽になる。
ただ。
競合もいる。
ネクサス。
価格では。
向こうの方が少し安い。
直人は。
メールを見る。
来週。
最終提案。
そこで。
ふと思った。
――東洋システムが最終的にうちと契約する確率。
数字。
――21.6%。
「低いな」
まあ。
そんなものだろう。
今までなら。
資料を直す。
先方へ電話する。
競合との差を。
できるだけ埋める。
あとは。
結果待ち。
でも。
今は。
別の方法がある。
直人は。
周囲を確認した。
誰も。
こちらを見ていない。
数字へ。
指を伸ばす。
21.6。
33.2。
48.0。
62.7。
――79.5%。
止める。
「…………」
昨日は。
99.9%。
今日は。
79.5%。
理由は。
特にない。
ただ。
何となく。
全部99.9%にするのは。
面白くない気がした。
「これでどうなるんだろ」
直人は。
少しだけ。
楽しみになった。
最終提案の日。
直人は。
東洋システムの会議室にいた。
先方担当者。
部長。
そして。
本来なら。
出席予定ではなかった。
決裁権を持つ役員まで。
席についている。
「今日はたまたま予定が空いたので」
担当者が。
そう説明した。
「それはありがとうございます」
直人は。
営業用の笑顔で答える。
少し。
胸が高鳴った。
偶然。
だ。
役員の予定が。
たまたま空いた。
提案を始める。
途中。
先方の担当者が。
競合の見積書を見ながら。
眉を寄せた。
「これ……数字おかしくない?」
部長が。
見積書を見る。
「あ、本当ですね」
ネクサス側の。
見積ミス。
小さなもの。
致命的ではない。
でも。
印象は。
少し悪くなる。
直人は。
何も言わない。
自分の提案だけを。
淡々と進める。
終盤。
役員が。
直人を見る。
「神谷さん、前回も来てくれてたよね」
「はい」
「説明分かりやすかったの覚えてる」
「ありがとうございます」
「俺はこっちでいいと思うけどね」
担当者と。
部長が。
顔を見合わせる。
直人は。
笑顔を保った。
でも。
頭の中では。
別のことを考えていた。
「……マジか」
会社へ戻る途中。
小さく呟く。
79.5%。
決まったわけではない。
それでも。
明らかに。
流れが変わっている。
数日後。
契約。
取れた。
「神谷さん、やりましたね」
後輩が。
嬉しそうに声をかける。
「まあね」
「ネクサスに勝ったのデカいですよ」
「向こうミスってたから」
「それでもですよ」
「運よかった」
直人は。
本気でそう思った。
ただ。
その運を。
自分で上げた。
午後。
新規営業。
電話をかける前に。
直人は。
また考える。
――今からこの会社へ電話して、商談のアポイントが取れる確率。
――12.3%。
「こんな低いのか」
営業なんて。
普段は。
こんなものだ。
何件も。
何十件も。
電話する。
断られる。
その中から。
数件。
話を聞いてもらう。
直人は。
12.3%を。
50%まで上げた。
電話する。
「お世話になります。私、神谷と申します」
話す。
受付。
担当者。
数分。
『じゃあ、一度詳しく聞かせてもらえますか?』
「ありがとうございます」
アポイント。
取れた。
「…………」
直人は。
受話器を置く。
少し。
楽しくなってきた。
次。
見積書。
社内承認。
――この見積条件が、そのまま承認される確率。
――41.8%。
75%へ。
提出。
上司が。
数分見る。
「これでいいよ」
「ありがとうございます」
終わり。
今までなら。
価格。
粗利。
条件。
何度か。
差し戻されることもある。
今日は。
一発。
「……楽だな」
直人は。
椅子にもたれた。
仕事が。
急に。
ゲームみたいになった。
成功率が見える。
しかも。
その成功率を。
自分で動かせる。
努力が。
必ず報われる。
というより。
報われやすい状態を。
先に作れる。
直人は。
今まで。
努力そのものが嫌いだったわけではない。
努力して。
結果が出ない。
それが。
嫌だった。
客の気分。
競合。
上司。
タイミング。
運。
自分ではどうにもならないものが。
多すぎる。
でも。
今は。
その一部を。
自分で選べる。
夕方。
会社を出る。
朝。
考えていた。
仕事。
辞めるか。
直人は。
駅へ向かいながら。
少し考えた。
「まあ、まだいいか」
辞めるのは。
いつでもできる。
それより。
この状態で。
仕事をしたら。
どこまでできるのか。
少し。
試してみたい。
直人は。
いつもより。
少しだけ。
機嫌よく。
駅へ向かった。
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