魔王の宿主
水守 朝凪
序章『魔王邂逅』
俺には秘密の能力がある。
右手で触れたものの、ステータスを見ることができるのだ。
この街の住人は何かしらの能力をもっている。
父さんは右手で触れただけで病人を治療してるし、母さんは火が使える。
それらに比べたら一見地味だが、俺はこの能力を気に入っている。
だって、自分がどれだけ強くなったか、一目でわかるから。
だから俺の趣味は、当然――ステータス上げだ。
今日もいつも通り、朝から走ってる。
「はぁ……っ、はぁ……っ!」
足を止めない。
昨日より速く。
昨日より長く。
そして走り終えたら筋トレ。
腕立て。
腹筋。
スクワット。
最後は剣の素振り。
「一、二、三……」
木剣を振る。
「四、五、六……」
腕が重い。
それでも振る。
「百……!」
最後の一振りを終え、俺は木剣を下ろす。
「……よし」
右手を自分の胸に当てる。
すると、いつものように視界の隅に文字が浮かび上がった。
名前:ユウ
年齢:13
職業:作業員
魂:人間■■■■
体力:482
筋力:86
知力:31
敏捷性:95
スキル:
ステータスウィンドウ
機械整備 Lv.10
剣技 Lv.3
料理 Lv.5
「……体力、また上がった」
俺は満足して頷いた。
十三歳。
俺はまだ十三歳だけど、同年代の連中には負けない自信がある。
もちろん、上には上がいる。
天使様なんかは、俺とは比べ物にならないくらい強いらしい。
それでも。
俺はもっと強くなる。
いつか、この街の整備を全部任せてもらえるくらい。
……いや。
それだけじゃない。
もっと遠くへ。
もっと高く。
この世界のどこまでだって行けるように。
「毎日よく飽きないよね~」
「うわっ!」
突然声を掛けられて、俺は振り返った。
そこにいたのは、幼馴染のアウレだった。
「びっくりした……」
「そんなに驚く?」
「集中してたんだよ」
「ふーん」
アウレは楽しそうに笑う。
こいつは昔からこうだ。
俺が走っていても、剣を振っていても、いつもどこかから現れる。
「また強くなった?」
「もちろん」
「じゃあ、私も頑張らないとなぁ」
そう言って、アウレは笑った。
俺は知っている。
こいつも、人知れず努力している。
俺が朝から走っているように、アウレが誰もいない場所で鍛錬していることを俺は知っている。
俺には右手で触れたもののステータスを見る力がある。
でも、アウレのステータスを見たことはない。
幼馴染とはいえ、女の子だ。
本人に断りもなく触れるなんて、俺にはできない。
だから俺は、アウレがどれくらい強いのか知らない。
それでも。
きっと、俺よりずっと強い。
そんな気がしている。
突然、背後の壁が吹き飛んだ。
「え……?」
轟音。
爆風。
瓦礫。
とっさのことに、俺はアウレをかばうように覆いかぶさる。
ステータスのことなんて考えてる余裕はなかった。
「止まれ!」
声が聞こえて顔を上げる。
目の前には、一人の老人がいた。
真っ白な長い髪に、長いひげ。
ボロボロの服を着て、笑っている。
しかし眼光は鋭く、目は笑っていない。
「動くな!」
老人の背後には、三人の天使がいた。
全員が白銀の鎧に身を包み、背中には白い羽が生えている。
「しつこいのう……」
老人は天使たちに向き直り、面倒そうに頭を掻いた。
「少し待ってくれんか」
そう言って、俺を見る。
老人の目が、僅かに細くなった。
「ほほう?」
何かを確かめるように、俺とアウレを見る。
「シグマと……ネヴァか?」
「……?」
老人は口元を吊り上げた。
「ラッキーじゃ……」
次の瞬間。
俺の身体が宙に浮いた。
「えっ!?」
左手で首元を掴まれている。
足が床から離れる。
「お、おい!」
老人は俺を片手で持ち上げたまま、天使たちへ向き直った。
「お前ら、よく聞け!」
「その子を離せ!」
「こいつの命が惜しかったら、わしに構うでない!」
老人の声が、街中に響き渡る。
「お前らと遊んどる暇なんかないわ!」
天使たちが武器を構える。
俺は恐怖で身体が動かなかった。
だけど。
こんな時でも――
俺の右手は、老人の腕に触れていた。
文字が浮かぶ。
名前:徳川宇宙
年齢:113
職業:魔王
魂:人間■■■■■
体力:250123
筋力:35215
知力:19855
敏捷性:12557
スキル:閲覧不能
数字の意味が、理解できなかった。
「……魔王だって!?」
老人が、俺の顔を覗き込む。
そして笑った。
「見えたか、小僧」
その瞬間。
俺の世界は――
それまで俺が知っていた世界は、
音を立てて崩れ始めた。
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