第2話 騎士団

頬に固い感触がする

固いと言っても鉄のような硬さではなく、引き締まった筋肉のような硬さだ


これはまさか‥‥


硲野は意識を失う直前に駆け寄ってきていた美少女を思い出した


「膝枕!」


叫びながら目を開くと、黒髪で青い瞳のイケメンが視界に入った


確かに膝枕はされていた

しかし、膝枕をしていたのは美少女ではなく美男子だった

硲野が女子であれば嬉しかったかもしれない


だが、野郎に膝枕をされてもうれしくない

思わず露骨に残念そうな顔をしてしまった


「‥‥美少女じゃなくて残念だったな。」


イケメンが硲野の気持ちを察したのかニヤニヤしながら話しかけてきた

硲野はバツが悪くなり、すぐに起き上がった


「い、いえ、それよりも、ここはどこでしょうか?」


そうだ、誰が膝枕をしたかはこの際どうでもいい

本当に考えるべきは気絶したはずの自分が誰にどういった経緯でどこに運ばれてなぜこのような状況になったのかだ


「ここは第3騎士団の病棟だな。」


「第3騎士団?」


言われてみれば目の前のイケメンは帯刀しており、騎士のような風格がないこともない

ザ・異世界の庶民みたいな服装をしているせいで威厳などは感じられないが


「騎士団を知らないのか? ‥‥まぁ、お前、奇抜な格好をしていたみたいだし、この国の人間ではないのだろう。簡単に教えよう。」


イケメンによるとこの国、ヴェルト王国にはヴェルト騎士団というものがあり、第3騎士団というのはヴェルト騎士団の分団みたいなものだそうだ

主に、国の東側の警備にあたっているらしい


そういえば、服装が変わっているなと硲野は思った

修学旅行中だった硲野は制服を着ていたはずだが、今は入院患者のような服を着せられている


いや、入院患者なのだろう


横にはシングルサイズの純白のベッドがあった

本当はそこに自分は寝ていたのだろう


だが、何を思ったのか知らないが目の前のイケメンが硲野を膝枕しようとしたせいでややこしいことになったのだ


「よし、どこも問題ないみたいだな。」


勝手に俺の服を脱がして体を見てきた

硲野は思わず『ひゃっ』と高い声を上げてしまった


急いで服を着なおした硲野はイケメンをジト目で見た


「イケメンだからってすべて許されるわけではないですよ!」


「分かってるって。ちょっと暇つぶしに‥‥ぎゃっ!」


イケメンが頭にチョップを食らった

そして、ため息をつきながら銀髪をハーフアップにした、紫の瞳を持つ美女が現れた


「ここにいましたか‥‥まったく、いつになったらさぼり癖が治るんだか。」


「そうだな‥‥いつか新薬が開発されれば治るかもしれないな。」


ドヤ顔で決めるイケメンを無視して美女は硲野に近づいてきた

緊張で思わず硲野はのけぞった


「驚かせてすみません。私は第3騎士団副団長のアリス・リディアーズと申します。こっちのバカが我らが騎士団の恥、第3騎士団団長のクライヴ・レオナードです。」


イケメンに対し、随分と辛辣である

アリスはクライヴの部下のはずだが、クライヴがアリスの上司に全く見えない


「あの‥‥」


「戸惑うのも無理はありません。状況を説明いたします。‥‥こちらへ。」


アリスの手引きで入ってきたのは硲野が意識を失う直前に見た美少女だった


「私はレイナ・エレイティアです。」


レイナは丁寧にお辞儀をした

硲野もつられて礼をした


「俺は硲野燈です。よろしくお願いします。」


「ハザマノ・トオルさんですね。‥‥それでは、貴方が倒れられてからの説明をさせていただきます。」


レイナによると硲野は彼女によってここまで運ばれたらしい

そして血まみれだったため、傷がないか確認されたが無傷だったため、とりあえず寝かされていたらしい


街の人々はほとんど死亡しており硲野は残り少ない生き残りらしい

盗賊団は騎士団によって制圧されたようだ


「それで、あなたは血まみれだったのですが、なぜ無傷なのですか?」


着ていた服にはいくつもの斬撃の跡があったのにとレイナは付け足した


「それは‥‥」


硲野はあの時のことを思い出した

首を斬られ、死んだかと思ったら傷が癒えた時のこと


話すべきだろうか

この世界の仕組みがわからないので何を話したらよいかわからない


もし、この再生する力、不死の能力というべきであるこれがこの世界では禁忌とされている力だったら?


回復魔法ですと嘘をつくべきか?

待て、この世界に魔法という概念があるのかもわからないぞ


硲野が出した回答は‥‥


「わかりません。あの時は生きるために精一杯で、何が何だか‥‥」


「そうですか。‥‥アリス様。」


「ご苦労でした。レイナ、それでは彼を実験室へ‥‥」


「ちょっと待ってください!」


「なんでしょうか?」


「なんでじゃなくて、実験!?」


やめてほしい

てか、やめろ!


異世界に飛ばされて死因が実験とか最悪だし、死ななくてもモルモット生活はごめんだ


「貴方が自分の力が分からないなら、貴方をこちらで調べさせていただく必要があるので。‥‥多分痛くないので安心してください。」


「安心できるわけないでしょ‥‥」


硲野は考えた

どのみち自分が斬られても再生することはバレる

ならば本当のことを話したほうが実験されずに済むのではないか


「実は‥‥俺、多分不死です。」


硲野は腹をくくって盗賊に襲撃された時のことを離した

レイナやアリスは驚いていたがクライヴはあくびをして聞いているかどうかもわからなかった


「信じて、くれますか?」


「信じましょう。そう考えたほうがつじつまが合いますし。」


アリスやレイナは信じてくれたようだ


「よかっ‥‥」


その時、ボトリと床に何かが落ちた音がした

硲野が床を見ると右腕が落ちていた


「え? っつ、ぎゃぁぁ!」


自分の右腕が斬られていたのだ

苦悶の表情を浮かべながら視線を向けた先にはクライヴが剣を抜いて立っていた


「本当だ。再生してるな。」


再生していく様子を見ながらよくもまぁ、呑気なことが言えたものだ

再生する様子はかなりグロいはずだ


レイナやアリスは若干引いている


「何、を、するんですか!」


「いや、嘘かもしれないから。」


「本当に嘘だったらどうするんですか‥‥」


「その時はその時だ。‥‥回復魔法の形跡もなし、こいつは本当だな。面倒なことに。」


クライヴはなぜか頭を抱えている


「なんか、やばかったりします?」


「ああ。この国というか、この大陸では唯一神、オーディンを信仰するオーディン教が国教とされているのだが、中にはオーディンを悪神とし、教会をたびたび襲う者たちがいる。そして厄介なことに君はオーディンの能力とされる『不死』の力を持っている、というわけさ。」


うん、やばいな

非常にまずい

不死だから殺されないにしても拷問や監禁はありそうだ

この時代の人がまともな倫理観を持っているとも考えにくい


「どうすればよいのでしょうか‥‥」


冷や汗をダラダラ流す


「心配するな。俺たち騎士団で君の面倒を見よう。ただ、居候させるだけのお人よしではないんだな俺は。」


何か役に立てということなのだろう


「何をすればよいのですか?」


「よくぞ聞いてくれた。実はな、先の盗賊団の討伐でレイナの分隊の人員がかなり減ってな、君に入ってもらおうと思うんだ。」


「俺、剣も握ったことのないど素人ですよ。」


「どうせ死なんのだしいいだろ?」


良くない

なんて言えない

自分は面倒を見てもらう側なのだ

むしろ、職ができたことを喜ばなければ


物理攻撃で死ななくても餓死で死ぬことはあるかもしれない


「それで、不死のことは分隊の人たちに行ってもよいのですか?」


「駄目だ。ここにいる者たちだけの秘密だ。そうでもしないと大変なことになるのはわかるだろう?」


「わかりますけど! 俺、絶対途中でぶっ殺されて、再生するところ見られますよ!」


「回復魔法だけは得意だとでも言ってごまかしておけ。」


「あんた、結構適当ですね!」


「どうも。アリスからもよく言われるよ。」


クライヴはあとは任せたとレイナに言って去っていった

‥‥アリスに首根っこをつかまれ、ずるずると引きずられて


「痛い、苦しいから引っ張るな…げほっ、ゴホッ‥‥強い強い、そんなんじゃモテ…ぎゃっ!」


などと情けない声を出して


「‥‥それでは、私の分隊の方へ案内しますね‥‥。」


硲野は申し訳なさそうに言うレイナに同情せざるを得なかった


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ここまで読んでいただきありがとうございます!


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