とても騒がしい妖精です。
頭の中をお花畑、ならぬ「ラブコメ畑」にしてしまう元気いっぱいで可愛い妖精は、クラスメイトの義妹です。
彼女は現在入院中。昏睡状態からまだ目覚めていません。
そんな危うく不自由な時間を、義兄の恋のキューピッド役に捧げることにした健気な妹……ではあるのですが。
クスッと笑える甘酸っぱいイベントを楽しみつつも、ふとした瞬間に心の片隅がじんわりと痛むのを感じます。
妹は、本当は自分の身体へ戻りたがっています。
読者としても、この「アルバイト」がどうか短期で終わり、愛するお兄ちゃんのもとへ無事に帰れることを願わずにはいられません。
どこか切ない哀愁を漂わせつつも、物語が必要以上に重くなりすぎないよう明るく振る舞う妹の「脳内名演技」が光る、とても魅力的なラブコメ作品です。
事故をきっかけに、昏睡中の後輩女子・葵の意識が頭の中に住みついてしまった結衣。
しかも葵が大好きなのは、自分の義兄である成瀬くん。
そして結衣もまた、その成瀬くんに密かに想いを寄せています。
けれど、なかなか素直になれない結衣に対して、頭の中の葵はとにかくにぎやか。
恋を応援しているはずなのに、ちょっとしたことで大騒ぎしたり、勝手に焦ったり。
二人のやり取りがテンポよくて、何度も笑ってしまいました。
結衣は気持ちを伝えられずにいるのに、頭の中には恋に全力な葵がいる。
そんな二人の組み合わせが面白くて、自然と恋の行方が気になってきます。
病室で眠る葵と、その意識と一緒に過ごす結衣。
ちょっと不思議で、にぎやかで、もどかしい。
奇妙な二人羽織で進んでいく恋模様が楽しいラブコメです。
「昏睡中の義妹が、私の頭の中で兄を推してくる」というタイトルだけを見ると、賑やかなラブコメを想像するかもしれません。
実際、昏睡状態の義妹・葵が主人公の結衣の頭の中に現れ、兄・総司郎との距離を縮めようと大暴走する場面は、かなりコミカルです。
しかし、この作品の面白さは、それだけではありません。
葵は「兄を推す」ために結衣の頭の中で騒ぎ続ける一方、現実の彼女は病院のベッドで眠り続けています。
この二つの姿が並ぶことで、ラブコメの楽しさの裏側に、事故で昏睡状態となった少女と、その妹を心配し続ける兄という、少し切ない物語が見えてきます。
特に印象に残ったのは、結衣が病院で眠っている葵自身を目にする場面。
それまで頭の中で元気いっぱいに喋っていた葵と、目の前で身動き一つしない葵。その落差によって、「この子は本当に戻りたいんだ」ということが一気に実感できます。
そして、結衣と総司郎の恋も、いきなり大きく進展するわけではありません。
昼食のちょっとしたやり取り、妹のための品物選び、病院への付き添い、何気ないプレゼント――。
そうした小さな出来事を積み重ねながら、少しずつ二人の距離が近づいていく。その過程を、葵が横から大騒ぎしながら見守っている構図が楽しいです。
また、一つの出来事を三人がそれぞれ違う意味で受け取っているのも、この作品ならでは。
結衣にとっては恋の進展。
葵にとっては「お兄ちゃんをよろしく!」という一大イベント。
そして総司郎にとっては、眠り続ける妹を思いながら過ごす日常。
この三つの視点が重なることで、単純な恋愛コメディではない物語になっています。
明るく騒がしい葵と、眠り続ける現実の葵。
その二つが同じ人物だからこそ生まれる笑いと切なさが、この作品の大きな魅力だと思います。
葵は果たして本当に目を覚ますことができるのか。
そして、結衣と総司郎の関係はどうなっていくのか。
ラブコメとして笑えて、時々ちょっと胸を締めつけられる。
そんな作品です。