第10話 止まらない工程表
会社は、動いた。
意外に早かった。役員会に上がって、二週間で方針が出た。
「大正15年ロットの一括回収について、実施主体各位に対し、慎重な取り扱いを申し入れる」
文面はこれだけだ。だが、この会社としては異例の速さだった。
俺は、その申し入れ文書を持って、三週間かけて、全国を回った。
結果を先に書く。
一件も、止まらなかった。
最初に行ったのは、県の道路管理課だった。
「無電柱化は、国の推進計画に基づく事業です」
担当者は、丁寧だった。丁寧に、俺の話を最後まで聞いてくれた。
「御社のご懸念は、記録に残します。ただ、路線ごとに道路占用の手続きが進んでおりまして」
「工期を、ずらすことは」
「できません。予算が単年度なので」
次に行ったのは、電力会社だった。
「うちは、依頼を受けて設備を撤去する側です」
「依頼元は」
「自治体です」
自治体に戻ると、こう言われた。
「実際の作業は、電力会社さんと施工業者さんですから」
俺は、三週間で、この輪を四周した。
誰も嘘をついていない。誰も責任逃れをしていない。全員が、自分の持ち場について正確に答えている。
持ち場の外に、レバーがないだけだ。
最後に行った町では、担当の係長が、少しだけ本音を漏らした。
「東雲さん。うち、この事業で来年度も予算を取る予定なんです」
「はい」
「進捗が悪いと、取れません」
「……」
「去年、隣町が取れなかったんですよ」
俺は、
止まらない理由が、ようやく分かった。
誰も進めたがっていない。だが、止まると、来年の予算が減る。
そして予算が減った担当者は、数年後の人事で不利になる。その頃には、この案件のことなど誰も覚えていない。
帰りの新幹線で、俺は学生のころに読んだ戦史の本を思い出していた。
作戦を止められなくなる組織の話だった。
止まらないのは、誰かが暴走しているからではない。予算がついていて、工期が決まっていて、担当者が異動するからである。
中止は損失として計上される。実行は、少なくとも積極策として記録される。
窓の外を、電柱の列が流れていった。
上端に、白い点が見えた。
一本。また一本。
俺は、数えるのをやめた。
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