第9話 エクストラクエスト

翌日。


僕は絵美のいる病院へ向かった。

病室に入ると、絵美はベッドの上で目を覚ましていた。


「お兄ちゃん」


「起きてたんだ」


「うん」


笑ってくれた。

だけど、以前みたいな元気さはない。


少し話しただけでも疲れてしまうし、時々苦しそうに咳き込む。


「ゴホッ……ゴホッ……!」


「絵美、大丈夫?」


「うん……大丈夫」


そう言うけれど、明らかに無理をしている。

薬で症状を抑えている。

それでも、病気は少しずつ悪くなっている。


僕は絵美の顔を見ながら、拳を握った。


王樹の雫。


あれを手に入れなければならない。


そのためには、第四門【王】へ行けるだけの力が必要だ。


「……急がないと」


焦る。


一日でも早く強くならなければ。


そう思いながら病院を出た。

その帰り道だった。


「彩戸?」


「……華蓮?」


振り返ると、月城華蓮が立っていた。


「やっぱり彩戸だ!」


「どうしたの?」


「買い物の帰り。彩戸こそ、病院にいたよね?」


「うん……」


僕は少し迷った。

でも、華蓮なら話してもいいと思った。


絵美のこと。病気のこと。

そして、王樹の雫のこと。


全部話した。

華蓮は黙って聞いていた。


「……そっか」


しばらくして、華蓮が口を開く。


「じゃあ、私も協力するよ」


「え?」


「私も銅級上位だし。二人なら――」


「ダメだよ」


「……え?」


「これは僕がやる」


「でも……」


「華蓮は無理しちゃうから」


昔からそうだった。

僕のためなら、自分が傷つくことなんて気にしない。

だからこそ、巻き込みたくなかった。


「大丈夫。なんとか頑張ってみるよ。その気持ちだけでも受け取っておく」


「……本当に?」


「うん」


華蓮は納得していない顔をしていた。

それでも最後には、


「……分かった」


と頷いた。


「でも、無茶はしないでね」


「うん」


「絶対だから」


「分かった」


そう言って、僕たちは別れた。


僕が家へ向かって歩き始める。

その背中を、華蓮はしばらく見つめていた。


そして――


「……無茶するに決まってるじゃん」


小さく呟く。


華蓮はスマホを取り出した。

画面にはさっき彩戸から聞いた言葉。


第四門【王】


そして、


王樹の雫


「……私にも何かできるはず」


華蓮はそう呟いて、検索画面を開いた。



翌日。


僕は再び第一門【獣】へ向かった。

まだ第四門へ行ける力はない。


だから、今は第一門で経験値を稼ぐ。

そして――レベルを上げる。


門の中へ入る。


牙狼がこちらへ飛びかかってきた。


「――そこ!」


僕は横へ避ける。

そのまま拳を叩き込んだ。


ドンッ!


牙狼が地面を転がる。


「……え?」


自分でも驚いた。以前とは明らかに違う。


力にステータスポイントを集中させたことで、身体能力が大きく変わっている。


別の牙狼が襲ってくる。

今度は正面から受け止め――


「っ!」


そのまま押し返す。


「すげぇ……」


近くにいたハンターが呟いた。


「……あいつ、前からあんなに強かったか?」


「いや、もっと弱かっただろ」


「銅級上位って、あんなに強いのか?」


僕は聞こえないふりをした。


攻略を終える。


また霊魂石を手に入れる。

そして経験値を貯める。


第一門へ行く。帰る。また行く。


それを繰り返した。


いつしか、


「あの新人、最近ちょっと強くないか?」


「あいつの話?」


「第一門で妙に活躍してる奴」


そんな話が少しずつ広がり始めていた。

まだ、ただの風の噂。


誰も僕が無色級だとは知らない。


そして――


レベル8。


力に5ポイント。


力:36


さらに門へ。


そして、


レベル9。


力に5ポイント。


力:41


「……順調だ」


このままいけば、もっと強くなれる。


そう思った。


けれど――

ステータス画面を見て、僕は眉をひそめた。


「……あれ?」


経験値の表示がおかしい。


いつもなら、


経験値:0/100


と表示されるはずなのに。


今は――


経験値:0/0


「……0?」


何度見ても変わらない。


その瞬間。

ステータス画面が大きく揺れた。


「なに……?」


見たことのない文字が浮かび上がる。


《特殊条件を達成しました》


そして――


《エクストラクエストが発生しました》


「エクストラクエスト……?」


さらに文字が続く。


【レベル10到達条件】


エクストラクエスト


第一門【獣】


そして、その下に表示された条件。


『第一門の単独クリア』


「…………は?」


僕は画面を見つめた。


単独。


つまり――


誰の助けも借りずに。僕一人だけで。

第一門を最後まで攻略しろということ。


「いや……」


思わず言葉が漏れる。


「無理でしょ……」


僕はまだ、第一門を一人で攻略したことなんてない。


それなのに。

レベル10になるためには――


第一門を、一人でクリアしなければならない。


「……僕に、やれっていうのか」


画面にはただ淡々とクエスト内容だけが表示されていた。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る