深夜2時の喫茶店
懸木しろ
深夜2時の喫茶店
「私ね、見た目だけで近づいてくる男が大嫌いなの」
深夜2時。ダンディーな店主が営む喫茶店で、女が一人カウンターに座っていた。
「あぁ、いますよね、そういう人」
店主は包丁の手入れをしている。棚に並んだ道具は全て丁寧に手入れされ、光っていた。
「内面まで見て愛してほしい…そう思ってるの。私はその人の見た目だけが好きだったわけじゃないのに…今までの彼氏はそれに答えてくれなかった…世の中そういう男ばかりよ」
女は切れ長の目を細め、ため息をつく。机に置かれたコーヒーの湯気が、静かに揺れている。
「見た目が良いからこそ生じる悩みですか。確かにその美貌だと、男はぞろぞろやってきそうですねぇ。まるでゾンビみたいに」
「ゾンビ?ふふっ。あなた、意外とコミカルな比喩をするのね。今度から使わせてもらうわ」
「ぜひぜひ…」
「…あなたにも分かるんじゃない?見た目が良い故の悩みが」
「私ですか?」
すらっとした長身で白髪混じりの店主が苦笑いする。
「私はそこまでですよ。背が高いね、バレーとかやってた?と頻繁に聞かれる程度です」
「ふ〜ん、そう」
「あぁ、良い人そうとも良く言われますね」
「それは分かるわ。話してて良い人そうなのがなんとなく伝わってくるもの」
女は笑みを浮かべながらコーヒを飲む。店主はそれを見ながら微笑んだ。
「お味、いかがですか?」
「…最高」
「ありがとうございます」
「久しぶりに美味しいコーヒーを飲んだわ。どうすればこの味になるのかしら」
「色々と研究したのです。豆のブレンド、挽き方、淹れ方…私は味覚が鋭いので、都度味見して調整を重ねてきました」
「素敵ね。努力家って感じ…。やっぱり味覚って大事なの?」
「えぇ、大事ですよ。味覚が優れていれば様々な場面で使えるので」
「そうなのねぇ。ふふっ、あなたに興味が湧いてきたわ」
女が赤いドレスの裾に指を滑らせた。艶かしい肌が見え隠れする。
「えぇ、私もです」
殺し屋と結婚詐欺師は、穏やかな時を過ごしていた。
深夜2時の喫茶店 懸木しろ @shiro_12-79o
カクヨムを、もっと楽しもう
カクヨムにユーザー登録すると、この小説を他の読者へ★やレビューでおすすめできます。気になる小説や作者の更新チェックに便利なフォロー機能もお試しください。
新規ユーザー登録(無料)簡単に登録できます
この小説のタグ
関連小説
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます