とうもろこしのポプコンおじさん

朝霧雫

とうもろこしのポプコンおじさん

むかしむかし、とうもろこし畑のとなりに、小さな村がありました。


その村には、ちょっと変わったおじさんが住んでいました。


名前は、ポプコンおじさん。


おじさんは、とうもろこしのように黄色い帽子をかぶり、いつも大きな袋を背負っていました。


そして、村の子どもたちからは、こんなふうに呼ばれていました。


「ポプコンおじさん!」


「おじさーん、今日もポップコーンある?」


「ああ、あるとも。ほら、できたてだぞ」


おじさんは、子どもたちにポップコーンを配るのが大好きでした。


甘いポップコーン。


塩味のポップコーン。


ときどき、チーズ味のポップコーン。


子どもたちは大喜びです。


「わーい!」


「おじさん、ありがとう!」


「たくさん食べるんだぞ」


ポプコンおじさんは、いつもニコニコしていました。


けれど――


おじさんには、ひとつだけ困ったところがありました。


それは、とっても短気なことです。


何か嫌なことがあると、顔がみるみる赤くなります。


「むむむ……」


「むむむむ……!」


そして、とうとう怒ると――


「ぬおおおおおっ!」


ぽんっ!


ぽぽんっ!


ぽぽぽぽぽんっ!


なんと、おじさんの頭から、ポップコーンが飛び出してくるのです。


「うわあああ!」


「ポップコーンが降ってきたー!」


「逃げろー!」


でも、ポップコーンなので、ちっとも痛くありません。


ぽふっ。


ころん。


ぽすん。


頭に当たっても、ふわふわです。


おじさんは、顔を真っ赤にしたまま叫びます。


「こらーっ! 悪いことをするんじゃない!」


ぽんっ!


ぽぽんっ!


またポップコーンが飛び出しました。


村の人たちは、困ったように笑いました。


「怒っているのに、なんだかおいしそうだねえ」


「まったくだ」


「でも、食べるのは怒りが収まってからにしよう」


そんなポプコンおじさんには、大切な友だちがいました。


それは、畑で育てている小さなヤングコーンたちです。


ヤングコーンたちは、まだ背が低く、葉っぱも細くて、とても可愛らしい姿をしていました。


おじさんは、毎朝、畑へ行くと声をかけます。


「おはよう、みんな。今日も元気か?」


「おはよう、おじさん!」


「お水を持ってきたぞ」


「わーい!」


おじさんは、ヤングコーンたちに水をあげたり、雑草を抜いたり、葉っぱについた小さな虫を取ってあげたりしました。


「大きくなれよ」


「うん!」


「でも、急がなくていいからな」


「ゆっくりでいいの?」


「ああ。とうもろこしは、ゆっくり育つんだ」


ヤングコーンたちは、おじさんの話を聞きながら、風に葉っぱを揺らしました。


さらさら。


さらさら。


まるで、笑っているようでした。


ある日のことです。


村の子どもたちが、畑の近くで遊んでいました。


「ねえねえ、ヤングコーンを見に行こうよ!」


「うん!」


子どもたちは、畑の中へ入っていきました。


そして、ヤングコーンたちを見つけると、大喜び。


「わあ、小さい!」


「かわいい!」


「こっちの子、葉っぱが長いよ!」


ヤングコーンたちも、嬉しそうに揺れています。


「こんにちは!」


「こんにちは!」


ところが、そのうちのひとりが、いたずらを思いつきました。


「ねえ、ヤングコーンを一本、抜いてみようよ」


「えっ?」


「だめだよ。おじさんが大切に育てているんだから」


「でも、ちょっとだけなら……」


その子は、ヤングコーンの葉っぱを引っ張りました。


「やめてー!」


「いたいよー!」


ヤングコーンたちが、びっくりして声を上げます。


そのときです。


畑の向こうから、ポプコンおじさんが走ってきました。


「こらあああああっ!」


おじさんの顔が、みるみる赤くなります。


「畑のものを、勝手に抜いちゃいかん!」


「ご、ごめんなさい!」


「大切に育てているんだぞ!」


おじさんは、ぷるぷる震えました。


そして――


「ぬおおおおおっ!」


ぽんっ!


ぽぽんっ!


ぽぽぽぽぽんっ!


空から、ポップコーンが降ってきました。


「わあああ!」


「ポップコーン攻撃だー!」


ぽふっ。


ころん。


ぽすん。


子どもたちの頭に、ポップコーンが当たります。


でも、痛くありません。


むしろ、甘くていい匂いがします。


「……あれ?」


「これ、食べてもいいの?」


ポプコンおじさんは、まだ顔を赤くしていました。


「こら! 今は反省するところだぞ!」


「はーい……」


子どもたちは、しょんぼりしました。


ヤングコーンたちも、葉っぱをぺたんと倒しています。


「ごめんなさい」


「もう、引っ張らないよ」


「大切にするね」


すると、おじさんの顔の赤みが、少しずつ消えていきました。


「……うむ」


おじさんは、ヤングコーンたちをそっと撫でました。


「わかってくれれば、それでいいんだ」


子どもたちは、畑の外からヤングコーンたちを眺めました。


「おじさん、この子たち、いつ大きくなるの?」


「もう少ししたら、立派なとうもろこしになるぞ」


「じゃあ、大きくなったら食べられるの?」


「ああ。みんなでおいしく食べような」


「やったー!」


ヤングコーンたちは、嬉しそうに葉っぱを揺らしました。


「ぼくたちも、おいしくなるぞー!」


「でも、まだ小さいからねー!」


「ゆっくり育つんだよー!」


ポプコンおじさんは、思わず笑いました。


「ははは。そうだな」


その日の夕方。


おじさんは、子どもたちを家に招きました。


「今日は、特別にポップコーンを作ってやろう」


「わーい!」


大きなお鍋に、とうもろこしの粒を入れます。


ふたをして、火にかけると――


ぽんっ!


ぽぽんっ!


ぽぽぽぽぽんっ!


「わあああ!」


「すごい!」


「おじさんのポップコーンだ!」


おじさんは、鍋をゆっくり揺らしました。


「ほら、できたぞ」


子どもたちは、できたてのポップコーンをほおばりました。


「おいしい!」


「ふわふわ!」


「もっと食べたい!」


おじさんは、嬉しそうに笑いました。


「よしよし。たくさん食べなさい」


そのとき、ひとりの子どもが尋ねました。


「ねえ、おじさん」


「なんだ?」


「おじさんは、どうして怒るとポップコーンになるの?」


ポプコンおじさんは、少し考えました。


「うーん……」


そして、頭をかきながら答えました。


「昔から、とうもろこしが大好きだったからかなあ」


「それだけ?」


「それだけだ」


子どもたちは、けらけら笑いました。


「じゃあ、怒らないときもポップコーンになればいいのに!」


「それは……」


おじさんは、少し困った顔をしました。


「できるかもしれんな」


「やってみて!」


「よし!」


おじさんは、目を閉じて、にっこり笑いました。


「ぽんっ!」


……。


何も起こりません。


「ぽんっ!」


……。


やっぱり、何も起こりません。


子どもたちは、笑い転げました。


「おじさん、怒ってないから出ないんだよ!」


「そうかもしれんなあ」


おじさんも、大笑いしました。


その夜。


ヤングコーンたちは、月明かりの下で、静かに眠っていました。


ポプコンおじさんは、畑のそばに座り、優しく声をかけました。


「今日も、元気に育ってくれてありがとう」


「おじさん、ありがとう」


「明日も、お水をあげるからな」


「うん!」


おじさんは、ヤングコーンたちを見つめながら、にっこり笑いました。


すると――


ぽんっ。


小さなポップコーンが、ひとつだけ頭から飛び出しました。


「……あれ?」


ヤングコーンたちは、びっくりしました。


「おじさん、怒ってないのに!」


ポプコンおじさんは、ポップコーンを拾って、嬉しそうに笑いました。


「どうやら、嬉しいときにも出るようになったらしい」


「わーい!」


「おじさん、すごい!」


「じゃあ、毎日笑ってね!」


「そうだな。毎日、笑うとするか」


月明かりの下で、ポプコンおじさんとヤングコーンたちは、仲良く笑いました。


ぽんっ。


ぽぽんっ。


ぽぽぽぽぽんっ。


今夜も、畑のとなりには、ポップコーンの甘い香りが広がっています。


そして村の子どもたちは、明日もきっと、ポプコンおじさんのところへ遊びに行くのでしょう。


「おじさーん!」


「おう! 今日も元気かー!」


「ポップコーン、くださーい!」


「よし! 待ってろー!」


ぽんっ!


ぽぽんっ!


今日も、とうもろこし畑は、笑い声でいっぱいでした。


おしまい。🌽🍿💕

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