黒崎探偵事務所 調査記録
対象者:立花 美優
立花美優 二十一歳
事務職。
母親からの依頼で調査開始。
依頼内容は失踪ではない。
連絡は取れている。
事件性も確認されていない。
ただし帰宅頻度の減少、連絡内容の変化あり。
母親は「娘らしくない」と証言。
調査開始。
◇
立花美優は普通の人だった。
勉強が特別できた訳ではない。
運動が得意な訳でもない。
友達が極端に多い訳でも少ない訳でもない。
学校へ行き。
卒業し。
就職した。
どこにでもいる二十一歳。
少なくとも本人はそう思っていた。
◇
特徴は優しい事。
ただしこれは長所でもあり短所でもある。
人を嫌わない。
人を責めない。
我慢できる。
頑張れる。
だから壊れかけている事に本人が気付くのが遅い。
◇
職場環境に重大な問題は確認されず。
上司との関係は普通。
同僚との関係も普通。
いじめ、暴力、ハラスメント等も確認できず。
ただし。
全てが少しずつ苦しかった。
誰も悪くない。
だから助けを求める理由も見つからない。
これは案外厄介である。
◇
母親との関係は良好。
本人も認めている。
母親を嫌っていない。
むしろ好き。
それでも距離を取った。
理由は反発ではない。
心配をかけたくなかったから。
本音を言えなかったから。
優しい人間によくある症状。
◇
Re:Birth利用。
初回利用時の記録を確認。
本人は施設に救済を求めていない。
居場所を探していた訳でもない。
ただ少し疲れていた。
結果として居場所を見つけた。
◇
Re:Birthについて。
違法性なし。
強制性なし。
利用者への過度な依存誘導も確認できず。
少なくとも調査時点では健全な支援団体と判断。
利用者の多くは「助けられた」と証言。
立花美優もその一人。
◇
調査結果。
立花美優は失踪していない。
騙されてもいない。
洗脳もされていない。
ただ息継ぎをしていた。
社会の中で少し疲れた人間が。
もう一度泳ぐために。
少しだけ水面へ顔を出していた。
それだけである。
◇
所見。
立花美優は良い人だと思う。
たぶん良い娘でもある。
良い社員になろうとしている。
良い友達にもなろうとしている。
でも。
少しだけ良い人すぎる。
だから時々。
自分の事を後回しにしてしまう。
◇
依頼は解決。
ただし問題が解決した訳ではない。
人生は事件より長い。
立花美優もたぶん明日また悩む。
仕事も急には変わらない。
人間関係も変わらない。
それでも。
少し息ができる場所を見つけた。
それは案外大事な事だと思う。
――黒崎アンナ