学生時代に、クラスでお喋りな子がいたんですね。
あの子よく喋るよね、と何気なく話したら、ご両親の耳が不自由だそうだから、学校で話せるのが楽しいみたいだよ、と教えてもらったのです。
その時のことが、今も記憶に残っている。
私は小さい頃から寝付きが悪く、特に小学生の頃は、短くても三十分、長ければ二時間ほどは、布団に入ってからも眠りに就くことができませんでした。夜間に部屋の電気を点けることもできず、布団の中でジッと過ごすしかない時間を、いつからか、空想することでやり過ごすようになっていました。
最初は、昼間に遊んだゲームの映像を、頭の中でそっくりそのまま再生することから。その内、自分が考えた展開をそこに盛り込んだり、アニメや漫画のような表現もするようになったり、やがて世界観やキャラクターもいちから自分で考えるようになって、“頭の中を映画館にする”ことで夜の眠れない時間をやり過ごしていました。
それはこの作品を書き始めた六年ほど前も同様で、当時は短編漫画などの短い作品を書くことが習慣になっていたので、空想も短編気味だったのですが、布団の中でいちから設定を作るのはなかなか大変で、「無限に空想できる作品を作ろう」と始めたのが本作になります。
そんな目的で作り始めるにあたって、シナリオの作り方は、いわゆるソシャゲを参考にしました。
設定があり、キャラがたくさんいて、本筋だけでなく、サイドストーリーまで無限に楽しむことができる。私はソシャゲに疎かったのですが、当時ソシャゲが大好きな友人に面白さを教えてもらったところ、「このキャラにはこういう過去があって、このキャラにはこういう展開が待っていて……」と、とにかくキャラ一人一人への熱量、それから作り込みがすごい。「そんなの全部主人公じゃないか」と、私がソシャゲから受けた第一印象を、そのまま設定に落とし込んでいます。
そして「多面性」を主題としました。
人にはいろんな角度があって、場面ごとに様々な顔を見せている。学校ではよく喋る子が家庭では物静かであったり、教室では大人しい子が、部活動では活発な顔を見せている。学校、クラス、学年、部活動、塾、家庭……複数のコミュニティに同時に属す必然性があり、まだ「人間が多面体であること」の衝撃を知らないことも多い学生、学園モノは、私の大好きなシチュエーションの一つでもあります。
そのテーマを、今作の中でさえ何度も何度も……他作品を知っている方には、「いつも同じ事やってんな……」と言わせる自信がある。これからもやります。
ただ、今作でテーマや展開を突き詰める中で、作品の持つ課題がどんどん先へ行き、自分の人間力で書ける範囲を超えていき、やがて手が届かなくなって、当時エブリスタで公開を開始したのですが、たしか執筆開始二年くらいで、私は無断で更新を投げ出したのです。……本当に、当時読んでくださっていた方々には、どう謝罪すればよいか、見当もつきません……申し訳ありませんでした……。
そこから更に二年ほど、書こうとしては書けず、を繰り返し、その後は……何がきっかけか思い出せないのですが、「書ける」「書きたい」と思ったのか「書くしかない」と思ったのか、もしくは「書かないと先に進めない」みたいな……“そういう気になった”としか言いようがないのですが。
ただし性格上、〆切が無いといつまで経ってもダラダラ書き終わらないのがわかりきっていたので、非公開で応募できる、文字数上限がない公募を探したのですが、その結果送った先が「メフィスト賞」で……誰かこの時の私を止めてください。レーベルに沿わない長々とした文章を送ってしまって、本当にすみませんでした……。
そんなこんなで手元で完結させられたのが、二年前とかだったと思います。
落選したのを見届け、今度はネット公開の準備を始め、調整を加えたい箇所の見当をつけつつ、九月の終わりにカクヨムで、推敲を入れながら公開を開始しました。序盤は比較的初稿のままなのですが、後半になるにつれ手を入れる部分が多くなり、設定そのものにかなり変更が加わったり、最終的には30万文字近く増えることになり、特にラスト100日分は、毎日深夜まで作業が終わりませんでした。
最終話まで公開することができて、ホッとしています。
同時に、寂しくもあるし、ドキドキしてもいる。書くべきことをちゃんと書けただろうか。フォローするべき部分をフォローできただろうか。
それでも言えるのは、この作品が、今の私に書ける、一つの限界だということ。
書いていて感じていたのは、この作品が、常に自分の一歩先を行っていたこと。私に解決しきれない課題を、一つ上から提示してきて、それをお話の中でどう結論づけていくのか、ぶつかって砕けながら書いていた気がする。自分が作品を書いているのか、作品に自分が書かれているのかわからなかった。
多分、人生で何本も書けるタイプの話ではないと思うし、これが最後になるかもしれません。それをちゃんと終わらせることができてよかった。
そして、それに付き合ってくださった方々には、感謝してもしきれません。
何度も似たような挨拶をしてしまうのですが、小説にせよ映画にせよ、作品のために時間を使うのは、物理的にもメンタル的にもコストのかかることだと思っています。今、世の中にたくさんのコンテンツがあって、より多くの評価を得ているもの、編集者さんによって客観的なクオリティまで維持されているもの、既に完結しているものも選べる中で、完結の保証も無く、展開がどう転んでいくかもわからない、それでいてここまで長くなってしまった作品にお付き合いいただけたこと、感謝の念に堪えません。
途中、展開の重さや大きさなどで、読者さんに負担をおかけしたこともあったのではないかと思っています。時に重い話を扱ったり、それをエンタメに昇華させきれなかったり、“楽しい”だけの感情では読めないタイミングもあったと思います。
それでも、ページに目を通していただけたことの揺るぎない事実や、応援をくださる方の存在、更新を見守っていただけたことは、私にとって大きな力になりました。
作中でも書いたように、人生は有限です。それが尊いんだと書くかたわらで、私は読者さんから、たくさんの時間をいただいていました。貴重なお時間を、本当にありがとうございました。
この作品が、皆さんにとって、何かのかたちで力になれていたら、これ以上の幸せはありません。
最後に、少しだけ今後の予定です。
年始のご挨拶でもお知らせしたとおり、直近で特に出せる作品が無いため、しばらくカクヨムの更新は空く予定です。
何かしら書けたり、応募したいときに投稿できればと思いますが、今作ほど規模の大きいものは、三、四年は出せないかも……。気分転換の意味でも、もう少し軽い読み心地のものを出すかと思います。
今作の続編等も書く予定は無いのですが、執筆中に自分の中で、話を整理するために書いた短編が何本かあり(このとき、別視点でどんな話があったのか? この人物の過去は? など)、これを番外編としてどこかに出そうかなぁ……というのを、実は二十六話あたりのころから考えていて、結局出さずじまいでした。
表に出せそうなクオリティのものも何本かあるので、興味のある方には読んでいただけるかたちにしておきたい一方、本編のイメージが崩れかねなかったりもするので、カクヨムに別作品として出すか、近況ノートに出すか、あるいは同人誌とか限定公開とか……どう扱うか未だに悩んでいます。
とりあえず一、二ヶ月ほどは、完結の余韻に浸らせてください。方針を決めたら近況ノートでお知らせしようと思いますので、間が空いて恐縮ですが、気になったタイミングでご確認頂けますと幸いです。
重ね重ね、ここまで本当にありがとうございました。
先述したとおり、自分の一つの限界に辿り着いた気がします。ここまでの人生で得た知恵とか、持てる限りの倫理を、ここに置いて行けたのではないかと。出せるだけ出した結果、今ここで、このあとがきを書いている私がすっからかんですが、また少しずつ勉強とか経験を経て、次の何かが書けるようになっていければと思います。
この作品に出会えてよかった。書き手でありながら、登場人物たちから、たくさんの勇気や知恵を貰いました。
それを、少しでも分け合えていたら嬉しいです。
ここまで見守っていただき、ありがとうございました。
それでは、また。どこかの〈物語〉でお会いできれば。