「ラナは【ラティナ】と言うのですか?」
「よくわかんない、です」
噴水の側に腰掛けて。
ラナにもらった青い花を。
貴重な文献に挟み。
文献なんかよりも。
貴重な品を抱きしめて。
ティアルは。
ラナの名前について。
訊ねた。
「砕けた言い方で構わないんですよ?」
「頑張って、いきます」
ちぐはぐな。
言葉遣いが。
可愛らしくて。
ティアルは青い眼を。
偽りではなく。
心から細めた。
「3人くらい? の人に」
「呼ばれた気がします」
「いやに具体的な数字ですね」
「わからない、んですけど」
「ぼく、わたしを」
「無理に、わたしと言わなくて構いませんよ」
わたしと言ったら。
たくさん。
気持ち悪いって。
お前には似合わないって。
煉瓦を投げられたから。
ぽつり、と。
ラナが。
只人にされた仕打ちを。
こぼした。
「ぼく、なら、まだマシだったから」
「なら、ぼくでいいじゃないですか」
「いつか、ラナが」
「自信をもてる使聖になったら」
「わたしと言ってくださいね」
「頑張って、いく、いきたいです」
必死に。
言葉を正そうとするこどもの。
なんと愛しいことか。
──誰にも。
──何も。
──言わせない。
「ティアル、様?」
「様も不要ですよ」
俯いてしまうから。
ティアルは。
話題を戻した。
「で、誰です? その3人は?」
「わからない人たち」
「わからないのに、呼ばれたのですか?」
「うん。嬉しかった」
足を前後に揺すりながら。
ラナが笑う。
「不思議な3人なんですね」
「はい。いつもケンカをしています」
「仲が悪いのに、一緒にいるのですか?」
「よく、わからないです」
「でも、笑っているから」
「仲はいいと、思いました」
ティアルは。
ミラトス大陸には。
不思議な現象がたくさんあり。
神の意思が宿っていることを。
熟知していた。
──ならばきっと。
「あなたは【ラナ】なんでしょうね」
「あなたは今日から」
「【ラティナ】で【ラナ】です」
勝手に。
名をつけてなど。
只人に。
言わせてなるものか。
「いいの?」
「素敵な響きですよ、ラナ」
「ありがとう、ございます、でしょう」
「ふふっ」
名前を賜ったのは。
誰からだったか。
ティアルも。
覚えていない。
確か。
賑やかな3人組が。
──ん?
名前を。
つけようと。
言ったのは。
誰だったか。
楽しい日々の中で。
きれいな響きだよと。
ラナを大人にしたような。
美しい人が。
──ティアル。
──ティア。
──うん。
──よく似合う名だ。
褒めてくれた。
「ティアル、様?」
「ああ、すみません」
「そろそろ時間ですね」
「アプリコットのパイを食べにいきましょう」
「アプリコット?」
「砂とか、骨とか、硝子は入っていますか?」
「入っていませんよ」
「入っていないパイ? があるのですか?」
「あるのですよ」
ラナに似た口調で。
ティアルはラナの頭を撫でた。
只人の悪意を。
幼いながらに。
受け止めてきた。
この。
【護の珠人】を。
──【兄様】
あなたの言ったことは。
正しかった。
あなたは【視た】のでしょうか。
たまに口にしていた。
──そっちの道は【視た】よ。
──崖崩れが起きる。
──こっちは大丈夫だ。
【兄様】の。
きっと。
秘密にしている能力。
肝心なところで。
バレていましたよ。
【兄様】
こんなにも。
愛しい存在が【護の珠人】だなんて。
知らなかったのです。
──大丈夫。
──大丈夫だよ。
柔らかな声がする。
──君は。
──【兄様】と同じで。
──肝心なところが甘いから。
──でも。そういうところ。
──好きだったよ。
優しい声は。
なんとなく。
「ティアル様? 大丈夫ですか?」
「すみません、ぼんやりとして」
「大丈夫、です」
ラナに。
似ていた。
大丈夫。
間違いをしない存在は。
傲慢さと。
身勝手さで。
肩書を失えば。
誰からも見向きされなくなる。
最後に残るのは。
信頼だ。
君はちゃんと気がついた。
だからね。
心配をしないでも。
君が望むなら。
手助けを。
ちゃんとしてくれるよ。
「パイが冷めたら大変です!」
「行きましょう。ラナ」
ラナの小さな手を握れば。
小さな手が。
握り返してきた。
──温かい。
「ぽかぽかさん」
「ぽかぽかさんですね」
だからねティアル。
ちゃんと【彼ら】と話をするんだよ。
昔むかしの。
後悔と。
ぽかぽかさんのお話──。