「……。だか…………。………て」
「い……。わ…………、………………じゃ」
「もう1回。これ…………………だから」
「そう…………、これで……………じゃろ」
俺は死んだはずが意識が戻って来る。
手足の感覚もなく、喋る事も出来ないが周囲を見る事と音を拾う事は出来る。
真っ白の空間にアイボリー一色の古代ローマ時代の服装をした見目麗しい女性と灰色のローブを着た老人が言い合っていた。
「だから!お願い!もう一回!もう一回だけ。これで最後にするから!」
「スジャータ様、わしゃ、もう疲れて仕舞いましたんじゃ。何度も転生してこの星の調整者として頑張ってきましたが、草臥れしまいました。お役御免にしてくだされ」
「あと少しなのよ!あと少しで人魔のバランスが均等になるの!あと200年貴方を通して神力を流せば大きな厄災が起きなくなるのよ!お願いよ〜!」
「おっ。そこに居る魂魄にやれせてみては如何ですじゃ。お主。儂の言葉が分かるか?分かるなら力を入れて光ってみよ」
俺は言われるままに〝光れ〟を念じると俺の周囲が光る。
「おう。分かるのじゃな。儂はそこな女神様の管理する星で10回も転生を繰り返し星の浄化や調整役として、邪心者を滅して来たのじゃが、疲れてしもうた。どうじゃお主代わってくれんか?」
「駄目よ。この魂魄は適当に持ってきたばかりだから徳も位も低いからこれから何世代も繋いで行かないと今の貴方まで辿り着かないわ。それでは駄目なの」
「嫌じゃ。儂はもう疲れた。何度も転生先では利用されこき使われ。妻子を見送りそれを何度も繰り返し。スジャータ様、儂の魂魄を見てみい。オドが溜まってしもうとるじゃろ。これ以上転生はしたくない」
「そんなオドなんか私が転生の度に祓って来たじゃない。その度真っさらにして送り出しているでしょ!」
「そんなもん。前世の記憶が残っておれば直ぐに纏ってしまうんじゃ。」
「そんな事言わないでよぉ。もう少し…もう少しなのよぉ~。世界が安定するまでもう少しなの!協力してよ。今やっと精霊が精霊王から下級神に上がり、聖獣もういくつか誕生したから、私の配下である下級神と上級天使の位が上がって権能を持った神が誕生するの。もう少しなのよ。お願い!」
「成る程のう。……そうじゃ!この魂魄を主人格として儂の魂魄と融合させてはどうじゃ」
「可能だし名案だけどそれで良いの?貴方はもう少しで神格に至るのよ。もう一度転生すれば死後は神になれるの。融合してしまえば主人格に取り込まれて消滅してしまうのよ」
「スジャータ様。儂は10回の転生を行い何千年もの人生を送って来た。確かに幸せと思える時間もあった。だがなぁ数え切れないいくつもの悲劇、この手に抱いて救えなかった命も見送って来たんじゃ。そんな人生仕舞にしたいんじゃよ」
「そうね。地上で生きる人間には抱えきれない試練になってしまったのかも知れないわね。分かったわ。ベリザリオ・マグナ・フィン・バルタザール。貴方のその功績をもって願いを聞き届け、この新たな魂魄と融合させましょう」
主人格である俺を差し置いて女神と大賢者の話し合いは終了を迎え、そんな老人の頼みを受けて俺は地球とは別の世界に転生することになった。