◆王の命により騎士団に編入したコンラート。副団長のバートとは、折り合いが悪いようだが……。
「バート副長、練兵場は何処にある?」
汗にまみれた副団長に、コンラートが問いかける。
「……その先の階段を降りて左だ。勝手な真似はするなよ」
「そう目くじらを立てるな、副長殿。騎士たるもの、日々の鍛錬は大事な務めであろう」
コンラートは綽々とした様子でバートを挑発する。
「それともここには、団長に縋らねば剣も振れぬ軟弱な団員しか居らぬのか?」
「貴様……」
その時、無機質な靴音が階下から響く。
姿を現した団長は、視線の先に二人を捉えると、静かにバートへ声をかけた。
「……仲良くやってくれ」
「も、勿論です。これから二人で剣でも交えようと……」
コンラートは横目でバートを見やると、不敵な笑みを浮かべた。
「それは光栄の極みだ副長。ただ……叶うならば『救国の英雄』と剣を交えて入団の証しとしたい。よろしいですかな、団長」
頭を下げ、団長の顔色を伺うコンラートには密かな思惑があった。
やっとこの機会に恵まれた。
『死神』騎士団長と打ち合える。
若き日に一目見て敵わぬと悟った。
これまで磨いてきた我が剣の力がどれ程のものか、試させてもらう。
「馬鹿なことを。今の今まで私の相手をしておられたのだぞ、私が相手になる、ついてこい!」
いきり立つバートの肩に手を添えると、団長は僅かに口角を上げた。
「降りなさい。少しだけなら相手になろう」
コンラートは心の中で膝を叩いた。
――もう一押し。
無人の練兵場には、微かな熱気と湿気が漂っていた。
木剣の収納箱へ向かう団長に、コンラートは覚悟を決めた声色で伝える。
「本気の貴方と仕合いたい」
張り詰めた空気が、急激に辺りを冷やす。
「……」
「問答は後だ。御免!」
握りしめた黒刀の先が、団長に向けられる。
「……」
団長は何も言わなかった。
しかし、おもむろに、使い込まれた長剣を抜いた。
「グゥ……」
コンラートは動けなかった。
団長の剣先は、ただ地面だけに向いている。
それでも、全ての毛穴から汗が吹き出て止まらない。
こいつは……人か。
◇◇◇
「副団長バート殿! コンラートです。話がある」
バートは急な自室への訪問に、戸惑いながら扉を開けた。
「ふ、副長殿は団長と、剣を交えたことがありますでしょうか?」
言葉遣いが明らかにおかしい。
コンラートの変容に、バートは思わず吹き出した。
「あぁ、殆ど毎日、稽古をつけてもらっている」
バートは笑いを堪えきれない。
「……稽古を、お願いできますか?」
「勿論だ。すぐにでもやるか? コンラート」
「あとな、その言葉遣いは止めろ。我が騎士団は実力が全てだ。お前がそれなりの力を持っているのは分かっている」
コンラートは身震いしていた。
この堅物の副団長はアレと、やり合えるのか、と。
団長の横で、正気のままに大穴を戦い続けていたのか、と。
近衛騎士の身分では、生涯分からなかっただろう。
王よ。一生分の感謝を捧げよう。
嗚呼、私は今、楽しくてしようがない。
終わり
『出航前夜』より
https://kakuyomu.jp/works/2912051604339980743/episodes/2912051606554644658
画像はChatGPT使用です。