いつも拙作をお読みくださり、ありがとうございます。
本日、
『悪役華族令嬢の兄に転生した俺、破滅回避のために妹教育を頑張ったら、最高に可愛いブラコン令嬢が爆誕しました 二』
が無事発売しました。
書籍をご購入くださった方
これから買う予定ですという方
気が向いたら買いますという方
俺はWeb勢だぜという方
皆様ありがとうございます。
発売記念SSを用意していたのですが、
小説ページは絶賛本編進行中なので、
そこに今掲載するとややこしくなるなと思い
一旦こちらに掲載することにしました。
本編が落ち着いたら小説ページに移動させる予定です。
内容としては、初等部編42話のあたりの話になります。
私自身、『SNSで多弁に語るよりも作品を書きます』というタイプなので
SNSは控えめにしておりますが、エゴサはするタイプです。
感想など拝見したらそっとお礼を言いに行ったりしますので、
びっくりしないでください。
改めまして、引き続き何卒よろしくお願いいたします。
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二巻発売記念SS
『桐生院寿子の災難と僥倖(ぎょうこう)』
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「あの……、桐生院様から、西園寺様にお願いしていただくことは難しいでしょうか……!」
「わたくしたち、初等部の思い出に学芸会で西園寺様と東條様の麗しいお姿をどうしても目に焼き付けたいのです……!」
その日、わたくしは放課後の教室に集まった十数名の女生徒たちに取り囲まれ、うるうると瞳を潤ませながらそう告げられました。
【耽美派】――、そう密やかに呼称された派閥に属する、耽美派女子たち。
わたくしも所属するその派閥は、この学苑に在籍している二人の男子をただひたすらに愛でるという集まりでした。
「お願いする、というだけでしたらやぶさかではありませんけれど。必ずしもご了承いただけるとお約束はできませんわよ?」
「それで構いません!」
「満に一つでもチャンスがあるのでしたら!」
「寿子様以外に、それができる方がいらっしゃらないのです!」
少し尻込みながらそう答えたわたくしに、少女たちが力強く言い募ってくる。
――まあ、気持ちはわからなくもありません。
ここに集まってきた女子たちは、いずれも中等部への進学が難しい子たちばかり。
その理由は、異能が顕現しないからとか嫁ぎ先が決まったからとか、様々ではありますが。
ただし、その中でも共通しているのは、今までは学苑に通うだけで見ることができていたお二人が、卒業したら見られなくなってしまうという哀しみ、焦り。
卒業したらあんなに輝かしく尊いお二人を見られなくなってしまう悔しさは、確かにわたくしにもわかります。
わたくしだって、同じ立場に立たされたらきっと同じような行動を取ったでしょうから。
幸運にも、わたくし自身は中等部への進学もほぼ間違いなくできるであろうという状況ではありましたけれど。
お二人の初等部最後の学芸会で、『いばら姫』の姫と王子を西園寺様と東條様に演じてほしい――。
誰が言い出したのかよくわからないその企画は、予想以上の期待と熱意を膨らませながら、耽美派の中で瞬く間に広がっていきました。
わたくしも確かに、それが実現したら素敵だな――そう思ったことは否定しません。
あのお二人は、そう思ってしまうくらいに素敵なお二人なのです。
特にわたくしは、西園寺様の方を好ましく思っておりました。ああ、もちろん、あくまでも憧れ、いちふあんとして、という意味でですが。
日頃から物腰が柔らかくて朗らかで、誰にでも優しい西園寺様は、王子様そのものでした。
それに対して東條様は普段からきりりとしており、自分にも周囲にも厳しいという雰囲気を纏っているのですが、それが西園寺様といる時だけは和らぐのです。
東條様のようなお方の心さえも和ませる西園寺様――。
お二人に目を奪われたのは、それが発端でした。
そうして、遠巻きにお二人を眺めるようになると、今度は東條様といる時にだけ見せる西園寺様の表情にも目を奪われるようになりました。
普段の泰然とした微笑とは違う、くるくるとよく動く表情。
――ああ、この二人は、お互いに特別な存在なのだな――。
きっと、わたくし以外の耽美派の女子も、お二人のそんなところに尊さを感じたのでしょう。
わたくしたちぐらいの年頃の乙女は特に、運命とか、特別な絆のようなものに憧れを抱きます。
端から見たお二人の関係は、そんな少女たちの心をくすぐるような、かけがえのない何かを含んでいるように見えました。
◇
「――仰りたいことはわかりました」
「では……」
「ですが先日から申し上げているように、僕にも西園寺家という家を束ねていく者としての責任と矜持があります。僕の一挙一動が僕の家族――ひいては使用人への評判や評価に係わってくるのですが。それに対して桐生院様は果たして、責任を取れると言い切れますか?」
その言葉を皮切りに、それまではまだ穏やかさを残していた西園寺様の空気が、ピリリとしたものに変わりました。
――わたくしが、耽美派女子たちから西園寺様への学芸会出演の交渉を引き受けた後。
案の定わたくしの提案に西園寺様が難色を示し、『やはりこの企画は実現不可能なのだ』と一度は諦めました。
しかしそこから、東條様が賛成票に手を挙げるというまさかの事態が発生し、状況は一転。
クラスの賛成票を大量に得ることとなった『いばら姫』の企画が、実現に至ったのです。
ですが――。
「結局のところあなたのやっていることは、十三番目の妖精を蔑ろにした人たちと同じ振る舞いだと思いませんか?」
いつもの温和な西園寺様の様子がどこにも見当たらない、厳しい表情でこちらを詰めてきます。
ああ、これは、本気で怒っていらっしゃる――。
今までに見たことのない西園寺様の怒りを含んだ気配に、かつてないほどにわたくしの胃が縮み上がりました。
――ああ、西園寺様を、怒らせたいわけではなかったのに。
ただ、わたくしと同じように西園寺様と東條様を慕っている女子たちを、悲しませたくなかっただけだったのに。
それが思いの外うまくことが運びそうになったせいで、多少調子に乗ってしまった感は否めませんが。
見たことのない硬い表情で、理路整然と正論を突き付けてくる西園寺様の言葉を、わたくしは泣くのをぐっと堪えながらただ俯いて聞いていました。
――嫌われてしまった。
――好きだと思っていた人に。
そう再認識するだけで、残りの学苑生活を笑って送れなくなるのではないかと思うほどに打ちひしがれる。
だけど、そんなわたくしに西園寺様は最後、
「――愉快な気持ちではありませんでしたよ。でも僕は『罪を憎んで人を憎まず』がモットーなんです」
と仰り許してくださった上、再びわたくしに向かってにこりと微笑みかけてくださったのです。
この時のわたくしの気持ちを、なんと言い表せば良いでしょう。
恋に落ちる、とはまさに、こんな気持ちのことをいうのだと思いました。
それから西園寺様は自らが妖精役をやると申し出てくださり、わたくしをいばら姫に指名し、東條様には当初の予定通り王子役をやるよう話をつけてくださいました。
耽美派の望み通りとはいきませんでしたが、それでも、学芸会で憧れのお二人を見られる。
それを鮮やかに叶えてくださった西園寺様の手腕。
そして、叱責すべき時にはちゃんと叱責し、しかしその後も相手に温情を与えられる西園寺様を、本当に素晴らしい方だと敬服しました。
いえ、敬服は改まりすぎですね。
単純に、今まで以上に西園寺様に対して、憧れと尊敬、そして言葉にできないほどに格好いいお方だと思うようになりました。
◇
「――いろいろありましたけど。最終的にいい思い出になって良かったですね」
学芸会が終わった後、わたくしの隣に立ち、にっこりと西園寺様がわたくしに微笑みかけてくださったことは、きっと一生忘れません。
どんなに焦がれても、手の届かないほどに輝かしく眩しい存在。
だからこそ愛しく尊く思えるのだということを、わたくしはこの時、初等部で学んだのでした。
