桜は満開。本編再会前のリハビリがてら
よろしくお願いします。
この時期でないと書けませんから。
桜の下で
「はい」
「ほれ」
「はい」
「ほっと」
「はい」
一孝さんと公園でバトミントンをやっています。駅から少し離れた公園にいるの。
丁度、桜も満開の時期なんで、お花見しながら遊んでいます。ソメイヨシノの淡いピンクの花びらの下でシャトルがあっちこっちする。
一孝さんは、高校のバトミントン部に所属しているから上手なのね。
「とっ、とっ、美鳥。何処にシャトルを飛ばすんだよ」
私が打ち返しそびれて、あらぬ方向へ飛ばしてしまった。
「ごめんなさい」
「だが、打つ」
素早いフットワークでシャトルに追いつき、私に向けて打ち返してくれる。それも私が打ちやすい高さとポイントにだよ。恐れ入ります。
さすが全国大会候補選手。でも怪我の所為で、それは断念。でも、体に染みついたものはなかなか拭えない。部活は続けて、新しい目標に向かっている。
「ありがとう!お兄ぃ。凄く打ちやすいよ」
「美鳥、楽しめてるか?」
「うん! (^-^)」
「おっ」
くらっ
なんかシャトルを追いかける一孝さんの体勢が崩れた。ラケットか空振りして芝生の上にシャトルが落ちる。
「あぁー、負けた。美鳥に負けた。スマイルパンチに沈められた」
なっ、なんなんですか、『スマイルパンチ』って、可愛くない。
「スマイルパンチって、なんですか?」
思わず聞いてしまった。
「みんな、私の笑った顔を見て、そういうふうにいうんですよ。失礼しちゃう」
ひとりプンスカしてしまう。
「それはね」
落ちたシャトルを拾い上げ、一孝さんが私に近づきながら話してくれる。
「美鳥の笑顔が、もの凄く可愛いからだね」
「私の笑顔?」
私は自分の顔を指さして小首を傾げる。
くらぁ
「かっ可愛い。美鳥、このまま、お前をお持ち帰りして良いか」
一孝さんは、よろめいたと思ったら、そんなことを言ってくれる。私も頬が熱くなって、手で押さえてしまう。
「はぁい」
と思わず、答えてしまう。でもダメなの時間がないの。
「じゃない」
意識を振り絞って、
「ごめんなさい」
買ってきてねと頼まれたものがあって、もう直ぐ出来上がる。
どうやら、全国的に有名なものらしくて、ママが
『一孝さんとデートがてら行ってきてもらえるかしら』
って言われたの。ママはどうしても外せない用事があるらし行けないとの事だった。
『なんなら、二人でしっぽりとしてもいいのよ。うふふね』
『ママ!』
もう、恥ずかしいなぁ。密かに嬉しいのでだけれど、あの日が近い。というか、多分というか。そうなんだよね。うん。間が悪かったと諦める。うん、神様の意地悪。
頼まれた物はフルーツタルト。それも、この時期の限定品。
サクサクのパイ生地にカスタードクリームを乗せて、その上にこれでもかってフルーツを載せるの。今の時期のスペシャルは桃にブルーベリー、バナナにオレンジそしてりんご。
今までは、ママがパパとデートしながら買っていたんだって。大好きなんだって。どうやら大任を仰せつかった様ね。
でも、お店に着いたら売り切れになっていた。がっかりしたけど、カウンターの方から、ふた時ほど待てば、次のロットが出来上がるとのこと。待つことにしたの。
聞くと近くに公園があり、桜も満開なんだって。一孝さんもいいよって言ってくれたから公園に行っちゃいました。途中にあった百均でバトミントンセットをかって遊んていたわけなんです。
「美鳥。次だ、次。今度はヘマしないからな」
一孝さんが、バトミントンを続けようと意気込んでいる。目も真剣になってるの。そして手に持つシャトルをリリース。胸元から私に向けて緩やかにギフトしてくれた。彼が私のショットポイントに上げてくれるので、
「お兄ぃ、イックヨォ」
ラケットを持ってを肩口に引き絞って、さあ、
「あああああ、」
叫び声に驚いた。反射的に声が上がった方へ目が向いてしまう。でも、振り出した手は止まらなかった。
カン
シャトルが彼の方ではなくあらぬ方向へ飛んでいってしまった。
目を向けた方向に飛んでしまうのね。そちらには、黄色の髪をした女性が佇んでいる。一孝さんがシャトルにばかりに集中して、その人に、ぶつかる勢いで走っていく。
私は、叫んだ。
「危ない」
⭐︎ ⭐︎ ⭐︎
「茉琳さん、何を大声を上げているのかな」
翔は、口を上げたまま前を見上げて固まっている茉琳に声をかけた。
茉琳は、はっと意識を戻して、
「見て、見て、翔! 桜がすごいの、花が崩れるの、雪崩落ちるような桜なの」
柳桜が、満開で目一杯の桜の花をつけた枝が、地面近くまで垂れ下がり、見上げるほどの桜の花の壁を作り出している。
見ると、茉琳は指先を動かして、連れの翔に上から下まで桜が咲いてるのだと教えている様子。ただ、最初に上げた手には小さい紙袋を持っていて慌てて手を変えている。
茉琳の茉琳たる所以だ。
そこへ、
「あぶない」
甲高い女の子の声が、飛び込んできた。
見ると、1人のが学生らしき男が、こちらの向かって走ってきた。顔は茉琳とは反対方向を向いている。何かを追いかけているんだ。しかし叫び声を聞いて、やっとのこと、こちらを見ると、すぐさま、止まろうとタタラを踏む。
しかし勢いは止まらないもので茉琳の直前まで来て、やっと止まった。茉琳の前に仁王立ちをした形となる。
「ヒィー………やっ」
茉琳は悲鳴を押しつぶし、飛び込んできた彼から逃げようと、手持ちの袋で顔をカバーして、しゃがみ込んでしまった。
お陰で2人は、ゴッツンコしなくて済んだ。
そこへ、
「ごめんなさい。私がシャトルを間違って打ってしまったんです。怪我とかないですか?」
亜麻色の長い髪を振り乱して女の子が走ってきた。止まることのできた男に並んだ。
すぐに慌てて話しかけてきた。
「大丈夫。大丈夫なしよ。驚いただけなり…よっこらしょっと」
茉琳は、覗き込んできた女の子の目を見返すようにして手を前に出すようにして立ちあがった。隣の男がそれを握って、立つことを手助けする。
「安心してね」
「よかったです。ぶつかったとばかり思ってました」
女の子は胸に手を置いて、動悸を押さえていく。しばらくして治ると、
「私は琴守と言います。本当にすみませんでした」
「心配してくれて、ありがとうなし、ウチは茉琳。茉琳でいいなり」
お互いの無事を確認し安堵する。すると、
「あぁー、ケーキ。ケーキの入った袋がない」
茉琳は、立ち上げてもらうときに手を差し出した。その時に袋を地面に置いたようだ。
「茉琳、ケーキじゃない。タルトでしょ。フルーツタルト」
茉琳の側に立っている翔は茉琳の言葉を訂正した。
「美鳥、これかなあ? 下に置いてありましたよ」
「お兄ぃ、ありがとう」
彼は店のPOPの印刷された紙袋を拾い上げ、美鳥に渡した。
「お姉さん。すみません。これですか?」
「そう、これなしー。ありがとうなり」
茉琳は袋を受け取り中を確かめた。
その時に一陣の風がふき、あたりに甘い香りを漂わせた。一部が赤くなった桜の花びらも舞う。
美鳥は茉琳の持っていた袋に印刷されたPOPと、そこから匂い立つ香りを嗅いで、
「もしかして? お姉さんフルーツタルトを買ってきたんですか?」
「そうなり。ケーキを食べながら桜を見ようって買ってきたなしよ」
「ケーキじゃない。タルトでしょ」
「どっちでもいいなり。早く食べたいなし」
「私たちも、そこに行ったんです。買いたいのは売り切れてたんですけど、新しく作るって聞いて、お花見がてら待ってたんですよ。もうすぐ出来上がります」
「なら、早くお行きなさい。すご〜く美味しいなしよ。ところで2人は兄弟なりか?」
それを聞いて美鳥は傍に立つ男の腕を抱き寄せて、
「いえ、彼氏ですぅ! ねぇ、一孝さん。うふふ」
くらっ
美鳥の、とびっきりの笑顔を見て茉琳が震えた。
「すごいでしょう。美鳥のスマイルパンチ」
「頬に右ストレートが入ったなし、ノックダウンなり」
「お兄ぃ、その言い方止めてください。恥ずかしい」
「ははは、そろそろ、お店に受け取りに行ってもいいんじゃない? こっちは大丈夫。ねぇ茉琳」
こちらも側で3人のやり取りを見ていた翔に催促をする。
「ありがとうございます。じゃあ、お兄ぃ、行こ」
美鳥は、一孝の腕を抱えたまま、公園を出ていった。2人の頬が赤く染まっているのを茉琳も翔も微笑ましいと見送った。
「あの子、可愛かったなり。あの金色みたいな目、ヘイゼルの瞳っていうなし」
「そうだね。髪も亜麻色だったし、日本人離れしてたね」
「あれ、地毛なし。羨ましいなりな」
茉琳は、ブリーチして黄色に染めた髪を掴んで、毛先を振っている。
「あっ茉琳。鼻の頭に桜の花びらがついてる。さっきの風で舞ったのだね」
「えっ、どこ? どこぉ」
それを見ようと茉琳の目がよった。
「その顔、笑える」
「酷いなり。とって、ねぇ、とって翔ぅ」
翔は茉琳の顔に手を差し伸べて、桜の花びらを取った。その下からツルッとした肌が現れる。翔は、ほっとしていた。以前は鼻にしていたボディピアスの跡が残っていたんだ。
今は治り傷跡も、ほとんど残ってはいなかった。