琴守家のキッチンにミッチとカンナが来ています。来る日に向けて手作りチョコレートを作ろうってことのなりました。
「美鳥。来たよー」
「いらっしゃい。上がって、あがって」
玄関まで2人を出迎えて、キッチンまで案内をする。
「ねえ、美鳥。ここって暑くない?」
私は羽織っていたフリースのパーカーを脱いで、Tシャツ一枚になりました。
「ごめん、言って無かったね。手作りでチョコを作るのには温度管理が重要なのね」
「ふむふむ」
ミッチが相槌を打つ。
「部屋の温度が低いとチョコレートが直ぐ固まるから、夏に近いぐらいまで室温上げてあるんだ」
今は、冬。外の気温は10℃を下回っているの。だからみんなが来る前にエアコンの暖房を28℃まで上げた。
「暑いでしょう、だから、出来るだけ脱いだほうがいいよ。何ならTシャツを貸してあげるから」
「うん、貸してくれる。もう汗が滲んできてるよ」
2人とも、アンダーはパンツかスカートの差はあるけど、上はセーターにダウンジャケケットの完全防寒対策をしてウチに来たものだから、部屋の熱気に当てられたんだね。
「美鳥ちゃんは、ここまで作るのに気を遣っているのね」
カンナが頬に手を当てて、感心しきりに話してきた。
「手作りチョコレートを何回か作ったんだけど、失敗が多すぎてね。勉強したの」
「「へえぇ」」
「失敗が多すぎて、お小遣いピンチになったもんね」
「それはそれは、貴重なアドバイスだね。じゃあ、お言葉に甘えて、Tシャツ貸していただけるかしら」
2人が2階の私の部屋で着替えている間に材料と道具を揃える。同じサイズのボールを二つに耐熱のゴムヘラ。バットにクッキングシート。そして料理用の温度計。ドライヤーetc.etc。
「お待たせー」
着替えを終えてふたりがキッチンに戻ってきた。
「廊下は常冬。キッチンは常夏。風邪引いちゃうよ」
ミッチの口から苦情がダダ漏れています。ここは我慢しかありません。
「じゃあ、はじめるね」
徳用サイズの割れ板チョコをジップロック付きのパックに入れて、さらに砕いてく。砕いたものはボールへ移しておく。
大きめのボールに沸かした湯を注ぎ入れる。大体60℃ぐらいにして、そこへ割ったチョコレートが入ったもうひとつのボールを入れて、その中のチョコをゆっくりと溶かしていくの。10分ぐらい位してから、耐熱性の高いゴムへらで混ぜていく。下のボールが冷めやすいから足すなり、入れ替えたりして温度を保つ。
そしてチョコレートが溶けて50℃ぐらいになるように:温度計でまめに管理するの。
「この温度管理が肝なのね」
「「はい、琴守シェフ」」
「よろしい」
その後、冷凍庫から氷を出してきて別のボールに入れて、チョコの入ったボールをそこに移す。温度計を差し込み、27℃まで冷やしつつ、ゴムへらで混ぜていく。
「ここからの温度管理が大切だから、温度計はよくみていてね」
そしてひたすら混ぜる。温度を保ちながら混ぜる。これができないと、艶もなく固くなって、口あたりの悪いものができてしまう。
「美鳥って、なんか手慣れてるねぇ。どれくらい前から手作りチョコ作ってるの?」
「2年前からだよ」
「2年前って……」」
ミッチの言葉が止まった。
そう、2年前の春にお兄ぃが大怪我をした。意識不明の重体で治療のために私の知らないところへ行ってしまったの。
でも、絶対に再会できると信じて、その時に驚かせようと、色々とやっているのですね。珈琲もそうだし、今作っているチョコもそう。
お兄ぃの顔を思い出しながら何度も練習したんだ。
念願かなって、再びお兄ぃに会うことができた。今度こそ、食べてもらうんだもんね。
あっ、
目頭が熱くなった。
「美鳥ちゃん。泣いてるの?」
側で、一緒に作っているカンナが、いつもと違う様子の私に気づいた。
「ち、違っ違うの。汗、そう暑いでしょ、汗が出たの」
私は空いている手の甲で拭った。そんな仕草を2人は何言わずに見ていてくれた。
そして、出来たものを型取りする。そしていつも使っているドライヤーで少し温度をあげる。上げすぎると溶け出して失敗作になるから注意ね。
時間をかけて、ゆっくりと固めていく。
ミッチもカンナも、なんとかできたみたい。それを琴守家で当日まで預かっておくの。
翌日、出来を見てみたら、私のだけ白い紋様ができしまっていた。
「ファット・ブルーム現象が、でちゃった」
何で、水気には気をつけていたのに。
あっ、涙
つづく