メリークリスマス
では
玄関ドアの鍵を開ける。
カシャン
「おかえり、お兄ぃ」
中から女の子の声が迎えてくれた。
亜麻色のおかっぱ頭をした娘。オフホワイトの長袖プルオーバーに赤いスカートを履いている娘がテトテトと歩み寄ってくる。
「コトリ、私も来たよ」
「美鳥お姉ちゃんだあ。いらっしゃい」
コトリと呼ばれた娘は両手をあげて美鳥に抱きついていく。だけど手の先やスカートから伸びる足先の色がない。透けて見えている。正真正銘の人とは言えないものなんだ。かと言って俺たちにさわれないわけじゃない。美鳥はコトリを抱きあげて、
「ただいまって言えばいいのかな?」
「そうかもぅ、おかえりだねー」
よくみても2人の顔つきはそっくりだったりする。実は、コトリは美鳥が小さい頃の姿なんだ。コトリ本人が言うには、美鳥の想いの一部が具現化したものらしい。俺たち不思議世界の住人になってます。
「ねえ、美鳥お姉ちゃん、どうしたの? 今日はお兄ぃとデートじゃなかったの?」
「うん、そうだよ。お出かけなんだけど、その前に」
美鳥はコトリをおろして、玄関からリビングへ移動した。
そして徐にトートバッグから、包みを取り出してテーブルに置く。
俺はは簡易キッチンに残って、電動ボットに水を足ししてスイッチを入れた。お湯を沸かすんだ。
美鳥はコトリの前で包みを解いていく。中からココアクリームに包まれたロールケーキが現れる。
「ケーキだあ。美味しそう」
「ブッシュドノエルっていうんだ。そうだ、コトリ、今日はなんの日」
「今日?」
頬に指を当ててコトリは考える。
「そうだ。クリスマスイブ」
「正解。クリスマスケーキだよ。フランスではクリスマスにこれを食べるんだって」
「へぇー。でも一つしかないよ。お兄ぃや美鳥お姉ちゃんのは?」
コトリはケーキと目の前の美鳥、キッチンにいる俺と視線を巡らせる。
「それはコトリの、コトリだけのケーキだよ」
「私だけの?」
「そう」
美鳥がコトリに話していく。
「ここなら,コトリちゃん。ケーキたべられるでしよ」
「そうだね」
「この後、私もウチで食べることになってるの。先に味見してもらおうかなって」
コトリは不思議そうな顔をしている。コトリは、この俺の部屋以外には行けないはずなんだ。一応クリスマスケーキは琴守家で食べるように準備をしている。
美鳥とコトリは、パスで継ながるようなんでケーキを食べたことはわかるようなんだ。
でも、美鳥は知っていた。コトリがいつも感じていることを知っていたんだ。味まではわからないんだ。夏の花火の時にコトリの意識と美鳥の意識が入れ替わった。
だからだろうか。コトリに絶対本物のケーキを食べさせてあげたいって。
「ぜひ、コトリの感想聞かせてね?」
「うん、わかった」
俺はコトリのために紅茶をいれている。ティーバッグなのは,ご勘弁を。サーバーの色が濃くなったタイミングでカップに注ぎ砂糖を入れてかき混ぜる。そこへミルクを多めに投入。これならコトリも飲めるはず、
「さて、紅茶できたよ」
ちょっと熱かったけど,カップは手で持って2人の待つテーブルに。そのままコトリの前に置こうとしたところで、
「一孝さん。ちょっと待って、私も」
美鳥は俺の手に自分の手を重ねた。2人でカップを持つ形になったんだね。
「へへ、2人ともラブラブだね」
美鳥の頬が赤く染まっていく。俺の頬も熱くなっていく。
しばらくして、コトリの前にカップを置いた。
「では、いただきます」
コトリはケーキを横にしてフォークで小さく切っていく。そして一つを口にした。
「チョコの味がする。この味好きぃ。美味しい」
顔を笑顔にして次のを口にしていく。そしてカップを手に取り、紅茶を飲んでいく。
よかった。カップが持てた。いつもだとコトリはものに触れない。すり抜けてしまう。
不思議なことに俺や美鳥が暫く触っていたものは触れるんだ。
「ミルクたっぷりで紅茶も美味しいぃ」
満足そうな顔のコトリに、美鳥は尋ねた。
「どうでしょうか?」
「口に入れるとねぇ、チョコの味がとろけて舌に乗っかってくるの。それをココア味のケーキが包むのね。モグモグするとそれが混ざってね。ゴッくんするまで美味しいよ」
「そうなんだね。早く私も味わいたいな。それともコトリちゃん分けてくれるかな」
コトリはソーサーを隠すしぐきをして、
「ダメェ、コトリのだもん。美鳥お姉ちゃんは自分の食べて」
「ハイハイ、そうさせてもらいます」
そんな微笑ましい2人を見れて、俺も頬が緩んでいくのを感じた。
そんな視線に気付いたのか、美鳥とコトリは俺を見て、
「「なに、ニシャニシャ私たち見てるんですか」」
きれいなユニゾンで抗議してきた。
「いやあ、幸せだなぁって思って」
「「なんなんですかね。もう」」
ここでも2人揃う。
和やかに時間が流れていき、
「じゃあ、行ってくる」
「いってらっしゃい。帰りが遅くなることなんてしちゃダメよ」
「コトリ!」
変に背伸びしたことを言って来るで美鳥が抗議した。そうして俺たちは学生マンションを後にする。
この後は街中に作られたイルミネーションを見にいくことになっている。会場に向かって歩いていると、
「一孝さん、このまま,2人で何処か行きません?」
なんか、ドキッとすることを彼女は言ってきた。そして立ち止まる。
「2人だけで、このイブを楽しみたいの」
頬を染め、目を潤ませて、俺を仰ぎ見てくるんだ。
「美鳥、何を」
赤く艶やかな唇が
微かに呟く。
「だめ?」
俺の胸が一瞬跳ねた。目が美鳥の赤い唇に釘付けで離れない。思わず美鳥を抱き寄せようと腕に力が入る。
でも、ヘタレともなんとでも言ってくれ、
「何言ってるの、イルミネーション見たら、家で鳥さん食べるんでしょ。美桜さん渾身の料理だよ。せっかくのケーキも食べないと」
俺は彼女に告げた。美鳥の目が揺らぐ。そして瞼を閉じた。
目を彼女は開くと、
「でしたね。私ったら何言ってるんだろう」
美鳥は拳を作って自分の頭をコツンと叩く。
「ミッチとカンナとも見に行こうって約束していたんだっけ」
ちょろっと舌を出して苦笑した。
「あ〜あ」
なんて呟いてるんだ。仕方ない,時間は早いけど、
俺は着ているコートのポケットからケースを取り出すと、
「美鳥,手を出して。左手でいいから」
美鳥は目を瞬かせだけど、したがってくれた。甲をを上に手を差し出してくれた。俺はケースを開けてそれを取り出すと、
左手を取り、その小指にプラチナのリングを通していった。
美鳥は、自分の小指にあるリングと俺の顔を何度か見て、
「薬指じゃないのですか?」
気持ちはわかる。でも、
「そっちは本番にとっておく。今は成就の期待を込めてだよ」
美鳥は涙を流しながら、
「ありがとうございます。宝物にしますね」
イルミネーションの会場に着くまで美鳥は俺の腕を抱き続けていた。時折,左手を掲げて喜びの声を出している。
そして到着すると、
「遅ァーい。いつまで。待たせるんです」
待ち侘びていたミッチさんの怒声で会場に迎えられた。そして、
「その、左手のリングについては後でじっくりと聞かさせていただきます」
さっそく、カンナちゃんには目ざとくリングが見つかってしまった。
それより、
会場には一面全部に散りばめられたLED電球で描彼だゲートが通りに沿って数十枚建てられていた。その下をギャラリーが歩いていくんだ。
「すごぉい」
そんな言葉しか出ませんでした。