「これが貴方の求めていた真実。どうかな?」
自身と同じ赤い瞳を持つ黒髪の少女は、ボサボサで灰色髪の小太りな男にそう告げた。男は腕を組みながら少女の語りを聞いていたが、語りが終わり少女が男を見つめると、男はふッと笑みを浮かべ――。
「ハッハッハッ!」
小さな家の中で家中に響き渡るほどの大きな笑い声を上げた。その様子に少し戸惑いを見せながら少女は「な、何がおかしいんですか……?」と問いかける。すると男は満面の笑顔で少女を見つめる。
「おかしいに決まってるだろ! ここまで追ってきた秘密の答えがそんな些細なものだったとか、笑いしかでないだろ?」
「……確かにそうですね」
「だがまぁ、お前の言う通りだと俺も思う」
男は笑みを浮かべながらも真剣な赤い瞳で、同じ瞳を持つ黒髪の少女を見つめる。
「語り継ぐこと。それが最も原始的で、最も確実な方法だ。なにせ、人類はこれまでそうして歴史を紡いで来たんだからな」
男は手に持っていた絵本に視線を遣る。もうずっと使われてきて年季が入っているのと、所々の絵が掠れているのがよく分かる。そんな絵本を1ページずつ男は捲っていく。
「大したもんだ。一番単純な方法で、まさか境会を出し抜くなんてな」
「でも、時々思うんです。それは私が自分の目的のために、他人の人生に土足で入り込んでいるだけなんじゃないかって」
ペラ、とページを捲る。何度も色を塗り直した跡が、その絵本にはしっかりと残っていた。そんな絵本のページを見て男は優しげな目線を少女に送る。
「お前、本当にそう思っているのか? 他人の人生に土足で入り込んでるだけだって?」
「だって私の目的のために、みんなはお姉ちゃんを呼び出して、失敗して――そうしてまた繰り返しますよね?」
「違うな」
「え?」
「お前は分かってないなぁ〜」
男は絵本を閉じて少女に近寄る。そんな男の姿を少女は少し遠慮しながら見上げる。
「俺達がそうしたいと思ったから、そうしたんだ」
「……どういうことですか?」
「……俺の娘――梢枝がな、言ってたんだよ。『こんなお話じゃあ悲しいよ。最後まで再会できないなんて』ってな。この意味が分かるか?」
少女は頭を横に振る。
「お前の物語に、心を動かされたんだよ。それは人間だったら誰しもが持ってる普遍的な感情――つまり愛だ」
「愛……?」
「そうだ」
男は窓の外を見つめる。そこは自身の母親が何度も沢山の物語を読み聞かせてくれた、男にとって忘れ難い場所の一つだ。
「俺達は必ず別れを経験する。そして別れを経験してから、その時間にどうしても戻りたくなるんだ。どうしてか分かるか?」
「……その瞬間が、温かかったから」
「その通り! つまりだな、お前の物語からもそんな温かさを感じたのさ。だから、今までお前の物語はこうして語り継がれてきた」
男は懐かしみながら母親の座っていたルッキングチェアに触れる。もうホコリだらけだが、男にとっては慣れ親しんだ温かい椅子のままだった。
「……安心しろ! 俺がお前の物語をハッピーエンドまで導いてやる! 幸い、まだ本のページは残ってるみたいだからな」
「でも、分かっていますよね? それをすれば必ず大災厄としてお姉ちゃんは蘇ります」
「三概神鏡を使えばな」
「?」
「三概神鏡を使う必要はない」
「……どういう意図でですか?」
「分かってるクセに質問するのかぁ? それとも、試してるのか? まぁどっちでもイイが――」
男は少女を背に玄関に向かって歩き出す。
「鏡を使う必要は無い。必要なのはこの物語と温かさだけ、それで十分だ」
「……ふふっ」
少女は満足げに笑みを浮かべ、そのまま光の中へと消えていった。
(俺はこんな世界にいちゃぁいるが、死後の世界を信じてはいねぇ。そこで幸せになれるんなら、みんなあっという間にそこに行ってるに決まってる。だがそれでも……最期の瞬間くらいは奇跡があってもイイと思うんだ)
「安心しろ。これが最後の大災厄だ」